俺らは満身創痍の問題児

小河理

No.12



 水無月になった。
 予定していた期間よりも早くに連絡が来た。


『準備は整った』
『了解』


 メールの送り人は間宮。
 間宮は、集団に潜り込むプロフェッショナルである限り失敗はまずない。そして、利害が一致している限り裏切りはない。


「行動を起こす」


 航宅にて、隣に座る航も同様に行動を起こす。
 流れは完全に理解している。俺も航も。


 今日の深夜帯から行動し、勝負は明日全般。失敗すれば、退学どころでは済まないかもしれない。最悪死を覚悟しなければならない。


 そう―――。






 † † †






「今日……も、一緒に……帰って、いい? 」
「もちろんいいとも! 」


 今日もいつも通り一緒に帰る。
 私は、いつも通りすべてを偽ってプランを完遂する。


 いつも通り仲良くして、いつも通り話をして、いつも通り情報を聞き出す。
 急いではならない。ほんのちょっとずつでもいい。情報を聞き出し、流出させる。
 それが私『間宮 はすの』の使命。
 隣の席であるソイツは、完全に油断しきっている。油断させないといけない。


 いつもの仕事のように偽り、自分の体を使えば誰も嘘をつかない。
 まさしく女の特権である行為。すべて使う。


 部屋に行き、ベッドで股を開くだけですべてを語ってくれる。
 今までもそうしてきた。未来永劫変わらない。


 私はそういう―――
「もうお芝居はやめない? 」
 人間だ!


 ……は?
 考えている途中に話しかけられる。
 完全に思考が止まってしまった。油断していた。


「なん…の……? 」


 平然を装う。偽る。振舞う。
 いつものように。


「その話し方、外見、性格、旧名。僕は君のすべてを知っている。君たちの“作戦”をも、ね」
「よく......、わから……ない」
「今更隠さないでよ“マタ・ハリ”さん」


 ……。


「いや“マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ”さん」


 ……。
 すべてバレていた。旧名は臥牙丸君にしか言っていない。しかも当時の本名は誰にも話していないはず。
 “マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ”という名前は、大半の人には知られていない私『マタ・ハリ』の本名である。
 いや。
 そもそもばれないように工作はしていた。
 身バレしないように、体を偽り、声を偽り、性別を偽り、性格を偽った。


 それが当たり前のようにこいつにはバレ、当たり前のように今目の前で話している。
 なんでこいつは、すべてを知っていて私を襲わない?


「あなたは勘違いをしているよ」


 ……え?


「君がミスを犯したのではない。僕が君より上手だったってだけだよ」
「な……に? 」
「ただそれだけ」


 ……。


「ただそれだけ」





「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く