俺らは満身創痍の問題児

小河理

No.25

 “シモ・ヘイヘ”


 フィンランドとソ連で起こった戦争『冬戦争』で多くのソ連軍を撃退し、ソ連軍からは“白い死神”と呼ばれていた。
 スナイパーとしての史上最多の成果を残している。


 そんな奴が目の前にいる。
 俺が闘うにふさわしい人物と思っていた。
 有象無象の腑抜けた野郎だったら気にも留めなかっただろう。


 俺は矢をケーブルにかけた。
 ケーブルを強く引っ張る。


 ケーブルはすごく重かった。しかし、引っ張るときだけ。
 ケーブルを引いた後がこの野郎の見せ場である。


 ケーブルを引くとともにコンパウンドボウが鈍く軋む音がした。
 しかし軋んだ音ほど力を込めてケーブルを引いていない。


 塩野入も銃のストックに肩を当て構えようとしている。
 ポケットからマガジンを取り出し、モシン・ナガンに装填した。
 カシャっといい音がその場に響いた。


 ついでにその間、俺はケーブルを引いたまま塩野入の準備が終わるまでずっと待っている。
 まるで戦隊モノで敵が主人公たちの変身をご丁寧に見学しているかのように。
 なんで敵はご丁寧に待ってるんだろうね。
 ぶっちゃけ変身中に攻撃しちゃえば敵は絶対に勝てるよね。
 マジ敵優しすぎ。


 塩野入はマガジンを装填した後、力強くコッキングレバーを引いてエジェクション・ポートへR弾が入っていく。
 コッキングレバーを引いたときに金色の輝くものが見えた。


 この銃で俺には勝てない。
 この銃を使うと隙が出るだろう。


 なんせこの銃のマガジンは、合計五発しか入らない。
 そして、ボルトアクションであり一発を撃つことにコッキングレバーを引かなければならない。オートマチックの銃を使うほうがまだマシだと考えている。
 まぁ、俺の完全なる偏見だが。


「さぁ血に染めよう」


 モシン・ナガンの銃口を俺に向けてくる。
 何倍サイトを付けているかはわからない。
 しかし、狙われたら最後だと一瞬にして思った。
 さっきの余裕は撤回せざるを得ない。


 まるで獲物を狩ろうとするトラの目だった。


 早く逃げないと。
 幸いなことに、学校内で障害物も多く弾を避けやすい環境だった。
 それと同時に追い詰められたら終了のサインが出てしまうということでもある。


 塩野入がトリガーに指をかける前に俺は、矢をケーブルにかけ、手前に引いた後固定することなく素早く塩野入めがけて射る。
 正確には狙っていない。
 一秒でも多く時間を稼ぐために放ったものだから。


 今の状況ではヤバい。
 最初は甘く見ていたが、見当違いも甚だしい。


 確実に倒すことのできる環境を作らなければならない。
 ただ逃げるだけではいけない。
 逃げながらも環境を整える。
 少しでも隙を見せた時点で死を覚悟しなければならない。
 なんせ、あの冬戦争の英雄なのだから。


 矢は塩野入の足元に刺さった。
 塩野入は一歩仰け反り目線が一瞬足元へ向かった。


 よし、今のうちだ!


 俺は急いで隣りの理科室へ入った。
 扉を急いで閉める。


 鍵が開いていたのが奇跡的だった。
 理科室の扉の鍵を急いで閉める。
 シモ・ヘイヘは五百人以上敵国群を殺すことができる英雄だった。





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