ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

『シルフィン:人を糾弾する時だけ認めるの止めて貰えません!?』

 邪魔なゴブリン達を片付けてダリアに説教カマしていると、通路からダグラスがアベルを連れてやって来た。
 そんなアベルは私達の顔を見た瞬間、腰……というか尻の辺りを抑えている手をパッとどかし、何やら非常に居心地が悪そうに目を逸らす。

「おー、説教中か?」
「うむ」

 私が演技を止めて説教しているのを見たダグラスは、とても嬉しそうに私に話し掛けてくる。
 因みにそんな私を見たアベルは驚き固まっている。

 ダグラスもかなりストレス溜まってたからな。まっ、私もだけど……。私が真面目な事で説教するなんて珍しいんだから素直に聞くといいよ。

 〈それもどうなんでしょう?〉

 中断されたが未だに納得していなさそうなダリアに続けて説教しようとすると、アベルが間に割り込んで私を説得しに掛かってきた。

「ま、まあまあネロちゃん。俺に免じて許してあげてよ。ね?」

 いや、お前の何に免じるんだよ。しかし、まだそんな立場だと思ってるのか。ならば──。

「異種間BL乙」
「グハッ!!」
「アベル!? ちょっとアンタ何したのよ!」

 私の一言に心が折れたアベルは必死に取り繕った笑顔すら消失して膝から崩れ落ちた。
 ゴブリンと取り残された男が生きてて、しかも尻を抑えて登場とか……まあ、そう言う事だろう。
 趣味の違うゴブリンが居ても不思議では無いしね。
 そして何をしたのかが問題なのでは無くて、何をされたのかが問題なのだよ。

 その証拠にダリアが私に追求しようと何かを言う度に、アベル氏は心にダメージを蓄積しているかの様にビクンビクンしてる。

 さもありなん。

 しかしこの一言が切っ掛けで「ネロちゃん君は……」とか何か深刻な雰囲気出してるが勿論面倒なので無視だ。
 私に食って掛かるダリアへの説教もそろそろ飽きたからもう良いだろう。

 まだまだ言い足りないがな! 

 ダリアに説教カマしてる間に、ゴブリン達の回収を買って出てくれたカイル君の作業が終わったので仕方なく説教をやめる。

「さて、馬鹿共の事はもうどうでも良いな。これ以上は時間の無駄だ。それよりもカイル君」
「は、はい」
「君に聞きたい事がある」
「僕に……ですか?」
「さっきも聞いたがそれを踏まえてもう一度だ」
「坊主、ちゃんと考えて答えな。これはお前のこれからを決める大事な物になるぜ」

 ”おっ、いい事言ったダグラス。後で美味い飯作ってやる”
 ”マジか。楽しみにしてるぜ”
 ”うむ。もう遠慮無く出来るからな。野外では食えないレベルの物を食わせてやるぜ”

「君にはいくつかの選択肢がある。一つは冒険者にならない道」
「それは……」
「まあ、聞きな。金を稼ぐ手段は何も冒険者だけじゃない。道中君を見ていたが道具の管理、それぞれの役職に合わせた品物の準備、装備の手入れどれをとっても丁寧だった。これならどこの店でも働ける。
 キミが今のまま真面目に働けば、下手をすれば冒険者よりも安全に稼ぐ事も可能だろう。
 勿論私としてもこんな事を言うんだから店の斡旋はしてあげよう。主に私の管理してる店、君が望むのならばアリスベルに店を構える店舗を紹介しても良い」
「ちょっ!? アリスベルの店ってそんな簡単に入れる場所じゃないわよ!?」

 ふむ。そうなのか。

 〈ええ、あそこで店を構えるのは一流の証ですからね。雇い入れる店員も当然厳選された人材です〉

「ちょっとカイルは私達の仲間よ何を勝手に──」

 本格的に面倒になったダリアを威圧で黙らせカイル君との会話を続ける。

「さて、続きだが、次はこのままアベル達について行く道だ。正直あまりオススメはしない。君を教会から引き取る段階で教会に金を落としたんだろうが、今回の様なレベルでカイル君がいつも働いているのなら、その金は日々の宿代を入れていたとしても冒険者登録の資金くらいは十分賄える筈だ。
 ギルドで見たコイツ等の依頼復歴も採取、探索がメインだった事から、ほとんど働いてるのはカイル君だったろうしね。そうだろエイラ?」
「ええ、その通りよ。採取系の依頼はほとんどカイルの手柄よ」
「エイラ!?」
「……本当の事でしょ」
「それは……当たり前じゃないか。俺達は仲間なんだ! お互いに得意な事でお互いを支え合うのが仲間だろ」
「一方的な搾取にしかなって無いから言ってんだが? それすらも分からなくなってるのかお前?」
「うっ……」

 言葉に詰まったアベルは顔を逸らし唇を噛む。どうやら自覚もちゃんとあったようだ。

「はぁ……そして三つ目。コイツ等に払う物、冒険者登録の代金まで全て私が一旦立替えて、私の元で冒険者をやってみるかだ」
「え?」
「君のテイムの能力は希少なものだ。それだけでもただの荷物持ち扱いは惜しいのに、協調性もあり、依頼に対しても真剣だった。昨日の夜に少し教えた時も動きは悪くなかった。
 君が望むのならエイラと一緒に君も鍛えても良い。現状で言えばただステータスが高いだけで力を扱い切れないアベルよりも、君の方が冒険者としてよほど優秀なんだよ」
「僕が……」
「ああ、勿論貸した金を返すのならば私以外に師事するも、一人で冒険者をやってみるも君の自由だ」

 ”破格の条件だな”
 ”ふふん。そうだろ”

「あの、なんでそんなに僕に良くしてくれるんですか?」
「ふむ。当然の疑問だね。別に全く打算が無い訳では無いよ。私が国やギルドとやってる実験の協力をして貰ったり、君を育てれば強力な戦力になりそうだとか色々ある」
「そんな、僕なんて」
「でもまあ、一番は君が気に入ったからかな。さっきも言ったけど武器の手入れ、道具の管理を見ても努力している事が分かる。昨日の訓練も必死に食らいついて、少しでも私から技を盗んで自分の糧にしようという意思を感じた。そういう物を気に入ったって、それが一番の理由かな」

 まあ、あと一つは本気でテイムされない様に仲間にしておきたいという打算もありますがね。何よりも私は私が助けて貰った様に子供にはチャンスが与えられるべきだと思っている。

「どうする? 全部君次第だ。それとアベル達の事を気にする必要は無いよ。君はもう十分に尽くした……金額以上にね」
「ちょっと! 人のパーティーメンバーを勧誘するなんて何考えているのよ! そんな事許される訳──」
「お前らはカイル君をパーティーメンバーにしていないだろ。それに、お前の所の馬鹿は会って数秒で勧誘してきたぞ?」
「それは……」
「どうかなカイル君? 後は君が決めるだけだよ。君の決断なら私は何も文句は言わない。私はただチャンスをあげるだけだ」

 昔、私が手を差し伸べて貰えたようにね。

「僕は……。ネロさん。僕を冒険者として鍛えて下さい。お願いします」
「分かった。エイラと一緒に鍛えてあげるよ。その代わり厳しいからね」
「はい!」

 うむ。いい返事だ。それにちょうど良い。

「こんな勝手な事許されないわよ」
「……おい」
「わかってるよ」
「何言ってるのよ。こっちの話を聞きなさいよ」

 ……斥候役、この距離でも気が付かないとかどうなんだよお前。

 私とダグラスの二人が、話も聞かずに奥の通路を見ているのが気になったのか、全員画奥の通路に注目する。
 そしてそこに見えた物に全員が言葉を失った。

「なっ!?」
「何あれ!?」
「酷い……」
「……もしかして生きているの?」

 奥の通路から現れたのはゴブリンとホブゴブリン達だ。
 しかし、ホブゴブリンの前を固めるゴブリンは自分達と同じ位の木の板を前面に押し出し盾の様にしている。
 そしてアベル達が驚いているのはその木の板に、手足の折られた生きた女性が括り付けられていたからだ。

「初めて見るのか。あれは頭の回る個体がやる肉壁だ。奴らも生きた人間を括り付ければこっちも躊躇すると知ってるのさ」
「そんな……ゴブリンが」
「だから甘いんだよお前らは」
「しかし……俺じゃ不利だな。また魔法でやってくれるか?」
「残念無理だ」

 私はちょっと悲しそうな顔をしてそう答える。

「はっ?」
「魔法もね、無から有を生み出す訳じゃないんだよ。特に土系統とかは魔力でその辺の物に働き掛けて効果を発揮する。そして私はさっきイラつきで盛大に魔法行使しました!」
「えーと、つまりは?」
「今またあれ全部に魔法使うと、ここ脆くなってるから崩れるかなー? みたいな。上から突入して穴も空けたしね!」
「みたいな。じゃねぇよ! どうすんだ?」
「はい。カイル君、エイラ授業その一。なんかもう諦めて思考停止してるけど考える事は絶対に止めるな」
「授業なんてしてる場合か?」
「まあ、何とか出来るしね。ダグラス射ったらよろしく」
「……出来るのか」
「うむ」

 返事をした私は矢を取り出すと、矢羽を毟り五本同時に番えると弓を構える。
 それを見たゴブリン達は、板の向こうから顔を覗かせこちらを馬鹿にするかの様にギッギッと声を上げている。私はそれを気にする事無く肩の力を抜き、リラックスした状態で呼気を短く吐き矢を射る。
 射られた矢は引き絞られた弦に押され一気に飛んでいく。しかし、矢羽を毟り取られた矢などやはりまともに飛ぶ筈も無く、五本それぞれが不規則な回転をしながら大きく曲がる。
 そして──そのどれもがゴブリンの構える肉壁をすり抜け、真裏に居るゴブリンの頭を見事に射抜いた。

「「「ギギャア……」」」
「ギガッ!」

 目の前で起きた有り得ない事態にホブゴブリンが動揺する。
 ダグラスはその一瞬の隙を付き、風の様な速さで肉薄すると、そのひと薙ぎでホブゴブリン三体を同時に上半身と下半身を分断してみせた。

「お見事」
「いや、それお前の方だろ。なんだよ今の?」
「あれ、あれは私のオリジナル弓術。狂い羽だよ。洞窟内で無風だから五本行けたけど、流石に外だと軌道計算が面倒だから一本が精々だね」
「いや、あんな曲技、一本でも十分だ」
「ふふ、弓はちょっと得意なのだ」

 流鏑馬やぶさめとかカッコイイから色々と練習したしな! まあ、結局やった事無かったけど……。

『シルフィン:相変わらず厨二の考えを高いレベルで習得してますね』

 うるさいよ! 今役立ってるんだから良いんだい!

 〈マスター出て来ました〉

 ヘルさんの感知に掛かると同時に私を含めたこの場に居る全員に強烈なプレッシャーが襲い掛かる。

「さてさて、本命が出て来たね」
「おい。ヤバそうなのが居るとは聞いてたがこれは予想外だぞ」
「それは私もだけどな」

 会話を続けている間にも近付いて来た相手は、遂に奥の通路からゆっくりと姿を表す。

 ……ほう。

 出て来たのは鬼。オーガと呼ばれるモンスターの筈だ。
 筈──とは、その姿は私の知っている通常の姿とは大きく異なっていたからだ。
 身体の色は通常の赤では無く、吸い込まれる様な黒。
 普通の人間に比べれば大きいとは言え、通常より小さい体躯……いや、通常個体の盛り上がる程の筋肉を無理矢理凝縮した様な身体からは、隠しても隠し切れない程の赤いオーラの様な物が溢れ景色を歪ませている。

 ふむ。ステータスを見ても、種族としてもオーガだけど……微妙に身体のバランスがおかしいな。通常のバランスの変化じゃない。恐らくは私と同じ様に外的要因で進化を促され鬼人へと至る直前って所か。

『シルフィン:恐らく貴女の推測は正しいですね』

 しかし……何が原因だ?

『エリコッタ:あ、あの……多分ですけど、この間のハクアさん達の戦いで大量のモンスターを狩ったのが原因だと思いますです』
『シルフィン:ああ、なるほど。あの戦いで浄化し切れなかった魔素がここに流れ込んで澱みを生み出し、あのオーガが半強制的に進化を促されている途中なんですね』
『エリコッタ:はい。恐らくは強制的な一足飛びの進化のせいで、一気に身体が作り替えられている最中なのかと、なので今倒さないとステータスがもっと伸びると思われるです』

 なるほど、たまたま、偶然、運悪くこうなってしまったから今の内に倒した方が良い訳か。

『エリコッタ:えっ? あの?』
『シルフィン:ちゃんと貴女が原因だと言う事を認めなさい』

 不運とはよくある事だな。

『シルフィン:どこまでも認めない気ですね……』

 良いのか駄女神? 仮に私のせいだったと仮定しよう。そうした場合、あの騒動になった原因の要素としてお前に付けられたスキルの──。

『シルフィン:偶然とは恐ろしい物ですね……』

 ああ、偶然って怖いな。

『エリコッタ:えっと……』

『ハクア&シルフィン:なにか?』
『エリコッタ:なんでもありませんです!』

「おいおい。こんな所でオーガの亜種かよ」
「まあ、亜種くらい良いんじゃね」
「良い事あるかよ!」

 何故にここまで嫌がる? まあ、強い個体多いけど。

 〈マスター、実を言うと通常亜種と出会う確率は非常に低いです。強い個体の亜種程会いにくいですが、弱い個体でも数年に一度会えば良い方です〉

 ……え? 私まだ一年も生きてないけど滅茶苦茶会ってんだけど!? 私の遭遇率よ……。

『シルフィン:最近……スキルのせいだけじゃ無い気がしてきました』

 失礼な! それだと私単体の問題のようじゃないか! 責任逃れとはそれでも女神か!

『シルフィン:人を糾弾する時だけ認めるの止めて貰えません!?』

「どうする? 二人で行くか?」
「あ〜いや、ここは私にやらせてくれ。とは言えまあ、駄目そうなら加勢よろ」
「自信ねぇのか?」
「無くはないんだけどね」

 進化してからは初めての実践だからね。念には念を入れないとね。

「さて、いっちょ行ってみますか」

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