ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

「あぁ、私死んだのか」

「──いっ!? ギ、アッアアアアッ!!」

 白刃によってボトリッ! と、切り落とされた私の腕。
 痛みによって纏まらない思考。更なる痛みに頭の中をグチャグチャにされ考える事が出来ない。だが──。

「ご主人様!!」
「ギギ!」
 〈マスター!!〉

 響く私のうめき声と、重なる皆の声、しかし私の耳にはそのどれもが遠くに聞こえ、ある一点から目が放せなくなっている。

 ──ホブゴブリン。

 私の視線の先には私達の絶望が立っていた。

 ──クソ……こんなはずじゃ。

 ──痛みに支配された頭は朦朧として、何故かこの世界に来た時の事を思い出していた。
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 何がどうなったんだろう?

 目が覚めるとそこは全く知らない場所。

 そして目の前には電波な美女が一人。

『誰が電波ですか!!』

 何か聞こえたけど気にせず行こう。

『まさかのガン無視!!』

 そして私は電波の妄言を無視して、今日の朝からの出来事を思い返して行く……。

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「ふぁ……ねむ……」

 昨日までが土日だった事もあり、前日夜更かししていた私は昼過ぎに起き「昨日のレイドボスはマジで鬼畜だった……」と、この頃嵌まっているオンラインゲームの事を思い出し、大きな欠伸をしながら時計を見た。

「……あ〜。十二時かぁ、今から学校行ってもしょうがないよね。二度寝しよ……」

 時計で時刻を確認した私は独り言で自己弁護すると、そのまま布団を被り寝直そうとする。その時、ふとカレンダーが目にはいる。

「──ッ! 今日十六日!! チェックしてたエロゲの発売日じゃん」

 ゲームの発売日を思い出し、一人そう叫びながら私は部屋着からササッと着替えて外に出る。

「日射しが暑い。と、言うか明るい! 目がぁ~、目が焼ける~」

 土日での昼夜逆転の生活が祟り、日射しにHPを殺られながらも、何とか目的のゲーム屋に辿り着いた私は、少し不快な思いをしながらも目的の物を手に入れる事が出来た。

「あそこの店員、何時もジロジロ見てくるから嫌なんだよなぁ~。って、言うかコミュ障何だよ! 話し掛けるなよ! 緊張するんだよ! いきなり話し掛けるから噛んじゃったよ! うぅ、恥かいた。ショップ特典さえ無ければこんな事には……」

 花も恥じらう女子高生にいきなり話し掛けるなんて何て奴だ! 全く!

『平日の昼間から学校サボってエロゲ買いに行く女子高生が花も恥じらうとか(笑)』

 うるさい人の回想に勝手に入ってくるな!
 何か【混神こんしん】したけどまぁいいか。

 私は嘆きながらも買ったゲームを早くプレイするために、赤から青に変わった横断歩道を急ぐ。そして──。

 ブオォォォオ!

「ん? なっ!?」

 次の瞬間に見たのは、間近に迫ったトラックと居眠りしている運転手。
 音は聞こえていたがまさか止まらないとは思わなかった。それに、待ちきれないからと袋を覗いて、パッケージをニマニマと眺めながら渡ったのがいけなかった。
 そのせいでいつもよりも反応が遅れ、その結果……。

 ドンッ!! キキー!!

 一瞬の衝撃が私を浮遊感に誘い、そのままドサリッ! と、身体は落下した。
 全身が痛い……気がする。もう痛みはあまり感じない。
 見える範囲でも酷いケガだ。足や腕もどうやったらこんな風になるんだろう? と、思う訳の解らない捻れ方をしている。

 我ながら他人事だ。

「あぁ、ショップ特典のタペストリーが────」

 こんな状況でも自分の血に浸かったタペストリーが気になりそんな事しか考えない自分。流石です。

 などと考えながら私は意識を手放した。 

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「あぁ、私死んだのか」

『ずいぶんとまあ、素直にご自身の死を認めましたね? その調子で私が女神だということも素直に認めなさい』

 その余りにも他人事な感想に電波美女改め自称女神がツッコミと自身の身分を認めさせようとしてくる。

 だが断る。

『何故!? それにその説明は止めなさい。それじゃあ小説では描写も挿絵も無くて、漫画では影や声だけの登場人物になりそうな感じじゃないですか!』

 律儀にツッコミを入れてくる辺り根は真面目なのだろう。もしくはアイデンティティーに関わるのかも知れない。そして後半のメタ発言はどうかと思う。ちゃんと説明したらレギュラーになって出てきそうじゃないか。

「当たり前でしょ? 自分があんな目に遭った直後、目の前に自称女神です! なんてのが現れて誰が信じると思ってんの? それならまだ詐欺師の類いだと疑うわ! 「そこまで言うならせめてチャンスをあげます」とか、言ってみろや! 自称女神!!」

『そこまで言いますか!? それにそういう話はこれからしようと──』

「えっ!? 本当女神様!」

『変わり身が早すぎる!? プライドとか無いんですか!?』

「一度死んでまでプライドに拘ろうとは思わない! つーか、貰える物は何でも貰う。ある意味それが私のプライドだ!」

『身も蓋も無いこと言い切った!? あ、ある意味清々しい程潔いいですね貴女』

 この女神、意外に乗りが良いな。 などと考えていると幾分持ち直した女神が居住まいを正して話し始める。

『え~、オホン、それでは色々と脱線したけれど本題に入ります。まずは──【士道白亜しどうはくあ】。聖嶺高校に通う十七歳の女子高生──。趣味はラノベ観賞、ケータイ小説漁り、ゲーム全般と──特に最近はオンラインゲームに駄々はまりし、明け方までプレイして遅刻する事が度々ある。なかなかにニートな生活してますね?』

 うるさいよ!?

『フムフム。しかも、家から遠い学校に通う。と、いう理由で一人暮らしなのをいい事に半引きこもり常態。友人が迎えに来なければロクに外にも出ずに引き篭ると──』

 そこまで言う必要性あるのかな!!

『まあまあ、間違いや手違いがあると申請が大変なんですよ。まあ、本人確認が出来た所で──士道白亜、貴方は本日十二時三十分新発売のエロゲを、フフッ……買いに、行ってその帰り道、クッ……居眠り運転しているトラックに撥ね……られ……て、死亡フッフフッダメッ! なにこの理由。出不精がそんな物買いに出掛けて事故るとか──何回読んでも笑えるwww』

 女神→笑いを堪えきれず爆笑中。

 私→今なら何かに目覚めて駄女神を撲殺出来そうな予感。

『あ~、笑った』

 さて、やはり殺そうこの駄女神。

『まぁまぁ落ち着いて!! そんな可哀想な最期を迎えてしまった貴方に異世界転生の権利をあげます』

 私の殺気の籠った目を見て冷や汗を垂らしながらそんな事をのたまわった。

 と、言うか何て言った? イセカイテンセイノケンリ?

『まあいきなり言われても混乱するでしょうが先ずは説明を、貴方が転生の権利を得た世界の名は「アースガルド」世界観は剣と魔法のファンタジー! 魔物に邪神、魔王、勇者やドラゴンまで居る定番の世界! 勿論レベルの概念スキルや熟練度も有ります!』

 何か駄女神がドヤ顔で説明している。

 てか、世界観はとか言ってるぞ! それにレベルとか何のゲームだよ!

『そう、正にそこがミソなんです』

「頭の中を読まれてる!?」

『えぇ先程からずっと。まあ話を戻すと、アースガルドは私達神が干渉するために作った世界何です! 理由は今の地球には、ゲームやアニメのせいで様々な架空の神が産まれ。さらに、ネットのせいで本来の神より信仰を集めて、力を持ってしまったせいなんですよ!』

 とっ、色々喋っているが解りにくいので要約すると。

 1、様々なメディアのせいで架空の神が産まれた。

 2、神は信仰により力を得るが、ネットのせいで架空の神の方がファンが増え力関係が逆転。

 3、困った為古参の神が様々な異世界を創造、そこに全部つっこんだらいい感じに収まった。

 4、古参の神も面白そうだから移住してそれぞれの世界で好き勝手にレベルやスキル等の概念を増やした。その為、定期的に地球の人間を送らないとバランスが崩れると泣き付かれた。

 5、地球人は異世界を維持する力があるらしく、勇者召喚や転生で神々が見ていて飽きなそうな人間を送っているらしい。

「とっ、こんな所かな?」

『身も蓋も無いけど概ねその通りです。なので、貴方には転生者特典としてスキルポイント2000ポイントとチュートリアルを差し上げます』

 マジか!? ネット小説を読み漁り蓄えた異世界チート知識をフル活用する機会があるとは!!

「因みに、そのスキルポイントってどんな基準で決まってるの? 後、チュートリアルって?」

 こういう大事なのは先に聴かないとね? お約束お約束。

『基本はレベルアップ時にスキルポイントが貯まります』

「基本?」

『はい、他には神々定めた称号でも貰えます。例えば邪神の討伐で10万ポイントと神殺しの称号が手に入ります。後は自分で探してください』

 邪神倒すってエンドコンテンツじゃないの?

『その他は転生者と召喚者に与えられる特別な物です。基準は生前の行い等で決まります。大体の平均は500ポイントくらいですね』

 平均の4倍!? 流石私! 日頃の行いがやっぱり良かった!!

『いえ、貴方の場合は生前の行いが100ポイントくらいですね。後はBPです。まあ、半引きこもりのネットゲーマーではこの程度ですね』

「BP? って何」

『あぁ、私が作った爆笑ポイントの略です』

「まだ死因を引っ張る!? と、言うか1900ポイント分とか、どんだけ人の死因で爆笑してくれてやがる!」

『まぁまぁ、良いじゃないですか。そのお陰で大量にポイントゲット出来たんですから』

 絶対こいつの顔面殴ってやる。

『後、チュートリアルは自分が産まれた場所と状況の簡単な説明を脳内でしてくれます』

「それ、何の意味があるの?」

『生まれは選べませんからね。ご自分の産まれた国々の状況とかを、頭の中で説明求めれば答えてくれるんですよ。それではスキルを選んで下さい』

 ふーん、まぁまぁ便利そうだなぁ~。と、そんな事よりスキルスキル!

 おっ色々あるな、あっこの【剣聖】とか【魔道の極み】とか良いな? でも5000ポイントか全然足らない逆にチート物お約束の【鑑定士】スキルは100ポイント? 少なくない?

『あぁ、スキルは個人の資質でポイント決まってますから人によって獲得するためのポイントが違います。因みに、物に依ってはポイント使わなくても取れる物も有りますよ』

 なるほど、おっ、このスキル【喰吸】

 まさか、あの小説によくある魔物を倒せば倒すだけステータスやスキルゲット出来るあの能力!? 1900ポイントってマジか!!

 これは確実に私に【喰吸】と【鑑定士】この2つのスキルをゲットしろと神が言っている。

『いや、私何も言ってませんよ。本物の目の前で勝手に神託受けないで貰えません!? ゴホンっ! そのスキルで良いのなら頭の中で取得したいと念じて下さい』

 うるさいな! この駄女神!! それはそうとそうやって取得するのか! よし! 欲しい欲しい。

【喰吸】【鑑定士】合わせて2000ポイントです取得しますか?

 オォ!! 頭の中で声がする勿論yes。

【喰吸】【鑑定士】取得しました。

『これで全て終了です。では、新しい人生の異世界ライフを頑張って生き抜いて下さい』

 ふふん、言われなくても、チートライフを楽しんでやる! このスキルがあれば第2の人生勝つる。
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 とある道路の端、電柱の所に沢山の花束などが置かれている場所に二人の女性が手を合わせている。
 片方は日常で見れば違和感しか無いはずのメイド服を違和感無く着こなす着た銀髪を後ろで軽く纏めた女性。もう片方は長い黒髪を肩口で縛り、ジャケットのパンツスーツを着た若い女性だ。
 どちらも見る者を魅了する美貌を持っているが、今はその顔を怒りと哀しみをないまぜにしている。
 そんな二人は長く閉じていた目を開け、顔を上げると辺りをゆっくりと見回し更に険しい表情を作り出す。

「……確かに、お前の言う通りだな」
「ええ、向こうの二人の方は女神の気配以外は特に何もありませんでしたが、やはりここだけは……白亜さんだけは違うようですね」
「ああ、しかしどう言う事なんだ? 白亜の事故には何か目的があったと言う事なのか?」
「それはわかりません。しかし、こうなれば私達も行くしか無いようですね。あの世界へ」
「そうだな。かなりの無茶をしなくてはならないがあの子達の為だ。先行して行くのは私達二人か?」
「いえ、あの子。シィーも連れていきましょう。あの子も元々あちら側の住人ですからね。白亜さんの戦力になるでしょう」
「そうだな。私達では手が出せないし、あの子も白亜とは離れたく無いだろうから丁度いいか」
「はい。では今日の夜に……」
「ああ、帰ろうか懐かしのアースガルドに」

 それだけ話すと二人の女性はそれぞれ準備の為に別れるのだった。

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