ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

やらかしポイントはここかぁぁ!!

「少し待って頂きたいのですがよろしいですかナルノヒス様」

 遂に私の番が回って来たのでふっかけてやろうかと思ったのに出鼻をくじかれた。無念。

『何か?』

「私が受けた報告では彼女の屋敷は彼女が建てた物らしい。と、言う事は、彼女がこちらの金額を聞いて値段を調整することが出来るのでは?」

 チッ! 狙いがバレたか。

 必勝の手を先んじて潰されて悪態を吐くとまた睨まれた。

 私、なんか知らんが睨まれてばっかりだな。
 まあ、必勝の手とか言っといて、そんなの全く期待してなかったから別に良いのだが。

『安心しなさい。それは分かっている。むしろそれもあってこうして私が出て来ているのだから』

 ほほう。まあ、なんにしても興味深いな。
 カーラとはここまで上等な契約書は使って無いから、このレベルの契約は今回が初だ。
 平等の女神と言われるだけあって不正は許してくれなそうだし。今回の事はどれがどこまで不正とみなされるか丁度いい試金石になりそうだ。
 とっ、また睨まれた。

 ちょっと不穏な事を考えたらまた睨まれてしまった。そろそろ後ろの人間達の顔色が悪くなってきているから神威を弱めて貰いたい。
 私は平気だけどな! ……あっ、また強くなった。この女神とは相性でも悪いのだろうか? いや、良いのが居た試しが無いな。
 敵対する気はとりあえず無いので平和的に微笑んでみる。他の人間には分からない程度に舌打ちされた。酷い。
 OK。ならば戦争だ。

 そう思うと初めてまともに視線が絡み合い、ニヤリと口の端を上げた。
 その瞬間、私とナルノヒスは恐らく初めて互いの気持ちが通じ合った。

「どういう意味でしょうか?」

 だと言うのに、ヘグメスは空気を読まずナルノヒスに質問を投げ掛ける。

 いやいや、空気読もうよ。私もナルノヒスもオコですよ。全く。

 現にナルノヒスも若干苛立ちのこもった目をヘグメスに向けている。
 どうやら私と同じく、既に決着がついているヘグメスはあまり興味が無い様だ。

 いや、一応仕事しよ? 決着まではやってくれないとこっちも最速の決着がつけられないし。

 どうやらそれもご不満の様で、私には何も隠さずに不満のこもった目で睨んできた。

 本当に今までのとはタイプ違うなコイツ。

 とは言え、私としても面倒になって来たからさっさと終わらせたい。
 目を合わせると向こうもこちらの意図に気が付きコクリと頷く。

 相性が良いのか悪いのか。なんとなく似た空気を感じる。

『どうもこうも無い。正しい裁定を下す為には私で無ければいけなかった』

 皆の視線が私に集まる。

 とりあえずよく分からないけど胸を張って堂々とお茶を飲む。

 皆からの訝しむ視線と女神からのシラケた視線が集まるが私は気にしないんだよ。

『端的に言う。ハクアの屋敷の値段は白金貨15枚金貨400枚銅貨60』

「「「なっ!?」」」

 今度こそ全員が信じられない物を見る様な目をしている。

 それでも私は一層余裕に、いっそ優雅ささえ感じる様にゆったりとお茶を飲む。
 目の前では相手が女神だという事すら忘れた様にヘグメスが噛み付いている。
 私側であるアベル達でさえ、目を見開いて信じられないものを見る目を私に向ける。

 ふっ……。ど、どどど、どうしてそんな値段になってるの!? わ、私なんかやった? やっちゃいました!? こ、今回はわりと本気でそんな覚えが無いんですが!? なろう系主人公みたいな事しちゃった!?

 内心の動揺をおくびにも出さず、まるで淑女の様に平静を装いお茶を頂く。

 女神からの視線が、一層呆れの成分を多量に含んだ物に変わった気がするが、むしろ動揺を押し殺し、見た目は平静を保っている私を褒めて欲しい。てか、褒めて。

 だって私の予想した金額は盛って盛って白金貨5枚程の予定だったのだ。
 それが15枚ともなればそりゃ動揺くらいするってものだ。あっ、やべ、変な汗が……。

「そんな馬鹿な事があってたまるか! あの屋敷がそんな値段な理由があるか! そうか、ははははは。どうやってかは知りませんが、女神様まで買収するとは恐ろしい。だが、残念でしたね。例え女神様自身を買収したとしても、裁定のシステムまでは覆せない。私の行いを裁く為に、女神様と共謀して、私自身に契約を破棄させる事で裁こうとしたのだろうが、仕掛けに気が付いてしまえばどうということはない」

 何やら盛大に勘違いして私を煽っているが、私とナルノヒスは一切手を組んでいない。例え向こうに何かしらの思惑があったとしても、私は知らないのだ。
 しかもだ、ナルノヒスが何かしら企んでいたとしても、ヘグメス言う通り女神の意志と裁定のシステムは別物、結果は変わらないのだ。
 こうやって女神や眷属が契約の時に出て来るのは、裁定を納得させる証拠の提示や、契約を執行する為に出張るだけだ。

 と、言うか、この女神なら私のした事を知っているだろうから、特にそんな意味の無い仕掛けをする訳が無いんだよな。てか、ここで降りられたらむしろ面倒なくらいだし。
 と、そこまで分かるからこその私の動揺だ。
 思惑は関係無い。その段階で女神が提示した金額が正しいとイコールなのだ。つまりは想定の三倍の値段です。恐ろしや。

「残念でしたね。まさか女神様を既に味方に引き込んで居るとは思いませんでしたが、企みがバレてしまえば滑稽ですらある」

 いや、滑稽なのは勘違いをしてるお前だからね?

「さあ、女神様。契約の続きをお願い致します」

 私と女神がの思惑を全て見抜いた。そう思ったヘグメスは勝ち誇る。

『貴女も良い』

「良いよ」

『それでは裁定を下す。ヘグメス=トレストバスはハクアへ白金貨12枚金貨650銀貨79銅貨40の支払いを』

「は!? な、何を……さっきのは私に契約を破棄させる為の嘘では」

『貴方が何を勘違いしていたかは知らない。だが私は平等の女神。例え貴方がした事を知っていたとしても、それをいちいち考慮に入れて裁定などしない』

「馬鹿な!? で、では、何故あんな屋敷が白金貨15枚もするのですか!?」

 自分の勘違いを知ったヘグメスが再び女神に詰め寄る。

 既にヘグメスへと不快な視線を向けて女神は不機嫌だ。そして私もちょっとした傑作を作れた気になっていたのに、あんな屋敷呼ばわりされて不機嫌です。

『あの屋敷はハクアの魔法で作られた物。あの規模であの強度を保つだけでも値段は跳ね上がる。そして素材には火薬、希少な鉱石を混ぜ込んであり、それを更に緻密な計算の元積み上げられていた』

 流石に元から崩す予定で、一箇所を抜くと自壊する様に、緻密な計算ので積み上げられていた。とまでは言わない様だ。面倒だからね。
 こら、こっちの言葉に頷くな。

『そして中にあった美術品の数々はこの世界には無い芸術性が込められた一級品の物ばかり』

 うん。元の世界のアイデアまるパクリだからね! 芸術品としての価値は一級品だよ。私の手柄では無いけどな! きっと放送する為にはモザイク処理が必要な物ばかりだろう。

『屋敷に施された罠の数々も、あのレベルの物を作り仕掛けるにはかなりの金額が必要』

 あの罠めっちゃ気合い入れたからね。ちょっと奮発してしまった。オマケにどの罠に掛かったのかは、常に気配を探っていたからチェック済み。良いサンプルになったよ。
 今回は罠も回復薬もサンプル沢山居て、良い実験結果が収集出来たから良かった。人体実験に踏み切ると皆に怒られそうだから、今回は丁度良かったよ。

『そして極めつけは屋敷に施された魔法陣』

 ん? 魔法陣?

『あれは人間には伝わっていない龍族の物。そんな物を施した屋敷なんて正直に言えば白金貨15枚でも足らないくらい。本来ならば白大金貨級、今回は最低限の価格として出した計算でしか無い』

 やらかしポイントはここかぁぁ!! くっ、まさかそこだとは思わなかった。
 あれ、私が魔法陣を勉強してる時に色々と魔法陣を組み上げて遊んでたら、近くに来たトリスがそれを見て鼻で笑ったから、滅茶苦茶付きまとってやっと聞き出した奴なんだよな。

 ウザイとか煩いとか、燃やすぞ人間とか不敬、無礼と言われまくって教わったが、まさかここがやらかしポイントだったとは……。

 こうして私は一人静かになっとくしながら紅茶を啜るのだった。 

 ……この紅茶も後で貰ってこ。

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