たった一つの願いを叶えるために

ノアール

屋敷の捜索

グラン達と屋敷に戻って来た後、書斎でテル、グラン、ガレットの3人で話し合っていた。

「指揮はガレットに一任する。当主を連行する際、抵抗するようなら捕縛しろ」

「はっ!」

「テルには屋敷内の捜索に加わって欲しい。悪魔に関係する決定的な証拠を探してくれ」

「わかりました」

「住民の混乱を最小限にする為、作戦は深夜に決行する。悪魔との戦闘も視野に入れて作戦に臨んでくれ」

「はっ!」


◇ ◇ ◇ ◆

ーー深夜

レイルリット家の屋敷からヨークス侯爵家の屋敷は少し離れており、20分ほどかかる。深夜とはいえ、これだけの事態に窓から覗いている人が見える。

「団長、屋敷が見えました」

屋敷までの案内をしていた騎士がガレットに声をかける。

「ああ、では作戦通り侯爵の捕縛、屋敷内の捜索、屋敷周辺の包囲の3つに班を分ける。出来る限り捕縛しろ」

「「「「「「了解」」」」」」

ガレットが指示を出している間に徐々に門が近づいてきた。

「止まれ、何者だ!ここから先はヨークス侯爵家の敷地だ」

近づいてきた俺たちに槍を向けた二人の門番のうち一人が険しい口調で声をかけてきた。

門番の言葉にガレットが応答する。

「我々はレイルリット家の者だ。ヨークス侯爵家当主に悪魔との共謀の疑いで捕縛状が出ている」

「なっ!」

「屋敷の者たちは全員捕縛せよとの命令だ。無駄な抵抗するなよ」

捕縛状が出ているということに門番たちは動揺しながらも武器をこちらに向けていたが、続いた言葉に武器を下げ、拘束された。

その間に他の者たちは門を抜ける。

「作戦開始!!」

その言葉とともにガレット達に続いてテルも屋敷に突入していく。

「こんな夜更けに騒がしいですね。私の屋敷に何用ですか?」

突入すると、目の前に待っていたように立っている質の良さそうな服を身に纏う壮年の男性が声をかけてきた。

「ブレッダス=ヨークス侯爵とお見受けします。我々はレイルリット家の者です。あなたには王女殿下殺害容疑と悪魔との共謀の疑いがかけられています。侯爵には我々と王城まできていただきます。屋敷の中も捜索させていただきます」

ガレットの言葉にブレッダスは、薄い笑みを浮かべた。

「……そうですか。使用人たちにはすでに伝えてあります。どうぞ屋敷内の捜索を。ですが、屋敷の捜索が終わるまで応接室で待たせてもらってもよろしいですか?屋敷のものが悪魔と関わっているだなんて信じられないのでね」

ガレットは特に抵抗するわけでもなく、屋敷内の捜索を許可したブレッダスに訝しむ。正直に言えば捕縛してしまいたいが抵抗しているわけではなく、犯罪者と決まったわけではないので却下する事ができなかった。

「広間ではダメなのですか?」

「ええ、応接室で、です」

「………わかりました。ですが監視はつけさせてもらいます」

「構いませんよ」

ブレッダスの様子に一抹の不安を覚えるが、屋敷の捜索を優先した。

「一階と二階に分かれて屋敷の捜索を開始してくれ。捕縛班は、屋敷の使用人たちと騎士団の捕縛に向かってくれ」

「「「「「「はっ!」」」」」」

ガレットの指示に従い、テルを含めた捜索班の騎士たちはブレッダスの横を抜け屋敷の奥へと進む。

半分に分かれた騎士たちは、一階と二階の捜索を開始する。テルは、一階の捜索班に混じって捜索にあたる。その際、[探索者]で屋敷の全体を調べるが特に反応は見られなかった。

テルたちは奥へと進み、部屋を見つけたら二人ずつに振り分けて捜索にあたらせる。テルは、資料室のような部屋に入り、悪魔に関わりがありそうな証拠を探していく。

「悪魔につながる証拠見つかりませんね」

テルと一緒に探すことになったノクトと呼ばれる騎士は、まだ騎士になって2年の少し幼さが残る青年は棚にあるいくつかの資料を漁りながらそうテルに話しかけた。

「そうだね。この部屋にはないだけか、見落としているのか」

テルは“魔力視”を使用しながら調査していた。もし証拠を隠しているとするならば、ペンダントの呪印に使われていた悪魔の魔力によって隠されている可能性が高いと考えていた。
その後も資料や部屋にある家具を退かしたりと証拠を探すが見つからず、別の部屋の捜索に移っていく。






捜査開始からもうすぐ一時間が経過しようとしていた。しかし、悪魔に関係する証拠が発見できていないことに騎士たちに焦りが生まれる。


ーーーー本当に侯爵は悪魔と関係があるのか?

ーーーー間違っていたんじゃないか?


そんな考えが頭をよぎるのを必死に振り払い、捜索を続ける。

屋敷内は一通り[神の瞳]で視たが何も見つからなかった。残りは離れだけだが、先に捜索に当たった騎士たちからの発見の報告はない。

頼む、見つかってくれ。

祈る気持ちで離れの入り口へとやってくる。離れの捜索に当たっていた騎士に案内され、中へと入る。離れは宿のような建物で入って左奥の部屋に向かう。

「ここは執事の部屋です」

扉を開けるとベッドや机、クローゼットが置かれた簡素な部屋だった。

そして部屋の中央の床に魔力で書かれた文字を発見した。

「見つけた!!」

「本当ですか!?」

「ああ!」

書かれた文字は読めないが、どうやら隠蔽の魔法が刻まれているようだった。

“解錠(アンロック)”

「「おお!」」

隠蔽の魔法を解いたことで床に大きな扉が現れた。罠探知を発動させ、慎重に扉を開けると下へ降りる階段が続いており警戒しながら先へと進んでいく。騎士たちもテルに続いて階段を降りていく。

階段を降りていくと扉が現れた。特に鍵がかかっているわけでも罠の類もなさそうなので、扉を開け中へと入る。中はかなり広くなっていて、壁一面に本がぎっしりと詰まった本棚や資料が積まれた机、そして二つの扉があった。
机に積まれた資料の一つを手に取り、目を通す。そこには王女殿下の呪いに関することが書かれていた。無論、陛下が公表していない、犯人しか知りえない情報も載っていた。

「間違いない。ガレットさんに呪いに関する証拠を見つけたと報告してくれ」

「はっ!」

「悪魔に関する証拠全て押収するため運び出してくれ」

「「「了解です」」」

ひとりの騎士が報告のため来た道を戻るのを確認し、残った離れの捜索に当たっていた十数名の騎士達に指示を出し、テルは調査に移る。
この部屋に入ってきた扉を背に、正面と左にある扉のうち正面にある扉に向かう。事前に罠の類はないことは調べたので、そのまま扉を開け中へと入る。
扉の先は何かの儀式が行われていた部屋のようだった。
薄暗い部屋の床に大きく描かれた魔法陣に部屋の四隅に夥しい量の灰が集められていた。

(ナビ、この魔法陣の解析を頼めるか?)

〈お任せを。…………完了いたしました〉

(想像はつくが、魔法陣の効果は?)

〈………〉

(ナビ?)

〈魔法陣は、生け贄を使って悪魔を召喚するものです。恐らく生け贄にされたのは、攫われた貴族の子女でしょう。さらにーー〉

拳を爪が食い込み血が出るほど強く握りしめる。

今回の事件に悪魔が関わっていると分かった時から予想はしていた。その予想が外れていることを祈りながら。

テルはしゃがみ、片手を地面につける。

ごめん。助けてやることができなくてごめんな。仇を討つことしかできない俺を許してくれ。


「よろしいでしょうか?」

不意に後ろから声をかけられた。

「はい、どうしました?」

「ひと通り目を通した限り、侯爵との関連する証拠は見当りませんでした」

「そう、ですか」

ということは、犯人は侯爵ではなく執事長だったということだろうか?……いや、今は証拠の運び出しが先だ。

いったん思考を打ち切り、運び出しの手伝いをしようと立ち上がったろうとしたときーー


ドオオォォン!


ーー突如遠くの方で爆発音が聞こえた。

屋敷の方からの爆発音に急いで部屋を出る。三人この場に残り証拠の管理を任せ、階段を駆け上がる。執事長の部屋を出た廊下の窓から外の様子が確認できた。

「襲撃されている……」

屋敷の本邸から空に舞う火の粉と黒煙が見えた。

[探索者]で確認すると、屋敷の正面にかなりの数の敵性反応があった。屋敷の周囲は事前に調べていたため、突然姿を現したことになる。悪魔か転移による可能性が高い。

すぐさま応援に向かおうとしたとき、何者かが離れに入ってきたため足を止めた。仲間ではないことを感じ取り、剣抜き構える。

廊下のランプの明かりに照らされたそいつは、人の形をしているが、肌は黒く、白目であるはずの結膜は黒く瞳孔は青色、頭には二本の角が生えていた。そして、腹の底から湧く嫌悪感と禍々しく不気味な気配。

こいつが悪魔だと、その場にいる全員が確信した。

「人間、速やかに答えろ。我々の魔力を感知できる奴はどいつだ?」

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