たった一つの願いを叶えるために

ノアール

王都

セーフティゾーンでかなり寄り道してしまったので、少し急ぎながらも休憩を挟んで進んでいった。
王都についたのは、昼を少し過ぎたあたりだった。

「テルさん、あれが王都ですよ!」

「へぇ、ここが王都【エスターテ】か」

今俺たちは、王都に入る入り口から少し離れたところにいた。
目の前には、高さ15mくらいの大きな壁があり、王都全体を囲んでいるように建っている。

「さぁ、立ち止まってないで行きましょう、テルさん」

「ああ」

入り口では検問があり、列ができている。入るのに少し時間がかかりそうだった。

「あれ、並ばないの?」

「貴族専用の入り口があるので並ぶ必要はないんですよ」

「貴族の方の中には困った方もいるので、いらないトラブルを避ける意味もあるんです」

「そういうことか」

貴族か、めんどくさいのに絡まれなければいいが。

〈その貴族の中で、トップの方とはすでに関わっていますけどね〉

(そうだった)

「身分証を見してください」

ミッシェルが身分証を出す。受け取った門番は少し驚きながら、

「失礼致しました。公爵家の方でしたか。…失礼ですが、馬車や他の護衛の方々はどうされました?それにそちらの方は?」

「その事なのですが、屋敷に伝令をお願いします。学園からの帰りに盗賊に襲われ、護衛のほとんどが裏切ったと。こちらの方はその際、助けていただいたのです」

そう伝えると、門番はさっきよりもかなり驚きながら、近くの兵に指示を出す。

「レイルリット公爵家の屋敷に伝令を。それと、馬車の用意を!」

「通っても大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ。馬車を用意させますので門を抜けたところで少し待っていただけますか。ご無事で何よりです」

「ありがとう」

随分と丁寧な兵の態度に驚きながらも門を抜け、王都に入った。
目に入ってきたのは、中世の時代の家に多くの行き交う人々、多くの屋台が軒を連ねていた。

「すごい人の多さだな」

「この国は商業が盛んな国ですから。海に面していて海産物もありますし、【常闇の樹海】が近く、依頼が比較的たくさんあることから冒険者の方達も多く訪れます」

「お嬢様、馬車の準備ができたようです」

「わかったわ、では行きましょうか、テルさん」

「ああ」

貴族が乗るというだけあって少し豪華な馬車に乗り込む。そして、馬車に揺られながら外の街並みを眺めていること約10分、公爵家の屋敷に到着した。

「テルさん、ここが私の屋敷です。どうですか、大きいでしょう」

えへん!という感じに胸を張るアリス。

確かにかなり広い。高校の敷地並みの広さはあると思う。それに門をくぐる前だが、ここから見える屋敷はかなり大きく飾り気は少ないが、それでいて気品を感じさせるような古風な屋敷だった。庭には、ちょっとした花壇や畑も見受けられる。

「おかえりなさいませ、お嬢様。市壁の兵より伝令は伺っております。ご無事で何よりです」

「ありがとう」

門番していた兵がそう言い頭を下げ、門を開ける。

「屋敷の玄関でロラン様がお待ちしておられます」

「わかったわ」

「お客様、お嬢様を助けていただき、ありがとうございます」

「あ、ああ、助けられたのは偶然だ気にしないでくれ」

いきなり話しかけられ、しかも頭まで下げられて少し反応が遅れる。
なんとか返事をして、アリスとミッシェルに続いて門を抜けて広い庭の風景を眺めながら屋敷に向かって歩いていく。

玄関に着くと、フロックコートを着た初老の男性と2人のメイドが待っていた。

「おかえりなさいませ、お嬢様。」

「ただいま、ロラン。こちら盗賊に襲われていたところを助けていただいた、テル・ウィスタリアさんです」

「テル・ウィスタリアです」

「初めまして、テル様。私、レイルリット家の執事を勤めさせていただいております、ロランと申します。お嬢様を救っていただき、本当に感謝いたします」

「先ほどの門番の方にも言いましたが、助けられたのは偶然です」

「その話はまた後でいたしましょう。お父様はどちらに?」

「旦那様は今は自室にて仕事をなさっておられます。お嬢様がいらしたらお客様と応接室に来て欲しいとのことです」

「わかりました。テルさん、私とミッシェルは一旦着替えに行きますので、ロランに応接室に案内してもらっていいですか?」

「ああ、わかった。ロランさん、案内お願いしていい?」

「もちろんです。では、こちらへ」

「テルさん、また後で」

「失礼します、テルさん」

「また後でな、2人とも」

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コメント

  • おかか

    「レイルリット毛」の毛とは家では?

    2
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