ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

今なんつったんすか? 聞き間違え?

「いやー、ありえないっす。なんっすかこれ? こんなんダンジョン攻略でもなければ、攻略も速すぎっすよーーー」

「ムーもそう思うの」

「はぁーー。これであいつだからしょうがないと思ってしまうのが嫌だ」

 三者三様に不満を露わにするシーナ、ムニ、トリス達だが、その視線の先、不満の元となっているハクアは、近く十階のボス部屋へと続く転移陣の前で最後の休憩を取っている。

 その姿を眺めながら、この若いドラゴン達にこの映像を見せられた事は僥倖だ。と、アクアスウィードは考えていた。

 ここに集まった面々は里の者達に比べれば柔軟な思考の持ち主だ。
 だがそれでも、ドラゴンという強力な力を持つ種族に生まれた事で、力押しになりがちな傾向がある。
 自身の特性を最大限に活かすそれは悪い事ではない。だが、それと同時に他の戦い方も知らねば搦手に弱くなるのも事実。
 その点ハクアのように、生き残る為に全ての意志を傾けた柔軟な思考は得難いものだ。
 ダンジョンを攻略するのではなく、ありとあらゆる手段を用いてダンジョンを殺し尽くすその様は、力以外の強さとはどんなものか知る良い機会になった。

 とはいえだ、まさかハクアを一人でダンジョンに潜らせるのが、ここまで面白い結果になるとも思ってはいなかった。

 アクアスウィード自身、この一度でハクアがダンジョンを制覇する事は不可能。そう考えていたからだ。

 そんな事を思いながら、アクアスウィードはハクアの攻略を思い返す。
 ▼▼▼▼▼
 トリスのブレスに追い立てられたハクアが下の階へと消える。それを見送った面々はアクアスウィードの龍眼を使いハクアの事を追い掛けた。

 龍眼とは眼力の一つ。

 個々により能力はそれぞれだが、龍王クラスのものともなれば、千里眼の能力くらいは当然の如く備えている。里の中程度であれば動向を把握するくらいはわけないのだ。
 アクアスウィードはその能力を使い、全員でハクアの動向を見守れるようにした。

「あぁ、懐かしいっすね。この暗闇の階」

「ムーはこの階で二回も失敗したの」

「トリスはどうっすか?」

「燃やしたな」

「思った以上の力技っすね!?」

 自分達が攻略した時の事を思い出しめいめいに喋り出すシーナ達。気分はさながら受験生を監督する試験管だ。
 そんなシーナ達にアクアスウィードは、貴方達は何度目でダンジョンをクリアしたのかしら? と訊ねた。

「えーと、私は五回っすね。四階の罠で苦労したっす」

「ムーも五回なの。九階で苦労したの」

「妾は三回だな」

「「チッ……」」

「お前ら……」

「あらあら中々優秀ね」

「僕は十回です」

「そう。それでも十分優秀よ」

「さてさて、ハクアは何回でクリア出来るっすかね?」

 アクアスウィードの言う通り、レリウスの十回目での攻略も十分優秀な成績だ。
 むしろそれを半分以下の試行回数で攻略しているシーナ達方が異常なのだ。その点は次期龍王と目されているだけの実力である。

 そしてここに居るのは龍の里の中でもトップの層、そんなシーナ達だからこそ、知らず知らずドラゴンではないハクアの事を無意識の内に下に見ている。
 そんな空気が透けて見える発言だった。

 しかしそれは事実だ。
 実際にハクアのステータスはこの場の誰のものにも及ばない。ステータスだけで言えば大人と子供ほどの差があるのは歴然なのだ。
 そしてハクアは知らされていないが、このダンジョンは龍神の力で作られたダンジョンだ。
 このダンジョンで倒れたとしても、探索者はある一定のダメージで、アクアスウィード達の居る一階へと戻される仕組みになっている。正真正銘訓練用のものなのだ。

 つまりこのダンジョンは死ぬ事がない。もちろん例外として、外部から入り込んだ他の探索者に殺されればその限りではないが、それは既に確認済み。

 だからこそシーナ達の視線は、自然とハクアがどこまで行けるのか? そんな試すものになっているのだ。

 だが──

「えぇ〜」

「なんで普通に歩いてるの? あっ、障害物もちゃんと避けてるの」

「しかもあの暗闇の中あの距離で正確に当ててるな」

 感覚情報の中でも大半を占める視覚。それを突然奪われれば、ドラゴンといえどその状況に慣れるまで時間が掛かる。
 しかもこの地下一階の暗闇は、通常の視界だけでなく微量だが気配や魔力を乱す効果もある。
 つまり気や魔力で相手を察知する事も難しい場所なのだ。

「まあ白亜さんは普通にエコーロケーション。つまり音の反響で周囲を観るすべを会得していますからね」

「そんなんありっすか!?」

「いや、そもそもなんでそんなもの会得している?」

「遊びの延長ですね」

 トリスの問いに事も無げに答えたテアは、サバゲーで暗闇に対応する為だけに、全盲の人間と同じ。いや、それ以上の精度で会得したのは記憶に新しい。

 その後もなんの苦労もなく、大広間に巣食う無数のコウモリを駆除するハクアにシーナ達の驚愕が続き、当の本人はそんな事も知らずに、さっさと下の階への階段を降りている。

「自分、ここクリアするのに一時間は掛かったすよ。それを三十分も掛からずにクリアとか……」

「まあだが、次は更に面倒な階層だったな。植物系モンスターの癖に火属性耐性持ちばかり、しかもそれが普通の木にまで適用されてる。何より、どこからどう襲われるかわからないのは、妾もてこずったからな」

「ムーは楽勝だったの」

「ムーは防御力高いっすからね。私は苦労したっすよ。あそこの奴ら攻撃力がやたらめったら高かったっすからね」

 ハクアにはキツい筈。そんな風に考えながらハクアの事を観ていると、階段を降りきったハクアは密林を前に呆然としている。

 やはりそうなるか。そんな空気が漂う中、呆然としていたかに見えたハクアは、不意に一言「燃やすか」と、呟いた。

「はっ? 今なんつったんすか? 聞き間違え?」

「燃やすって言ったの」

「あの森は火属性耐性が付いてるとわかっていないようだな」

 驚く面々の中、トリスは呆れたように呟く。
 しかしハクアは着々と水魔法を使い何かを続けている。そしてそのまま何か樽のようなものを取り出し、森に幾つか転がすとその内の二、三個程をその場にぶちまけ液体を振り撒いた。

「あれは何? なんか金属の棒みたいのを平たい金属で擦ってるの」

 そして何故かハクアは魔法を使わずに、取り出した道具を使い何かをしている。
 それを観察していると、ハクアの手元の道具から火花が起こり、ぶちまけた液体に引火した。
 そして火は瞬く間に、森に転がす際に開け放たれた蓋から零れ落ちた液体を伝い、いっきに炎へと成長して木に引火し始めた。

「えぇ〜!? なんで火属性耐性付いてる木があんなに簡単に燃えてるんっすか!?」

「トリス。本当に火属性耐性付いてたの?」

「そのはずだ。実際妾の炎でも焼けなかった」

「トリスの炎でもっすか!? でもハクアの付けた火は簡単に燃え移ってるのは、なんでなんっすか? というか、燃えるからってダンジョンの一階層、まるっと焼くとか何考えてんっすか!?」

「しかも風魔法で全体に火が回るようにしてるの」

「燃えた理由は分からないが、やっぱりめちゃくちゃだな」

「……貴女達、火属性と普通の火の違いがわかっていないのね」

「えっ!? なんか違うんすか!?」

「はぁ……。良い機会だから教えておきます」

 こうしてハクアの料理風景を観ながら、アクアスウィードによる火属性と普通の火の違いについての講義が始まったのだった。

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