たった一つの願いを叶えるために

ノアール

不穏な空気

夕食を作り終え、料理長やホタの料理人の方達の質問に答えたあと、居間に入るとディレーネさんが、城での仕事を終えて戻ってきていて何やらアリスとミッシェルの3人で話していた。

「おかえりなさい、ディレーネさん。3人で何を話していたんですか?」

「ただいま、テルさん」

「あ、テルさん。あの……い、いえ、何でもないですよ」

アリスは、何かを言いかけたが言わずに無理に作り笑いを浮かべ、ミッシェルは俯いて何も言わなかった。

ディレーネさんとの話の内容が原因か?話したくないようだからこれ以上は踏み込まない方がいいか。

「そうか。ではとりあえず夕食の準備ができたんで食堂に行きましょうか」

「まぁ!一体どんな料理が出てくるのか楽しみだわ」

「テルさんの料理は絶品ですから楽しみです!」

興奮しながら食堂に向かう2人の後をミッシェルと歩いて追いかける。

前を歩く2人の元気が何かを無理やり振り払おうとしているようで、悪い予感を覚えた。

◆ ◆ ◆ ◆

食堂で席に着きしばらくすると、グランさんが来た。

「やっと仕事がひと段落した」

「お疲れ様、あなた」

「ああ、ありがとう。テルの料理は絶品だと聞かされてるから楽しみで仕方がないぞ」

「期待しててください」

全員が揃い、料理が運ばれてくる。料理には冷めないように時間停止の魔法がかけられている。

「見たことがない料理だが、不思議と食欲をそそられる」

「この茶色いのは…お肉かしら?」

「こっちの白いのは何でしょう?」

「…(ゴクリ)」

「この茶色いのはトンカツと言って、肉にパン粉をつけて油で揚げたものです。白いのは米という東の島国で一般的な食べ物で、パンの代わりです。とんかつにはこちらの方が相性がいいので出させていただきました」

「ほう、東の島国とな」

「早速いただきましょうか」

トンカツをフォークで刺し、口に運ぶ。

パクっ

「「「「ッッ!!!」」」」

トンカツを口にし、4人全員が目を開いて驚く。

「おいしい!食感がサクサクしていて、肉も凄くジューシーです」

「これほど美味いとは…。テル、料理人として働かないか?」

「無理です。商人としてやるつもりですから」

「凄く美味しいわ。こんなに料理が上手ならまた何か作ってほしいわね」

「おいしいです」

4人とも満足してくれたようで、安心した。

◇ ◇ ◇ ◇

夕食を食べ終えた俺は、グランさんに呼ばれた。

「失礼します」

「来たか、テル」

「はい、何かあったんですか?」

「尋問の結果と騎士団の内部調査の報告だ」

「もう結果が出たんですか。早いですね」

「うむ。それで尋問の結果なんだが、結論から言うと分からなかった」

「理由をお聞きしても?」

「正確には制約の魔法がかけられていた為に情報を得ることができなかった」

「解除はできないのですか?」

「無理だ。制約の魔法は解除することができず、制約を破ろうとすれば命を落とす禁止指定されている魔法だ」

「そうですか。……では、騎士団の内部調査の方はどうでしたか?」

「そちらの方も金で買収されただけで特に情報は持っていなかったようだ」

「どん詰まり…ですね」

「だが、これだけ情報の隠蔽が徹底されているうえに禁止指定されている魔法の使用、やはりテルが言っていた通り、貴族が関わっている可能性が高いな」

公爵家の娘を狙ってきたのだ。襲ってきた者たちの風貌からも、ただの盗賊の可能性は極めて低い。

「ああ、そういえば店の件ありがとうこざいます」

「いや、気にするな」

「それで店の下見に行った時……」

俺は、気になっていた昼間の騎士が話していた内容について聞いてみた。

「そうか。……ここ最近誘拐事件がいくつも起きてるのだ。そのことについてだろう」

「物騒ですね」

「狙われているのは子供でしかも誘拐されたものの中には、貴族の子供が何人かいるようだ」

「全くの無関係…ってわけじゃなさそうですね」

「私もその意見には同意する。犯人からの要求は一切なく、目的も分からず手掛かりすらつかめない状態なんだ」

手がかりが皆無だとするとかなり厳しいな。

「それに……」

「それに?」

「いや……何でもない。犯人の目的がわからない以上、テルも十分気をつけてくれ」

「わかりました」

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