ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

愚痴愚痴愚痴愚痴とウザったい

 うん。これあれだね。間違いなく腐毒竜だね。前みたいに腐ってないけど面影あるわぁー。

 目の前に対峙する相手を食い尽くした過去を思い出しながら、相手の出方を伺う。

 下手に動いたら負ける。……いや、何にだろう?

「初めまして。で、良いのかな?」

 と、一人絶賛パニクっていると黒いドラゴンが親しげに話しかけて来る。

「あー、実際はそうだけど、私としてはアンタの記憶、無理矢理ぶち込まれたからそんな気もしないなぁ」
「母上が済まないね」
「まあ、別に良いけど」

 あのおばあちゃんに勝てる気もしないしね!

「それよりも、私も呼び方はアークでいいのか?」
「構わないよ」
「それであれ、威厳ある喋り方とかしなくていいの? 僕じゃなくて我とか人前では言ってたんだろ」
「記憶を全部見られて自分を知られてるのに威厳も何もないよ」
「まっ、そりゃそうだ」

 最後の姿からすると随分と落ち着いてる。軽口を叩きながらそんな風に思って見ていると、アークは意を決したような顔で私に問い掛ける。

「僕の記憶を見た君に聞きたい」
「答えられる事なら」
「僕は……どうするべきだったのかな?」

 それはずっと抱えていた疑問だったのだろう。

 けどその答えはきっとこいつ自身わかっている。それでもそう聞いてしまうのはそれを認めたくないからか。

「どうするべきかなんて知らねえな。けど一つ言えるとしたら、真摯な気持ちから目を背けて気が付かない振りをした。それだけだろ?」
「はっきりと言うね」
「遠慮する必要がないからな。自分自身で認めたくないのか知らんが、とっくに出てる答えを人に訊ねるんだ。はっきりと言った方が良いだろ?」
「確かにそうかもね」

 アークは俯きながら私の言葉を静かに認めた。

「僕はきっと怖かったんだ。この気持ちに気が付く事が、僕は竜で彼女は人間で……気持ちが通じてしまえば、きっと彼女が先に死んでしまう事に耐えられない。だからあの時、彼女の目から逃げたんだ」

 思いを全て吐き出すように、泣きながら叫ぶように気持ちを吐露するアーク。

 アークの記憶を想いを体験した私には、この言葉がどれほど重いものか分かる。

 だからこそ私は、そんなアークに近付くと……思い切り下から顎を蹴り上げた。

「グハァッ!」

 顎を蹴り上げられたアークはドォンと音を響かせ盛大に裏返る。無防備なところに食らった一撃は、巨体のドラゴンおも一回転させた。

 ふっ、決まったぜ。

「な、何するんだ!」

 おおう。流石ドラゴン。これくらいの攻撃じゃダメージないし復活が早い。
 うーむ。ドラゴンへのツッコミはもっと激しめでもいいのかぁ。加減が難しいな。

「いや、何するも何も、いつまでも愚痴愚痴愚痴愚痴とウザったい。女々しいぞトカゲ」
「ト、トカ──」
「だいたいあれから何年経ってんだよお前。腐毒竜になったお前倒した後に、足跡追えるだけ追っても千年位前じゃねえか。人の中でジメジメした空気出すの止めてくれる。カビそうで嫌だわ」
「うぐ」

 約千年抱えた想いを思いっきり刻まれてアーク君は瀕死になっている。
 そんな姿を見ても私の追撃は止まらず、遂にアークは完全にノックアウトされたのでした。まる。

 ふぅ。勝った。

「まさか……ここまで言われるなんて……」
「むしろ言われないとでも思ったか?」
「それは……」
「そもそもお前は私が何を言ったら満足する? 出来る理由ないだろ。だって私はお前の過去を知っただけの部外者なんだ。お前が求める言葉もそれを言えるのも私じゃ──」
「わかってる! わかってるさ。でも……それじゃあ……だって彼女はもうとっくの昔に居ないんだ。それなのに……」

 どうすればいい? 吐き出しそうになったその言葉。しかしその言葉だけは無理矢理に飲み込むと、アークは力無く笑ってみせる。
 その顔には様々な感情が入り混じっていて、見ているこちらの方が心を掻き乱されそうだ。

 だがそれも当然だろう。そうやって、何年も何年も気が遠くなるほどの月日を後悔してきたのだ。

 だからこいつはここに居る。

 そんなアークに背を向けて私は歩き出す。

 私はただの部外者だ。なにを言ってもそれはアークが本当に求めている答えにはならない。
 記憶を知って過去を見て、それだけの人間が言っていい事など何も無いのだ。
 もし仮に求めている言葉許しを言ったところで、それは本当の意味での救いではないのだから。

 アークと話しながら観察していたこの場所。
 初めはただ暗いだけの空間かと思ったが、どうやらここは半球状の黒い膜に覆われたドームの中らしい。

 私は目的の場所であるドームの端まで辿り着くと、黒い壁に手を触れる。
 するとジュッと音を立て、触れた手の平を焼き焦がしていく。

「無駄だよ。その壁はどうやっても壊れない。僕も何度も試したけれどヒビすら入らなかった」
「だろうね」

 やっぱり。これはアークの心の拒絶が生んだ壁であり、同時にアークを蝕んでる呪いか。
 レティと呼ばれていた彼女。
 その彼女を殺した瞬間に溢れ出した負の感情、そしてそれに伴って現れた足元の魔法陣。

 感情を媒介に発動した魔法陣のせいで邪竜に落とされたってところか。

 まあ、今となってはその理由も目的もわからんからどうでも良いけど。

 今もまだ後悔に苛まれているアーク本人にこれを壊す事など無理だろう。
 これはアーク自身が答えを出し、乗り越えなければ壊す事など出来ない。だがその本人が救われない答えしか持たないのだから堂々巡りだろう。

 本来なら。

 何度も言うが私はただの部外者だ。

 だが、この場所はアークの中であると同時に私の中でもある。だから出来る筈だ。心の底から信じれば、信じさせれば出来る。

 その証拠がアークには・・・・・聞こえていない・・・・・・・この音なのだから。

「《唄い語れ 神装・フェンリル》!」

 キーワードを唱えた瞬間、私から白い稲妻が迸り辺りを照らす。そしてその光が収まると変身が完了する。

 ……なんでしょうかこのエフェクトは? 今まで地味だったからテコ入れでも入ったのだろうか?
 そしてなんで【暴喰の黒衣】なんて名前の、邪神からドロップした装備品が、神の力なんていう聖属性の力に対応して形が変わっているのだろうか? 万能過ぎないか? いや、いいんだけど。

 神装の新たな装いは、尻尾や獣耳と同じ毛がファーのように付いている、獣の革と最低限の金属を使ったような作りになっている。
 その最低限の金属も見覚えがある事から、恐らく素材は地獄門の鎖が変化した、グレイプニールの鎖と同じ物だろう。
 なんと言ったらいいか説明が難しいが、物としては白を基調とした手首から肘までを守る手甲、足首から膝までの脚甲、腰にある紐で前を閉めるだけの毛皮のコートとショートパンツ。
 上に至っては肩紐の無い、毛皮のスポーツブラのようなバンドだけである。

 うう、足は一応黒のニーソが少し豪華な感じになって着てるけど、全体的に肌出過ぎじゃね? こういうのはアリシアとか瑠璃に着て貰いたいんだよ!

 だが、悔しいかな今までよりも遥かにそれが頼もしく感じる。パワーアップは確かにされているようだ。

 そして今はそれどころではないので敢えてこの事は忘れます!

 変身が終わった私は再び壁に近づく。

 心の壁であると同時に呪いでもあるのなら、物理的な力よりも神力の方が効くはず。

 息を吸って吐く。

 そして

「おおおおおぉぉぉおお!」

 雄叫びを上げながらガムシャラに一点を狙い、神力を何度も何度も叩き込む。

 ぎっ、キッツ。

 壁に拳が当たる度に私の身体から血が溢れ出す。

 それも当然だ。今まで私は自分が制御出来る範囲でしか力を使っていなかった。それを今は身体が壊れる事も厭わず全力で叩き込んでいるのだ。

 一打毎に身体の中の力が溢れ身体を傷付ける。血濡れになる身体に自己再生は追い付かない。

 元々フェンリルモードでは【邪神体】のスキルは効果が落ちてしまう。それでも【邪神体】の時程ではないが【自己再生】は、効果を発揮してくれる。
 だが今回はそれでも追い付かない程に、再生回数スピードを上回って私の身体が壊れていく。

 骨が砕ける。

 筋肉が千切れる。

 血が舞い飛び。

 身体中が軋む痛みに耐えながらひたすら壁を攻撃し続ける。

「やめるんだ。ここは君の心の中でもある。そんな中でも傷付くと言う事は」

 わかってる。

 ここは精神の中、そして今の私は精神体という事になる。その身体が傷付けばどんな後遺症が本体に出るかは分からない。
 そして精神体という事は、回復魔法も効かない可能性もある。

 だけど

「それがどうした! 私は私のしたい事をしてるだけなんだよ!」

 一打壁を打つ毎に重機のような轟音を立てる。
 それでも壁はビクともしない。それでも私はただひたすらに同じ事を繰り返す。

「後味の悪いバッドエンドなんざクソ喰らえだ。そんなものは私の趣味じゃない。だから私は私の望むものを手に入れる! その為ならこんな壁ぐらいぶっ壊す!」
「なんで……そこまで」
「何度も何度も諦めたんだろ。でも、それでもお前は望みを持ち続けたんだろ。だったらいつまでもこんなところに居るんじゃねぇよ!」
「でも、彼女はもう居ないんだ! それなのに!」
「それでもだ! それでもお前は私にあんなものを見せてまで答えを探したんだろ! 自分以外の誰かが見れば何かがあるかも知れないって」

 感情の昂りで力が暴走しそうになるのを必死で抑えながら言葉を続ける。

「でもそんなもんねえんだよ! 結局はお前だ。お前が前を向いて見るしかないんだよ! 受け入れて、抱えて、どんなに苦しくても前を見るしかねぇんだよ!」

 こんな言葉にどれほど力があるかなんて分からない。それでも私はここに立つ部外者として一つだけ言わなければいけない。

「今の下を向く事しか出来ないお前で、彼女に本当の気持ちなんて言えんのかよ! そんなざまで彼女に何を言えんだよ!」

 アークは何も答えない。

 だが、次の瞬間今までビクともしなかった壁にピシリと亀裂が入る。
 後ろを向けばアークはしっかりと前を向き私の事を見ている。

「本当に……僕は成長しないな。そうだね今の僕を見て彼女が言う事なんて僕が一番知ってる筈だ」

 その顔に今までのような表情は浮かんでいない。

 それを見て自然と口の端が上がるのを感じる。
 だが一々そんな事は口にしない。

 再び前を向いた私は壁に入った亀裂を見る。

 大きくはないがそれでも確かに亀裂は入った。なら次は力でぶち壊す。

「【鬼珠】解放! 変幻・酒呑童子!」

 魔力と気力が渦巻き私に収束すると、それが形を成し姿が変わる。

 どうやら【暴喰の黒衣】は此方にも対応してくれたようで、前の和装ロリの格好に爪の付いた篭手だけでなく、甲冑に着いている草摺や大袖が邪魔にならない程度に追加され、防御力が増しているように思う。

「行くぜ! オオォァォァアアア!」

 先ほどよりも更に大きな音を立てながら乱打を繰り返す。その度に亀裂は大きくなりドームが揺れる。

 もう少し。なら次はコレだ!

「鬼神の巨腕!」

 私が叫ぶと両腕の篭手と大袖が外れ宙に浮く。

 するとそれらが私の鬼の力を吸い取り、鎧で出来た二つの巨腕となって形作られる。

「行っけえぇぇ!」

 巨腕は私の動きと連動するように、今までよりも更に大きな音を立て壁を攻撃する。

 鬼神の巨腕は防具を大きな腕のように作り替え、武器にするスキルだ。
 動きは私の腕と連動しており、細かな操作も出来る。対大型戦闘に用いるスキルだ。
 欠点としては大きな巨腕は攻撃力も大きいが隙も大きく、通常戦闘では扱い辛い事、防具で出来た武器とはいえダメージは私にはフィードバックする位だ。

 それでもその効果は大きく、亀裂は次第に大きくなりどんどんドーム全体へと波及していく。

「これで終わりだァ!」

 ありったけの力を込め最後の一撃を繰り出すと、バリンと音を立てドームが崩れ去っていく。

 そして

「な……んで」

 ドームの向こうには一人の女の子が立っていた。

 服はボロボロで何度も何度も壁を叩いていたのか、腕は火傷と打撲で酷い有様だ。
 だがそれでもサラサラと流れる漆黒の黒髪に、夜空のような深い色の吸い込まれそうな黒い瞳は変わらない。

「アーク……」

 大きな声を出し続け、切れた喉からは掠れたような声が出る。

「レティ……」

 私の後ろから信じられないものを見た、けれどこれを幻と思いたくない。そんな思いの詰まった声が聞こえる。

 そして彼女は走り出す。

 私を横を駆け抜け最愛の元へと。

 そして彼も光を発し人間の姿になると、そんな彼女を腕の中に抱き締めた。

 もう絶対に離さないとでも言うように。

「ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く