ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

ここまでの拷問は無駄では無かったのだ!!

 目を覚ます。いや、目は最初から覚めていたのかもしれない。

 何故ならここは見慣れた精神世界だから──。

 精神世界パートは一回終わったのに、またここに来るとか一回で済ませて欲しいんですけど。

 それにしても今回は何が起こるのだろうか?

 辺りを見回しても何も無いまっさらな世界。今までのように原因が目の前に鎮座していない今回は、一体どうしろというのか。

 そう考えたからだろうか、私の目の前の空間がたわみ始め、それと同時に地面に黒い影の水溜まりが現れる。

 そしてズズズッと効果音がしそうな感じで、真っ黒なドラゴンが這い出してきた。

「チカラを示せ」
「力?」

 這い出してきたドラゴンはどこから出しているかよく分からない音声で、私の頭の中に直接語り掛けてくる。

「チカラを示せ」

 いや、それだけしか言えんのか。

 心の中でツッコミを入れた瞬間、体が全て出現したドラゴンが私に向かって突進を始める。

 それを見た私は──

「ストープッ!!」

 と、大きな声で制止してみた。

 すると見事に急ブレーキをかけたドラゴンは、ちょこんと待ての体勢で急停止した。

「いやいやお前さん何いきなり始めてんの? 力を示せって事は私の実力を測ろうとしてたんだろ? ならちゃんと準備出来るまで待つのが筋だろうよ」

 私の言葉を黙って聞くドラゴンは、最初こそ頭を捻っていたが、一つ頷くと今は大人しくしている。

「ちょっと準備出来るまで待ってろ」

 コクコクと頷くドラゴンを見て、意外と素直で可愛いではないか。などと思いながら、これまでの経緯と発言、状況を整理する。

 まずここはいつもの精神世界、つまり私の中だ。
 その中でいきなり現れたのが目の前の黒いドラゴン。

 そしてこいつは私に力を示せと言ってきた。

 ここまでは良い。

 更に思い出すのはここまでの会話。

 おばあちゃん達は私の竜の力を目覚めさせると言って、それを起こす為にショックを与えると、私に魔力をぶち込んできた。
 と、いう事は今まで私が使っていた竜の力だと思っていたもの、称号などで手に入れたスキル。

 あれはドラゴンから見たら竜の力では無いらしい。

 ドラゴン達からする竜の力とはドラゴンコアを目覚めさせ、そこからなんらかの力を発現する事を指すのだろう。

 と、すると……今、目の前で私に力を示せと言っているコイツは、私の中で休眠状態にあったドラゴンコアそのものだと推測出来る。

 つまり……

「こいつに力を示す事でドラゴンコアから力を引き出せるようになる?」

 コクン。

 頭の中で整理した情報が口から漏れ出る。

 目の前では私の口から漏れ出た言葉に、ドラゴンがコクンと頷いてる事からどうやら推測は当たっているらしい。

 しかし、私の修行とかいう名前の拷も……では無く、地獄……どっちも変わらんな。は、そろそろコンプラに引っかかると思うんだけど、いつになったら働いてくれるのだろうか? 

 フルフル。

 ……えっ? ダメ。修行は元々そういうものだからコンプラの範囲外? 

 コクコク。

 ガッデム異世界。

 しかし、首を振ったり頷いたりしてるだけなのにしっかりと伝わってくる。

 その姿は正しくドラゴンなのだが、どうにも真っ黒な大型犬に見えてくる。きっと今もちょこんと座り、尻尾をフリフリしているからだろう。……おもっくそ撫で回したい。

 ドラゴンコア……長いな、コアは私の考えにいちいち反応して、首を振ったり頷いたりしてリアクションしてくる。しかもそれだけなのにしっかりと何を言わんとしているのか理解出来るのだ。

 もうこれは以心伝心。いや、元々私の中に居るのだから一心同体と言うべきか。それなら考えが伝わっていてもおかしくない。

 しかし、これアレだな。

 フゥ……と、一息ついて……

「これ絶対、普通のドラゴンなら存在すら知らずにスルー出来る案件じゃん! だってその証拠に誰もこんなんあるとか言ってなかったもん!」

 この世界、どんだけ私の出自の元ゴブリンってのが気に食わねぇんだァー。

 フゥー、フゥーと息を荒げて叫びながらコアを見ると、素知らぬ顔をして見事に顔を逸らしている。

 ちくしょう!

 私の反応を確認したのかコアは顔を正面に向け直す。何も言わない。しかし、その目はまだ始めないの? と、私に無言で問い掛けている。

 くっ、いや待てよ? 私の中に勝手に居座ってるんだからショバ代……もといみかじめ料を請求しても良い気がする。主に手加減という形で。

 フルフルフルッ!

 ダメ? 手加減は出来ないし。何よりも自分を勝手に取り込んだのは私だから自己責任?

 コクコクコクコク!!

 チッ、融通の効かない。

 ジーッと私の事を見詰めるその視線に負け、どうぞと手を差し伸べる。するとその意志を受け取ったコアが再び突進を開始した。

「おっと!」

 予想よりも初速が早い。

 とはいえ、最初から来る事がわかっていれば、避けられない程のスピードではない。
 そして何よりも私自身が違った。

 これ凄いな。

 身体が進化に適応した。言葉にすればそれだけだが、その効果は私が想像するよりも数段上のものだった。

 身体のキレ、反応速度の上昇、そして最も違うのは身体が考えたイメージ通りに動く事だ。
 今まで出来ていなかった訳では無いが、それでも考える通り、イメージそのままに動き、反応するには多少のズレがあった。
 今にして思えばそれこそが、進化に身体がついていっていなかった弊害そのものだったのだろう。

 自分が感じているスペック通りの動きがトレース出来ない。
 僅かな反応、時間にすれば刹那の時にも満たないそれは、動きがより速く、高次に、複雑になればなるほど如実に現れる。

 更に魔力がマナに、気力が仙力に置き換わったのが大きい。

 魔力、気力に比べて出力がまるで違う。

 独特な扱いにくさはある。だが、それでも今までの暴れ馬のような扱いずらかった、鬼や竜の力に比べれば可愛いものである。
 仙力を扱えるようになった事で、ぶっつけ本番ではあったが鬼の力も今はよく馴染んでいる。


 鬼の力を使うコツは肉体エネルギーと精神エネルギー、そして鬼の力を1:1:2の割合で使う事だよ。


 おばあちゃんに吹き飛ばされる直前に耳打ちされたアドバイス。
 反応する暇さえなかったが、ソウに言われた言葉の通りに調整した結果、今までどれ程危険な状態で使っていたか、冷や汗が溢れ出そうな程にそれを理解する事が出来る。

 そして何よりも……体の辛さが全然違えや。

 今までは常に爆弾抱えてるイメージだったが、今の私にはそれが全くと言っていい程無い。

 身体の強化、マナと仙力の修得、そして鬼の力への適応とコントロール方法。
 この全てが私のパフォーマンスを飛躍的に向上させている。

 ここまでの拷問は無駄では無かったのだ!!

 その事実に泣きそうになりながら、コアの攻撃を避け続け行動パターン、攻撃範囲を収集していく。

 しかし、さっきチラ見したけどステータスは本当に変わってなかったな。

 あまり詳しくは見えなかったが、テア達が言っていた通りステータスに変化は無く、称号とスキルに変化が起こっていた。

 これだけ変わってステータスに変化が無いって事は、本当にこの世界は魂の力の発露が肉体に影響してんだな。

 力が上がっても筋肉が増える訳では無い。それは防御、敏捷が上がっても同じ事だ。
 それでも実際ステータスが上がると現実に効果が現れる。
 ゲームならば仕様の一言だが、現実ならばおかしな事だ。

 力を生み出すのは筋肉。厳密に言えばもっと色々とあるが大まかに言えばそれは変わらない。
 その筋肉が肥大化しないにも拘わらず力が上がる。もっと言えば子供の細腕でも、ステータスさえ上なら力でマッチョの男を圧倒できる。

 なんとも不思議だがこの世界ではそうなのだ。

 しかしここで不思議な事がある。

 例えばゴーレム。言わずと知れた岩のモンスターだが、中には金属で出来たの個体なんてのも存在する。
 もちろんそいつらは防御力も高いのだが、同じ防御力でも岩を切れる奴が、金属を切れないなんて事も普通にあるのだ。

 それ普通じゃね? と、思うかもしれないがそれはおかしい。ステータスだけで判断されて肉体のスペックが関係無いなら、同じ防御力であれば同じ結果になってもいいはずなのだ。

 だから私はこう考える。

 この世界のステータスは肉体に上乗せされるパラメーターなのだと。
 そして肉体のスペックはステータスには記載されない、一種の隠し要素なのではないだろうか。

 魂は肉体の影響を受ける。だからマッチョで筋肉が多い奴は、地球のようにステータスにも力に偏った変化が起こる。
 防御力、敏捷も同じように肉体のスペックによってステータスに変化が起こり、割り振りが決まる。

 私はそう考えている。

 だとすれば、鬼の力に耐えうる肉体に変化がした私が、今後どのようになるのか。とても楽しみである。

「って、やば!?」

 考え事をしながらの代償。

 その結果見逃したブレスの予兆に慌てて飛び上がる。

 だが──

 範囲がでかい!

 私の【結界】で防げる威力ではない。今から足元に【結界】を出してもあれから逃れる程飛び上がるには時間が足らない。

 いくつもの答えに不許可を出し、迫るブレスの焔を見詰め続ける。

 ダメか……。

 しかしその瞬間、諦めかけた私の背中を空中に引っ張り上げるように力が加わった。

「えぇ〜……」

 間一髪間に合いすぐ様後ろを見るがだれも居ない。

 その代わり……私の背からバサバサと音を立てる翼が生えていた。

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