俺らは満身創痍の問題児

小河理

No.05



 僕は王子様として育ち、ずいぶんと甘やかされて育たれていたことは自分自身でも気が付いていた。
 心地がいいせいで自分の口から指摘せず、意図的におんぶしてもらっていた。
 ずいぶん楽だった。
 楽しかった。


 ちやほやされる毎日。
 椅子に座っていれば何でも自分のもとに届いた。


 女の子に貢がれ力もない人間が手にしてはいけない、ヤバいものが手元に入る。
 これのおかげでろくに鍛錬していなかった僕が騎士団に入ることができたのはすでに懐かしかった。


 十二人いる騎士の一人。
 勇士団。


 カール大帝のパラディン。




 そう僕は―――。






 † † †






 すぐにスモークグレネードで視界が悪くなった。だけど、これは相手も同じなはず。


 筆ペンの進みは終わることを知らず、ひたすら僕の本に記し続けている。
 僕のいくつもある特技の一つだ。僕はいつもこの分厚い本『魔法の本』で人物を分析し、記すようにしていた。
 最初は手書きで行っていたことだが、今ではその人物を視覚に入れるだけで、いわゆる『魔法』のように記すことができるようになった。


「そうか、その本の表紙見たことあるよ」
「……」
 ばれてもしょうがない。なんせ古くからある本だから。


「その本は魔法を打ち消す本、魔法の本。そんな本を使っている人物なんてそうそういない。そうお前は―――」


 確かにこんな本はあまり使っている人物はいない。隠すつもりがなかったから、まぁバレてもしょうがないが……。


「だけど、その本は魔法を記述するための本じゃないはず……」
「そんな考えを持っているから新しいことが身につかないんだよ! 」


 僕は、何も見えないスモークの中で叫んだ。
 何としても……。
 何としても、書き上げてみんなのもとに。


「何やろうとしているか知らないけど、そんなことはさせないし、する時間すらないよ」


 ングッ!


 っな!


 胸に違和感を覚えた。
 違和感のするところを手で触ると温かい。


 ……。
 わからない……。
 わからない……!
 いつの間にか斬られていた。当たり前のように斬られていた。


「まだ倒れないんだね。これまでの生徒たちはこれだけで終わったんだけどね」


 すべて記す。
 コイツのことを。
 こいつが犯人だということを。


「じゃあね―――」


 ッン!
 一瞬にして全身に力が入らなくなった。


 だけど、書きたいことはすべて書いた。




「頼ん...だ......、ヒポ……グ…リフ……」


 僕の声とともに、僕のペットが僕の本を持ち去ってくれる。


 これでいい。
 これでいいんだ。


「じゃあね、最弱のカール大帝のパラディン・シャルルマーニュ十二勇士『アストルフォ』くん」


 僕は、その声とともに意識を失った。
 ペットが『アイツ』にしっかり届けてくれたかはわからない。
 届けてくれたと信じるしかない。


 あとは頼んだぞ……。





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