たった一つの願いを叶えるために

ノアール

幸運2 (修正)

「そういえばテルさん、どうしてそのような格好をされているのですか?」

「ん?何か変か?」

「えと…いや、似合っています。そうではなくて、なぜあれだけの魔法を使えるのに黒のローブを着ていらっしゃるのですか?」

「?ごめん、俺少し常識に疎くて教えて欲しいんだけど、黒のローブだと何かあるの?」

「そうなんですか?わかりました。私たちの国【メーアス王国】と同盟関係にある隣国の【リアリス王国】【ライリア皇国】【レーヴァン騎士王国】の4つの国で魔法師の実力を示す基準としてローブの色を決めました。上から白>青>赤>紫>黄>灰>黒の順になっており、白は主に宮廷魔導師、青や赤は貴族の方が多いです。中には、他国から来た方や気に入った色を着る方もいますが滅多にお見かけしません。ですから、テルさんの着ている黒は………」

「最下級魔法師と呼ばれ、この国では一番低い階級の色だと」

「そうなります。実力を示すものなのですが、階級を表すステータスになっているのも事実です」

テルの今の格好は、迷宮の時の装備だと過剰だとナビに言われたので、創造により魔法師風の格好になっている。と言ってもローブの下は軽装備で普通に近接戦闘を行えるように動きやすくなっている。[無限収納]も目立つだろうと考え、背負い袋を背負っている。

(ナビ、ローブの色のこと教えてほしかったよ)

〈あまり気にしないと思われたので、説明を省きました〉

(そうだけど…)

なんとなく納得がいかないが、合っていることなので言い返すことができない。

「そうだったのか。まぁ、あまり気にしないからこのままでいいかな。説明ありがとう」

「いえ、ただその色のローブを着ていますと、変に絡まれたりするので気をつけて下さいね」

絡まれるのか……。変にちょっかいをかけられるのは避けたいなぁ。

「前言撤回。大人しく着替えるよ」

気にしないと言ったにも関わらず、着替えることに少し恥ずかしさを覚えつつも、脱いだローブを畳んで背負い袋にしまう。そして、暗い灰みの緑色をしたローブを取り出す。

「その方がいいですよ。他にもわからないことがありましたら、色々聞いてもらって構いませんよ」

「ありがとう。じゃあ…」

アリスから聞いたことをまとめると、
・この国の王都の名前【エスターテ】

・貨幣の種類と価値
        鉄貨100=銅貨1
        銅貨100=銀貨1
        銀貨100=金貨1
        金貨100=白金貨1
        白金貨100=黒金貨1

・貨幣単位はセリス
        1セリス=鉄貨1枚

・この国は大陸有数の大国で、海と森に面した特産の多い貿易が盛んな国であること

・【常闇の樹海】が近く、そこから時々出てくる強力な魔物と戦うために騎士や魔法師、冒険者が多く、特に冒険者が多いことから“冒険者の国”とも呼ばれている

・なぜ【常闇の樹海】からこんなにも近い場所に王都を置いたのかは、分からない

など、いろいろなことを聞いた。

「ありがとう、助かったよ」

そう言って笑いかけると、

「テルさんは命の恩人ですし、このくらいはいつでも聞いでください!」

と、嬉しそうに満面の笑みで言われた。

その時、[探索者]に反応があった。

「2人とも魔物がくるから準備して」

「わかりました」

「了解です」

返事をした後、ミッシェルが剣を抜き構え、アリスは少し下がる。
しばらくすると、一匹の魔物が姿を現した。

四腕大熊 LV.169
HP  13058/13058
MP    1690/1690

スキル
[怪力LV.19][鋭爪LV.21][噛みつきLV.10]

「ッ!テルさん!逃げましょう!あれはSランクの魔物です。私たちでは勝てません」

「私が囮になるのでテルさん、お嬢様を連れて逃げてください!」

あれでSランクか。最初が深淵の迷宮だったせいか、感覚が麻痺してるな。

それよりも…

「その必要はないよ」 

ヒュッ!ズバッ!

「…は?」

状況に理解が追いつかない。目の前の魔物は自分よりはるかに強い魔物だ。ミッシェルが1人で対峙したら、何もできず殺されてしまうだろう。なのに、気づけばその魔物は首と胴が離れ、息絶えていた。

「何をしたのですか!テルさん!」

「ん?エアカッターで首を切っただけだが?」

「そ…んな、中級魔法でSランクを、しかも無詠唱。…これ程とは」

普通の人が通常、中級のエアカッターを発動すると、少し深めの切り傷を負わせるくらいだ。間違ってもSランクの首を落とすほどの威力はない。それも無詠唱となれば、威力も落ちているはずだ。
だからこれは、テルのLVが相当高いのだということを知った瞬間だった。

「テルさん、失礼ですがLVはいったい…?」

「……聞かないでくれ」

「…わかりました」

気まずそうに目をそらすテルに、ミッシェルの頭にはまさかの考えが浮かぶ。

(勇者と同等、もしくはそれより強い?)

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