ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

私にそんな要素があったのか!?

「えぇぇー、じゃあ私の防御力ってもう上がらない感じ?」

 そんなに必要ないかな? とか思ってはいたが、全く上がらないと言うのはそれはそれで困る。

「いや、貴様自身の力を扱えるようになれば進化した時に上限が上がるはずだ。まあ、進化のせいで追い詰められ、その解決法も進化と言うのは皮肉だがな」

 確かに。だが、同時に私らしいとも自分で思ってしまうのがなんとも救えない。

「恐らくだが、次にもし進化すれば物魔両方の防御のステータスが一時的にだが、大幅に下がる筈だ」

「なして!?」

 進化だよね? それ退化してね!?

「最初の頃は進化の度にステータスが少し全体的に下がっていただろう?」

「そう言えばそうだね。最近は下がんないで、普通に上がってたから忘れてた」

「最初期は未熟な魂に注がれた経験値だけでは器を形成出来ない。その為、ステータスの一部を捧げる事で魂の器の材料にしていたんだ。そして今回、貴様は修行により肉体が力に耐えうるものになりつつある」

「だから次に進化した場合は、防御面のステータスを大幅に捧げて、ステータス上限値が伸びるようになると」

「そういう事だ。それに防御面程ではないがその他のステータスも少し下がるはずだ」

「それも力に適応した証拠ね」

 ううむ。まさかの事態である。
 まあそうは言っても、実際もう一度進化方向を選べるとしても、結局同じ選択をするけど。
 もし仮に防御力も今より高く、平均的にステータスが上がったとしたら、ここまでの戦いで生き残る事は出来ただろうか?

 答えは否だ。

 このピーキーな性能だからこそ、今までなんとか無茶をしてこれた。これが平均的に上がっていたら、きっと何度も死んでいた場面ばかりだっただろう。

 当然苦労もしたが、それ以上に生き残る為にはこれ以上の選択はなかった。そう言えるだろう。

 そんな風に考えていると不意に視界が霞み、少し立ちくらみのような感覚を覚える。

「ムッ、話し込んでしまったな。どうやらここに留まれるのもあと少しのようだ」

「マジかぁ。まだ聞きたいことガッツリあったんですけど」

 そして戦闘中だという事をすっかり忘れてたわ。

「と、言う事でこれだけは伝えておかなければな。胸の辺りを見てみろ」

 そんな事を言って、鬼神が自分の胸を指さすので遠慮なく見ていたら、自分のだと怒られた。理不尽なり。

「ん? なんだこれ?」

 言われた通り服の胸元から中を見ると、胸の所に拳大の丸い模様のようなものが出来ている。

 しかも何やら鬼っぽい?
 大変だ! 背中じゃなくて胸に鬼が宿った!
 これはあれか? バックダブルバイセプスじゃなくて、フロントダブルバイセプスで見せつければ良いのか? それとも左胸にあるからサイドチェストとかだろうか?

『何を馬鹿な事を考えてるんですか?』

「いやいや、魅せ方は大事」

「時間が少ないのだが?」

『「すいません」』

 怒られてしまった。この場で鬼神が一番理性的な件。解せぬ?

「それでこれは何?」

「それは己の祝福を受けた者の中で、己の力と相性が良い者に現れる紋様だ」

「ほほう。わざわざ教えるって事はなんか効果でもあるのか?」

「ああ、それがある者はあらゆる力との親和性が高くなる。それに全てのダメージが受けるのも与えるのも少し上がるな」

「デメリット付きだった!?」

 色々な力に悩まされている私にとって、一つ目の効果は僥倖だ。しかし二つ目の方はいただけない。
 聞いてみた所、与える方は二割、受けるのは一割ほど上がるらしい。私の防御力で一割は中々なのではないだろうか? ……頑張って避けよう。

「それに加えて感情が昂りやすくなる」

「ああ、無視ですか。って、感情が昂りやすく?」

「そうだ。鬼は感情の昂り……特に怒りで戦闘力が上がる」

「ほう……つまり澪辺りが爆破されたら、それに怒れば私の眠れる力が覚醒出来るのか」

『何処の戦闘民族ですか?』

「でも金色と赤はクリアしたから次は青かな? とかって思ってるけど、そこんところどうでしょう?」

『青……ちょっと難しいですね』

「だよねー」

「……続けるぞ」

『「サーセン」』

 すっごい呆れられてる。

「今までの戦闘、貴様にも覚えはあるだろう?」

「いや、全く」

 私にそんな要素があったのか!?

『えっ? 無自覚だったんですか? 貴女、怒っている時や集中力が高まった時は角まで生やして、明らかに何時もよりパフォーマンスが上がりますよ』

「マジで!? 私にそんな鬼っ子要素あったの!? 角の発生条件もわかんないし、なんちゃってだと思ってたよ」

 まさかちゃんと角が出現していたとは驚きである。今まで全く気が付かなかった。

「まあ、貴様の角は普通の角ではなく霊角れいかくだからな」

「タイム! また知らない単語出てきた!」

「霊角は鬼の力によって形作られる角だ。普段は今のように普通の人間と変わらないが、集中力が高まった時、感情の起伏が起こった時、特に戦闘時などは鬼力で角が形成される。普通の角とは違い、周囲から魔力を吸収して鬼の力に変換する機能もあるぞ」

 そんな機能まであったとは!? うーん。あんまり自覚は無かったけど、確かに何回か何時もならもう少し苦戦しそうな戦闘とか、戦った後いつもよりも疲れてない時があったような? それがそうだろうか?

「本当に無自覚だったのか。まあ、貴様なら自覚すれば更に使いこなせるだろう。それよりも感情の起伏は、力にもなるがそれが過ぎれば動きに精細さが無くなる。だから鬼の戦闘は自分の感情をコントロールするのが一番のキモだ」

「わかった」

「それとさっきまでは防御について話していたが、基本的に鬼の力は防御よりも攻撃の時にこそ輝く」

 まあ、それはそうだろう。さっきから鬼神が防御について話しているのは、あくまで私の防御力が黙っていられないほど残念だからだもんな。
 ……うん。泣いていいかな?

「だが、鬼の攻撃方法は基本的に他の種族のような闘法はほとんどない」

「なんと!?」

 龍族でも闘法があったから、てっきり鬼にも色んな闘法があると思ってた。

『まあ鬼は自己強化して殴る蹴るだけで既に必殺の域ですからね』

 うーむ、納得……したくねぇなぁ。私はこんなに苦労しているというのに……くっ!

「だが、何故か貴様も使っていたが、鬼刃流を含めたいくつかはある。と言っても今ここで教えるには時間が足りないがな」

「残念」

 鎧武者を相手取るのにちょうどいい手札になると思ったんだけどな。

「だが鬼刃流の剣にしても他のものにしても基本は同じ、鬼の力を攻撃に転用したいなら、鬼門から体外に放出して使うのが一番効果的だ」

 なるほど。気や仙力の延長だからと体内で力を運用しようとしてたのがいけなかったのか。火薬のような物とも言ってたし、系統、方向性が同じ力と言えどそう考えれば……。

  個体ハクアの鬼の力に対する理解が深まりました。
 鬼力の運用効率が上昇します。
 鬼力に対する身体の適応率が上昇します
 鬼脈、鬼門がより活性化しました。

  スキル【鬼種の種】の発芽を確認。【鬼種の芽】に変化しました。
 スキルの変化に伴い、種に蓄積されていた魔力が鬼力に変換されます。
 個体ハクアの鬼力がより洗練されました。
【鬼種の芽】の効果により、鬼力の破壊力、操作能力が上昇しました。

 おおぅ。なんか一気に来た。えーと……なになに?

【鬼種の芽】
 スキル【鬼種の種】が発芽したスキル。
 魔力だけではなく、周囲の力を吸い上げ肉体を強化する。
 *以下個体によってスキルの内容が変わる。
 力に対する自身の自傷ダメージを減少させる。
 鬼力で攻撃を加えた回数分、任意のタイミングで相手に小ダメージを与える。

 なるほど。自傷ダメージの軽減と追加ダメージの蓄積か、小ダメージの計算が気になる所だが……確かにこれは私に都合の良いスキル内容だ。

 鬼神にこの内容を話すと、随分と防御よりの能力になっているらしい。普通は攻撃力がもっと上がったり、特定の攻撃が超強化なんてのが多いのだとか。
 これも私が欲した事という事をだろう。

「さて、本当にもう時間がないようだな」

 鬼神の言葉の通り、既に喋る事すら億劫なほど立ちくらみが酷い。
 目覚めればこのまま戦闘に突入する。それが頭を過ぎり知らずゴクリと唾を飲み込む。
 そんな私に気が付いた鬼神がニヤリと笑う。

「試練を乗り越えればその時には最高の装備を作ると約束しよう。それに己が知る鬼の闘法も次に来た時に教えてやる」

「それは是が非でも勝たないとね」

「ああ、負けるなよ」

 その言葉に私も笑って応ると、それと同時に意識が暗転した。
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 背中の痛みを感じながら覚醒した私の意識、そんな私の瞳に最初に映ったのは、私の命を今まさに刈り取らんと振り下ろされる刃だった。

「クッ!」

 確かに状況は知ってはいたが急展開がすぎる!

 そんな悪態を吐く暇もなく、壁に寄り掛かる体を滑るように下に動かし、刃を避けると同時に鎧武者の足の間を滑り抜ける。

 背中側の壁と地面を凍らせ、体を加速させたお陰で何とかギリギリ避けられた。

 鎧武者が残心を解きゆっくりとこちらに振り返る。ゾワリとしたものを感じながら私も油断なく構えを取った。

 さて、ここからが本番だ!

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