ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

パッシブスキルって良いよね!

「・・・うそん」


 そう言って思考停止していた私だが、巨大オークが棍棒を掲げるのを見てそんな場合ではないと無理矢理再起動すると【雷装鬼】を纏い、雷速で急いで離脱を図る。


 その瞬間、私が今まで居た場所が爆砕したかの様な衝撃と共に地面が捲れ上がる。もしも一瞬でも遅れていれば私の防御力など簡単に突破して、ピチュンッ!されて肉塊になっていたであろう衝撃に、内心恐怖しながらもそんな自分を叱咤して現状を的確に把握する。


 オークとハイオークの混成が百程。このフロアにはもうあれだけしか残って無いみたいだな。そしてあのデカいのオークロード・・・ね。


 普通のオークが160センチ程、とすればオークロードは3メートルを越える巨体だ。しかも・・・・最初は居なかったかはず、それなのにいきなり現れたのはあれが理由か!


 恐らくオークロードは、私が倒したオークの死体達を喰らう事で魔石を体内に取り込み変異したのだろう。


 進化では無く変異。


 その理由は簡単だ今も死体を漁り魔石を喰らっているオークロードの体は、赤黒く染まり血管の様な物が浮き上がり脈動している。更にその体は不自然な程に膨れ上がりアンバランスな体型になり、口からは涎と血液が滴っていた。そしてその眼光は怪しい紅い光を宿し獲物である私を捉えていた。


 見るからに普通の状態じゃないよね?何と無くマハドルにも似てるし制御仕切れない程に魔石を取り込んだ代償だろう。あれが通常進化だったら嫌だなぁ。


 そんな風に考えているとオークロードがおもむろに棍棒で私を指し示し雄叫びを上げる。するとそれを合図にしたかの様に周りを囲っていたオークとハイオークの混成軍が一斉に私に襲い掛かってくる。


 どうやら強制力のある指揮能力まで持っているようだ。ゴブリンキングにしろオークロードにしろその種の頂点に居る個体にはそれが備わっているらしい。


 面倒な事だが、もし私が順調に普通の進化経路を辿ってゴブリンキングとかに成っていたら、そんな能力を得られたのだろうか?


 閑話休題。


 軽い現実逃避をした後、先頭を走るオークにファイアーボールを放ち一瞬ではあるが足止めする。全員で群れを成して走ってきたオーク達の先頭が急に止まっても後ろは急に対応出来ない。と、すればその後の結果はどうなるのかなど誰でも想像出来るだろう。


 対応出来なかった何匹かは倒れ、踏みつけられその集団に蹂躙されていく。中盤に居た何匹かはそれだけで憐れにもHPを全損したようだ。


 そんな中、何とか対応して止まる事が出来たハイオークの一匹が、群れを抜け出しこちらに突撃してくる。私は向かえ討つ為、白打を白牙刀に変えると同じく距離を詰め白牙刀を振るう。


 これからする事の為には突出して出て来られたら困るからね。


 だが、ハイオークは偶然、或いは実力か、私の攻撃に合わせ急停止を掛け立ち止まる。何とか対応するが刀の一撃は踏み込みが足らずこのままでは全損には届かない。


 それを確信してなのか、ハイオークの手が動きだし私に決死のカウンターを決めようと力が籠められる。だが、ハイオークの期待する未来は訪れる事はなかった。


 確かに私の想定よりも距離の出来たハイオークに刀は数センチ届かず全損は免れた。だがその直後、カウンターを狙うハイオークのHPは再び攻撃されたかの様に減っていき、驚愕の表情を浮かべたままハイオークは死んでいった。


 戦闘系パッシブスキル【追撃】
 攻撃の意思を持って敵に物理ダメージを与えた際、与えたダメージに応じた追撃が発生する。レベル×5%のダメージ。レベル最大で50%のダメージ。


 取得条件はわからないが、逃げ回りながらオークを減らしている途中に習得出来たスキルだ。正直パワーが無くてダメージ出せない私にはありがたいスキルである。習得してからも戦いまくったおかげで、今すでにレベル3まで成長している期待の持てるスキルだ。


 強敵相手には死にスキルになる事が多い中、安定して使う事が出来るスキルの何と素晴らしい事か!パッシブスキルって良いよね!


 それを確認した後、とりあえず数を減らす事に重点を置く私は、足止めされ遅れてやって来るオークに狙いを絞り【オルト】の弾岩を撃ち込む。ハイオークが相手では流石に一撃は無理だが、オーク程度なら私の魔法でも一撃で屠る事が出来る。


 流石にこの距離ではすぐに私の元にたどり着いてしまうが、それでも既に十匹以上はその数を減らしている。


 ある程度距離が近付くのを見た私はここでもう一枚のカードを切る事に決め【オルト】による銃撃を止め集中し始める。


【オルト】は銃の形をしているが、簡単に言えば銃の形をした杖なので何も全ての魔法を銃口から繰り出さなければいけない訳ではない。これは言ってしまえば私のイメージの補強なだけなのだ。だが、魔法を展開するにはどうしても強固なイメージと、それに伴う精密な魔力コントロールが必要になる。


 私は改めてテアに教わったそれを頭で反芻しながら魔法を構築する。行うのはこれまで同様の弾岩作り、ならば何が違うかと言うと作り出す場所と弾岩の数だ。岩を圧縮する際に開けた場所で作り出すには、より強くそれをイメージしなければいけない。


 私がこのレベルの弾岩を外部展開で同時に生成出来るのは20がせいぜい。しかも弾岩を作り出す魔力コントロールで精一杯な為、何時もの様な精密射撃は出来ず、オークすら一発で一匹屠るのは難しく、無理をして作り出しても普通に撃った方が倒せる数は多いだろう。


 だが、それでも私はこの方法を選択した。何故ならこれはまだ私が切ろうとしたカードでは無いからだ。


「アインツ!ツヴァイ!ドライ!」


 私のオリジナル魔法アインツ、ツヴァイ、ドライの魔法を再現し続けざまに展開するうわべの効果では無く、本来の唱える前の魔法で起こった効果の再現が発動する。叫ぶと同時20発の弾岩を40発60発80発と増やし一気に増やしていく。それは今まで大火力の一発に対してしか使って来なかった事から、誰も知らない本来の現象。


 だが、これでもまだあの数のオークを駆逐するには数が足らない。だから私は更に魔力を練り上げもう一度私のオリジナル魔法を発動する。


「っ!・・・アインツッ!ツヴァイッッ!ドライ!!」


 唱える前の魔法で起こった効果。それは80発まで増やされた弾岩を更に三度再現する。つまり80発が160発240発320発と増えていく。


 しかしその代償は大きい。本来の限界を無理矢理突破した代償として、二度目の魔法の発動から強烈な頭痛が襲い鼻からは血がツゥッ!と、流れ出て吐き気や眩暈も誘発する。無理矢理に情報を詰め込まれパンクしそうな頭は今にも割れそうな痛みを抗議する様に私に訴える。


 だが、それがどうした。


 頭痛も鼻血も吐き気も眩暈が起こり、死にそうになるほどの無茶をした所で、ここで何もしなければ死ぬだけなのだ!何もせずに死を受け入れる賢者よりも、何もかも投げ捨ててでもがむしゃらに生き抜く愚者であってこその私なのだ!


 倒れたくなる衝動を精神力で無理矢理抑えつけると、「イグニッション!」と、叫び。目の前一杯に作り出した弾岩320発を一斉発射して、オークの群れを蹂躙していく。


 効果は絶大。空間から取り出した非常用の回復薬を飲みながら状況を確認。全ては倒せなかったが残る数はハイオークが十五匹ほどにまでその数を減らしていた。


 出来ればこれはもうやりたくないなキッツいや。


 ハイオークが突然の事に混乱している隙に乱戦覚悟で潜りこみ、比較的重症の二匹を始末する。するとようやく落ち着きを取り戻したハイオークが攻撃に移るがその攻撃を避け、いなし、防御しながら確実にその数を減らす事に集中する。


 しかし、猛烈に嫌な予感を感じた私は状況も確認しないままに、遮二無二その場から逃げ出す様に回避する。その瞬間、またしても一瞬前まで私が居た場所が、ハイオーク達を巻き込みながら破壊の嵐に呑み込まれ蹂躙されていく。


 仲間ごとか。


 破壊の衝撃波を撒き散らした方向を見ると、そこには棍棒を叩き付けたままに私を睨み付けるオークロードが居る。どうやらオークやハイオーク程度では埒があかないと痺れを切らし仲間ごと私を殺そうとしたようだ。


 突然の指針変更に私を襲って来たハイオーク達が逃げて行くが、オークロードは気にも止めずその紅い瞳は私の事だけを見詰め続けていた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品