ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~
無駄です
「な……にが? ──ッ!?」
絶句するハクアが、何かが動く気配に油断無く構える。突然の事態に頭は動いてなくても身体が自然と動いたのだ。
ハクアの見据える先、倒れるベヒーモスの向こう側から、死体を飛び越えてハクアの前に鎧武者姿のナニカが現れる。
なんだ?
視線を決して外さず現れた鎧武者を観察する。
その禍々しくも洗練された意匠は、どこかハクアに既視感を覚えさせた。
あれ……まさか、っ!?
だが次の瞬間、目の前から鎧武者が消えたと思った瞬間、鎧武者の抜刀した刀がハクアの首筋に迫り、寸断する直前までの距離に現れた。
勘に任せ抜刀した動きに合わせ側転で躱す。だが、鎧武者は刀を振り切った勢いを殺さず、そのまま腕を引き絞り強烈な突きを放つ。
「グッ!?」
側転と同時に取り出した白打でなんとか攻撃を受けるハクアは、その衝撃を利用してなんとか鎧武者との間合いを離した。
吹き飛ばされたハクアが地面に線を描きながら体勢を整えようとする。
だが、鎧武者の猛攻は続く。
体勢が整う前に一瞬で距離を詰める鎧武者に反応して、ハクアもまた地面を踏み割り距離を詰める。
相手の得物は刀。
明らかな近接戦闘タイプだが、ハクアの勘は距離を開ける事を危険だと判断したからだ。
互いの得物を打ち合わせながら高速の戦闘が始まる。
最短距離で命を狙う凶刃に、時に避け、時に打ち落とし、時に逸らし、一つとして間違う事の許されないギリギリの先読みで対応するハクア。
そんなハクアの決死の攻防を見守るシーナ達も混乱の最中にある。
そしてそれは他ならぬアクアスウィードも同じだった。
「なんなんっすかアイツ!」
突如現れた鎧武者を観てシーナが叫ぶ。
明らかに異質な強さを持つ鎧武者に、ハクアが切り殺される未来を幻視しながら、無駄と知りつつも思わず声を荒らげてしまう。
「水龍王。お主の仕込み……ではないのだな?」
「いいえ。私も知りませんわ」
そんなシーナの声を聞きながら、ミコトが静かに問い掛ける。
それに答えたアクアスウィードもまた、この状況をなんとかする手立てを必死に考えるが、やはりその答えは否しか浮かばない。
「なるほど……そういう事ですか」
それぞれに戸惑う中、テアの冷静な大きくもない声が全員の鼓膜を震えさせる。
「どういう事っすか!?」
「白亜さんの持っている装備、地獄門の籠手には効果不明のスキルが付いているんです。あの鎧武者、獄門鬼はその効果によって現れたようです」
装備に限らず、道具には稀に効果不明のスキルがある。そういった物は条件を満たす事でアクティブ化するが、逆に言えば効果が発揮されるまで、能力も条件も不明な物が多い。
ハクアの手に入れた地獄門の籠手もその内の一つだ。
効果不明のスキルは様々な物がある。
しかしそれは使用者に恩恵をもたらす物だけではない。中には呪いのように使用者に害をなす物も当然存在する。
だが、そういった効果不明のスキルが付いた道具は、性能が高い事が多く、使う者が多いのも事実だった。
それはハクアも同じ。
そして今回、ハクアはその条件を満たした事で、地獄門の籠手のスキル効果が現れた。
「どうやらこのスキルは装備者がダンジョンに潜る際、一定の確率で地獄門シリーズの装備が全て集まり、それらを纏った獄門鬼として現れるようですね。勝てば全ての装備を、負ければ命を失うという事です」
「なんっすかそれ……そんなもんがあるんすか?」
「呪いが掛かった物に特に多いけどそうでない物にも稀に存在するわね」
「ええ、力のあるシリーズ装備は引き合う性質を持った物も多いですからね」
「いや、それも重要っすけどそうじゃなくて! 早くハクアを助けに──」
「無駄です」
「なん──」
「ですから無駄だと言ったんです。ここから最下層までどれほど時間が掛かると思っているんですか? それに仮に間に合ったとしてどうすると?」
「それは……もちろん助けに──」
「あそこはボス部屋。一度閉まれば決着がつくまで開きませんよ」
「いや、でも……そうっす。私らが全員で扉を破れば──」
「確かにそれは可能でしょう。ですがダンジョンの結界を壊す程の力。まず間違いなく中に居る白亜さんも消し飛びますよ」
「くっ、なんで、なんでそんなに冷静なんっすか!?」
「騒いだところでどうにもならないからですよ」
「それでも!」
「落ち着きなさい」
テアと話していても埒が明かないと考えたシーナが、ダンジョンへ向かおうとする。そんなシーナをアクアスウィードの冷静な声が待ったをかけた。
「水龍王様! でも!」
「シーナも観るの。ハクア……凄いの」
「ムニ?」
先程から自分とテア達以外誰も発言していない。
ムニの言葉でそれに気が付いたシーナは、ここでようやくハクアの戦いに目を向けた。
「ッ!?」
それは初めて観るハクアの本気の戦闘。
ここまでのような余裕のあるものではない、命を削るような死闘を行うハクアの姿。
そこに映し出されていたのは予想だにしない光景。
最初、獄門鬼を観たシーナは瞬間的に理解した。
アレには自分も勝てない──と、だからこそ自分もよりも弱いハクアではすぐに死んでしまうと思った。
それが焦りとなりテア達に噛み付いた。だが、目の前の映像に映し出されていたのは、ハクアが獄門鬼を相手に対等に渡り合っている姿だった。
もちろん危なっかしい場面は幾つも存在する。
だが、それでもハクアは一度でも受ければ寸断されてしまうような致死の攻撃を、先読みと技術でなんとか持ち堪えていた。
当初ここに居るテアとアクアスウィード以外の全員が、自分はハクアにも楽に勝てると考えていた。
それはこのダンジョン攻略を観ても変わらない考えだった。何故ならハクアの攻略は裏技的なものだと考えていたからだ。
だが、この相手は違う。
自分達ドラゴンの身体とステータスがあっても、獄門鬼の攻撃は容易に身体を切り刻む事は簡単に想像出来た。
だからこそ自分達よりも、獄門鬼よりもステータスの低いハクアでは、逃げる事もままならずに切り刻まれる。そう確信していた。
だが目の前に映る光景は全く逆の光景だ。
そして同時に考えたのは、自分ならばこの嵐のような致死の攻撃を、何分、いや何合打ち合う事が出来るのか? そんな考えが頭を過ぎっていた。
当初のようにハクアに勝てると思う者は居ない。
得物を打ち合わせ、互いの位置を激しく入れ替えながら、互いの僅かな隙を突き高速の剣戟が舞う。
互いの命を最短で取りに行くようなその戦闘は、予め決められた舞踏のように互いを舞わせている。
だが、それでも現実というものは甘くはない。
「ガフッ!!」
「「「ハクア!?」」」
一瞬、高速の戦闘の中で、ほんの一瞬ハクアが小石を踏んだ事で踏み込みが遅れた。
その一瞬を狙いしましたかのように獄門鬼の攻撃が、ハクアの身体に吸い込まれるように叩き込まれた。
幸いハクアも身体の前に無理矢理白打をねじ込み直撃は避けた。だが、その威力までは殺す事が出来ずに壁に叩き付けられてしまう。
「ハクア起きるの!」
「起きるっすよハクア!」
「起きるのじゃハクア!」
聞こえないと分かりながらも必死に声を上げる。だが、そんなシーナ達の心を嘲笑うかのように獄門鬼がハクアにゆっくりと近付いて行く。
そして、振り上げた刀がハクアへと振り下ろされた。
絶句するハクアが、何かが動く気配に油断無く構える。突然の事態に頭は動いてなくても身体が自然と動いたのだ。
ハクアの見据える先、倒れるベヒーモスの向こう側から、死体を飛び越えてハクアの前に鎧武者姿のナニカが現れる。
なんだ?
視線を決して外さず現れた鎧武者を観察する。
その禍々しくも洗練された意匠は、どこかハクアに既視感を覚えさせた。
あれ……まさか、っ!?
だが次の瞬間、目の前から鎧武者が消えたと思った瞬間、鎧武者の抜刀した刀がハクアの首筋に迫り、寸断する直前までの距離に現れた。
勘に任せ抜刀した動きに合わせ側転で躱す。だが、鎧武者は刀を振り切った勢いを殺さず、そのまま腕を引き絞り強烈な突きを放つ。
「グッ!?」
側転と同時に取り出した白打でなんとか攻撃を受けるハクアは、その衝撃を利用してなんとか鎧武者との間合いを離した。
吹き飛ばされたハクアが地面に線を描きながら体勢を整えようとする。
だが、鎧武者の猛攻は続く。
体勢が整う前に一瞬で距離を詰める鎧武者に反応して、ハクアもまた地面を踏み割り距離を詰める。
相手の得物は刀。
明らかな近接戦闘タイプだが、ハクアの勘は距離を開ける事を危険だと判断したからだ。
互いの得物を打ち合わせながら高速の戦闘が始まる。
最短距離で命を狙う凶刃に、時に避け、時に打ち落とし、時に逸らし、一つとして間違う事の許されないギリギリの先読みで対応するハクア。
そんなハクアの決死の攻防を見守るシーナ達も混乱の最中にある。
そしてそれは他ならぬアクアスウィードも同じだった。
「なんなんっすかアイツ!」
突如現れた鎧武者を観てシーナが叫ぶ。
明らかに異質な強さを持つ鎧武者に、ハクアが切り殺される未来を幻視しながら、無駄と知りつつも思わず声を荒らげてしまう。
「水龍王。お主の仕込み……ではないのだな?」
「いいえ。私も知りませんわ」
そんなシーナの声を聞きながら、ミコトが静かに問い掛ける。
それに答えたアクアスウィードもまた、この状況をなんとかする手立てを必死に考えるが、やはりその答えは否しか浮かばない。
「なるほど……そういう事ですか」
それぞれに戸惑う中、テアの冷静な大きくもない声が全員の鼓膜を震えさせる。
「どういう事っすか!?」
「白亜さんの持っている装備、地獄門の籠手には効果不明のスキルが付いているんです。あの鎧武者、獄門鬼はその効果によって現れたようです」
装備に限らず、道具には稀に効果不明のスキルがある。そういった物は条件を満たす事でアクティブ化するが、逆に言えば効果が発揮されるまで、能力も条件も不明な物が多い。
ハクアの手に入れた地獄門の籠手もその内の一つだ。
効果不明のスキルは様々な物がある。
しかしそれは使用者に恩恵をもたらす物だけではない。中には呪いのように使用者に害をなす物も当然存在する。
だが、そういった効果不明のスキルが付いた道具は、性能が高い事が多く、使う者が多いのも事実だった。
それはハクアも同じ。
そして今回、ハクアはその条件を満たした事で、地獄門の籠手のスキル効果が現れた。
「どうやらこのスキルは装備者がダンジョンに潜る際、一定の確率で地獄門シリーズの装備が全て集まり、それらを纏った獄門鬼として現れるようですね。勝てば全ての装備を、負ければ命を失うという事です」
「なんっすかそれ……そんなもんがあるんすか?」
「呪いが掛かった物に特に多いけどそうでない物にも稀に存在するわね」
「ええ、力のあるシリーズ装備は引き合う性質を持った物も多いですからね」
「いや、それも重要っすけどそうじゃなくて! 早くハクアを助けに──」
「無駄です」
「なん──」
「ですから無駄だと言ったんです。ここから最下層までどれほど時間が掛かると思っているんですか? それに仮に間に合ったとしてどうすると?」
「それは……もちろん助けに──」
「あそこはボス部屋。一度閉まれば決着がつくまで開きませんよ」
「いや、でも……そうっす。私らが全員で扉を破れば──」
「確かにそれは可能でしょう。ですがダンジョンの結界を壊す程の力。まず間違いなく中に居る白亜さんも消し飛びますよ」
「くっ、なんで、なんでそんなに冷静なんっすか!?」
「騒いだところでどうにもならないからですよ」
「それでも!」
「落ち着きなさい」
テアと話していても埒が明かないと考えたシーナが、ダンジョンへ向かおうとする。そんなシーナをアクアスウィードの冷静な声が待ったをかけた。
「水龍王様! でも!」
「シーナも観るの。ハクア……凄いの」
「ムニ?」
先程から自分とテア達以外誰も発言していない。
ムニの言葉でそれに気が付いたシーナは、ここでようやくハクアの戦いに目を向けた。
「ッ!?」
それは初めて観るハクアの本気の戦闘。
ここまでのような余裕のあるものではない、命を削るような死闘を行うハクアの姿。
そこに映し出されていたのは予想だにしない光景。
最初、獄門鬼を観たシーナは瞬間的に理解した。
アレには自分も勝てない──と、だからこそ自分もよりも弱いハクアではすぐに死んでしまうと思った。
それが焦りとなりテア達に噛み付いた。だが、目の前の映像に映し出されていたのは、ハクアが獄門鬼を相手に対等に渡り合っている姿だった。
もちろん危なっかしい場面は幾つも存在する。
だが、それでもハクアは一度でも受ければ寸断されてしまうような致死の攻撃を、先読みと技術でなんとか持ち堪えていた。
当初ここに居るテアとアクアスウィード以外の全員が、自分はハクアにも楽に勝てると考えていた。
それはこのダンジョン攻略を観ても変わらない考えだった。何故ならハクアの攻略は裏技的なものだと考えていたからだ。
だが、この相手は違う。
自分達ドラゴンの身体とステータスがあっても、獄門鬼の攻撃は容易に身体を切り刻む事は簡単に想像出来た。
だからこそ自分達よりも、獄門鬼よりもステータスの低いハクアでは、逃げる事もままならずに切り刻まれる。そう確信していた。
だが目の前に映る光景は全く逆の光景だ。
そして同時に考えたのは、自分ならばこの嵐のような致死の攻撃を、何分、いや何合打ち合う事が出来るのか? そんな考えが頭を過ぎっていた。
当初のようにハクアに勝てると思う者は居ない。
得物を打ち合わせ、互いの位置を激しく入れ替えながら、互いの僅かな隙を突き高速の剣戟が舞う。
互いの命を最短で取りに行くようなその戦闘は、予め決められた舞踏のように互いを舞わせている。
だが、それでも現実というものは甘くはない。
「ガフッ!!」
「「「ハクア!?」」」
一瞬、高速の戦闘の中で、ほんの一瞬ハクアが小石を踏んだ事で踏み込みが遅れた。
その一瞬を狙いしましたかのように獄門鬼の攻撃が、ハクアの身体に吸い込まれるように叩き込まれた。
幸いハクアも身体の前に無理矢理白打をねじ込み直撃は避けた。だが、その威力までは殺す事が出来ずに壁に叩き付けられてしまう。
「ハクア起きるの!」
「起きるっすよハクア!」
「起きるのじゃハクア!」
聞こえないと分かりながらも必死に声を上げる。だが、そんなシーナ達の心を嘲笑うかのように獄門鬼がハクアにゆっくりと近付いて行く。
そして、振り上げた刀がハクアへと振り下ろされた。
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