俺らは満身創痍の問題児

小河理

No.11



 立ちはだかる巨体。目の前に大きな壁が現れた。
 ソイツの体、顔、表情全て知っている。


『来られないってどういうことだ、間宮! 』


 今目の前でケータイ越しに会話している人物の名だ。そして、手紙を渡すように言った人物でもあった。つまり……


 当たり前のように約束を破り、便箋の中身を平然と目を通したことになる。


『扶桑は、二日前、つまり手紙をもらった前日の夜に夜襲を受けた』
『な……!? 』
 病院で包帯を巻かれているが、笑顔の男性の写真がメールに添付されていた。


『だから“私”が来た』
『……は? 』
『 “私”が来た』
『どゆこと? 』
『扶桑の代わりを私が受け持つ』


 何を言っているんだ? こいつの言葉には、それ以外も全て知っている、という意思が込められているように感じた。


『何をやるのか知っているのか? 』
『まぁ、だいたいは』


 この言葉を鵜呑みにしてはいけないことはわかっている。しかし、そのなんてこともないような言葉に、吸い寄せられ信じたい、鵜呑みにしたいと思わせる。
 こいつの重くない言葉には、重い感情がこもっていた。


『わ、わかった』 
『仲間の印として教えてあげるよ』
『……? 何を? 』
『私の正体』


 何を考えているのかさっぱりわからない。
 正体を晒すということは、旧名を教えるということであり、自分の先祖まで遡って経歴や犯罪歴などすべて教えるということに等しい。
 言動でたまたまわかってしまうことは少なくないが、自分から曝け出そうとする人はそうそういない。


『実は“間宮 栄二”という名前も嘘で、本名は“間宮 はすの”。性別は女。この体も作っているの。旧名は――――』


 旧名を聞いてすべて合致した。偽名、変装、性別詐欺などその名前を聞けばすべてわかる。
 しかも、女性だという。そんなもん、一人しかいない。
 こいつを敵に回すとやばいだろう。


『あとでもう一人のメンバーも教えてね』
『お、おう』


 そうメールで言い残すと、そのまま図書室から出て行った。
 作戦を成功させるために、顔を知っておきたいのはもちろん。だが一番は、間宮自身がソイツのことを仲間として背中を預けていい人か自分で確かめたいのだという。


 俺は、一切逆らうことができなかった。


 ケータイを再び眺める。
 新しく仲間となった間宮のメール。
 気付くべきだった。


 俺の最初のメールの返事に名前は一切なかった。誰が送ったかわからないメールを鵜呑みに行動をしてしまった。俺のメールアドレスを知っている内通者だった可能性もゼロではない、ということに気付くことができなかった。
 それを俺は、自分の都合の良いほうへと傾けてしまった。錯覚してしまった。
 こうやって情報が洩れ、襲撃されているのかもしれないということを考えもしないで。






 † † †






「で、どうだった? 」
「……まぁ、な」
 友人の航宅にいた。今日の報告のために寄り、ついでにお茶をいただいていた。
 朝のこと、図書室であったことを事細やかに説明する。


「お前はどう思った? 話を聞いて」
「なにもこうも信じてみるしかないだろうな」


 吉と出るか凶と出るか、付き合いをしてみないとわからないという結論となった。
 今は頭数が欲しかった。我々サイドの義勇軍が欲しかった。


 だけど、まぁ……


「あいつの旧名聞いちゃうと、完全に信じることできねぇんだよな……」


 俺は少し考えたあと、後ろに腕を突いて呟いてしまった。





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