ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

君達はなんでそこに居ちゃうかな……

 突如として開始した戦闘。どうなるカイル!

 〈マスターが戦わせているだけですよね?〉

 どうなるカイル!

 〈…………〉

 もう一切手を出す気は無い。と言わんばかりに腕を組んで木の幹に寄りかかって観戦モードの私。

 そんな私を見る余裕も無く、カイルはひたすらに相手の攻撃を避ける事に集中する。

 ふむ。やっぱり回避には高い適性があるな。
 アベル達に避けタンクみたいな事をやらされてた成果って所か。でも──。

 カイルの武器は短剣だ。

 倒す事よりも、少しづつ相手にヒットさせる事で消耗を狙う武器。
 まだ幼く小柄なカイルにはちょうど良い。と持たせていたが、やはり今まで回避に徹して攻撃した事が少ないカイルでは、圧倒的に手数が足りていない。

 しかも……回避に比重を置いてるから、どうにも一歩踏み込みが足らない。
 そのせいでどうにも攻めあぐねてる。
 そして、フレイとの連携にもまだ難がある。

 〈それはマスターが契約後すぐに戦わせたせいでは?〉

 まあでも、知らない人間と組む事なんざ、ざらにあるからね。少しでもこんな経験は積んどくべきかな……と。

 〈……マスター〉

 ふふふ。私の思慮深い考えにヘルさんも感動しておる。

 〈後付けの理由ですよね?〉

 違った! 信用されてない!?

 そんなやり取りの間にもカイル達の戦闘は千日手に陥る。

 そろそろテコ入れが必要か。

「カイル。お前の得意はなんだ? 体術か、短剣か? 違うだろ。お前は今、テイマーとしてここに居るんだ」

 私の声に驚いたカイルが一瞬振り向き、その隙を突きソルジャーが剣を振るう。
 しかしその攻撃は、フレイの【狐火】を腕に受け不発に終わり、カイルは無事攻撃圏内から脱出する。

 まあ、集中が一瞬弱まった瞬間に声掛けたんだけどね。でも、これでわかったろ。お前の取るべき戦い方が。

「行くよフレイ!」
「コンっ!」

 自分が手に持っている短剣に一度目を落としたカイルは、強く握りしめるとフレイに声を掛けて再びソルジャーへと向かう。

 焼き直しの様にそのまま懐に飛び込むかと思われたカイルは、ソルジャーの間合いの中、先ほどよりも半歩遠い距離を保ちながら攻撃を避ける。

 半歩。

 その距離は踏み込めば互いに致命を与える事が出来る死地の距離。しかし、カイルはあえて下がる事で防御を重視する選択をした。

 それでいい。

 見つめる先、攻撃が当たらない苛立ちから大振りになった攻撃を、躱すと同時に射線を空ける。
 そこへ迫るのは、待ってましたと言わんばかりのフレイの【狐火】だ。

「ギャンっ!?」

【狐火】を顔面に食らったソルジャーは、悲鳴の様な声を上げながら堪らず後ずさり、カイルから距離を取って逃げ出そうとする。──が、そんな隙が見逃される訳もなく、雄叫びを上げたカイルが腰だめに短剣を構えて突進、その攻撃はソルジャーの胴鎧を貫いた。

「お疲れ様」

 肩で荒い息を吐いているカイルに声を掛け、回復薬を手渡す。

 因みにこの回復薬はヌルに出して貰った物で原価ゼロ円です!

「あ、ありがとうございます」
「どう? 初勝利は」
「えっと……凄く嬉しいです!」
「そっか。最初は一人で戦おうとしたからどうなるかと思ったけど、途中からは修正出来たみたいね」
「すいません。でも、その為にあのタイミングで声掛けたんですよね」

 ふむ。ソルジャーレベルなら立て直す事は出来るだろうし、出来なかったとしても私が居るからと思ってやったが、それにも気が付いたか優秀優秀。

「カイルの一番の力はテイマーの力だからね。仲間にした従魔の種類、数、得意な事、その進化の方向性によっても戦い方は無数に変わっていく。その為、他の人間と違って決まった型をあまり作れないから、これからも臨機応変に対応して行かないとね」
「はい」
「まあ、今回の事でそれもわかっただろうし。良い訓練になっ──」
「っ!? 危ないハクアさん!!」

 カイルの正面、私の背後から今まで隠れて様子を伺っていた、ソルジャーとハイコボルトが襲い掛かる。

 ──だが。

「うわ……」

 初めからその存在に気が付いていた私は、向かって来なければ見逃すつもりだったが、襲ってきたからには容赦しない。
 予め張り巡らせていた糸を引くと、襲ってきた二匹の身体は、声を上げる事すら無くバラバラに切断された。
  
 無常なり。

 〈マスターがやった事ですよ〉

 まあ、そうだけど。

 私は倒した二匹をそのままに、カイルの後ろの茂みへと向かう。
 そこには襲ってきた二匹とは別の所に隠れ、タイミングを見計らっていたもう一匹のコボルトが、私の糸で簀巻きの状態になっていた。

 カイルだと処理出来なそうだから、こっちは先に簀巻きにして置いたんだよね。
 さて、何も出来なかったとはいえ、こっちを狙おうとしたからには放置は出来ないな。

 人を襲う事を考えたのなら、ここで見逃してもまた別の場所で誰かを襲う。
 それを防ぐ為にもここで倒すのが良いだろう。

 そう考えたのだが──。

「君達はなんでそこに居ちゃうかな……」

 私の眼前、簀巻きになったコボルトの前には、何故かカイルとフレイが庇う様に立っている。

「うっ……すみません。でも、なんだか可愛そうで……」
「はぁ……それで、そこにたった君はどうするの? もちろんこのままただ見逃すなんて方法は取らないよ」
「それは……」
「君は何?」
「えっ? あっ!?」

 私の言葉に何か気が付いたカイルは、簀巻きになったコボルトの方を向くと、契約を発動する。

 さて……どうなるかな。

 そう考えたが、結果はいっそ呆気ないほど簡単に契約を受け入れ、コボルトはカイルの従魔になった。
 受け入れなければカイルがなんと言おうが倒したけど、仲間になったのならその限りじゃ無い。

「その調子で仲間を増やしたら大変だよ?」
「わかってます。でも、なんか見捨てられなくて……」
「長所でもあるけど短所でもあるね。優しさは大事だけど、見誤ればそれは君の身にも、仲間にも危険が及ぶ事は忘れない方が良い。仲間が大事なら尚更ね」
「……はい」
「さて、それじゃあそいつの名前も決めようか。今回は少し思う所があるから、私が名前をやっても良いか?」
「ハクアさんがですか? それは良いですけどどうしてですか?」
「見た所、前衛に向いてそうだから、今回は少し意志を持って名付けをしようと思ってね。名前を付ける時の認識で、ある程度成長の方向性が決められるらしいから」
「そうなんですね。確かに僕じゃ前衛は辛いから、それを補ってくれる仲間が居るのは嬉しいですね」
「まっ、どうなるかは分からないけどね」

 さて、名前……なんにしよう。

 〈考えて無かったんですね〉

 だって今思い付いたんだもん!

 〈はぁ……〉

 見ればこのコボルト。普通の剣じゃ無くて錆びて刃もボロボロになった刀を使っている。
 うん。こういうインスピレーションは大事だよね。

「よし。お前の名前は叢雲だ」

 私が名前を決めると魔力が抜ける感覚がする。予定通り意識をして名付けを行った影響か、フレイの時よりも少し魔力が多い。

 これで明日にどうなるか……だね。

「さて、それじゃあ今日は帰ろうか」
「はい!」

 こうして無事カイルの従魔をゲットした私達は、次の日を楽しみに帰路についた。

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