俺らは満身創痍の問題児

小河理

No.01



 この世には英雄がたくさん存在している。いや、君らの時代では存在して『いた』のほうが正しいかな?
 だけど違う。僕たちの世界はそんなことはない。今現在にも英雄は存在し存命する。
 英雄が死んでいるということはありえない。なぜなら『英雄』なのだから。


英雄は、死んだと思った時点で死んでしまう脆い刃のような存在である。


 そのことを理解していない人が多すぎる。このことを肝に銘じておくべきだ。
 英雄とは心の中に生きている存在ではない。




 ここまで長ったらしく短い解説をしたことには理由がある。
 見てもらえれば―――、と言ってしまえば何事も簡単に終わることだが、そう簡単にはこの“英雄譚”については終わらせてはいけない。
 僕たちが、簡単に終わらせてしまったら、それこそ『英雄』という言葉への侮辱であり冒涜となってしまう。
 みんながみんなそれぞれの英雄譚を持ち、悠々と話したがる。しかし、それは英雄譚ではなく、ただの自慢話。
 独り歩きしてこそのストーリーでなくてはいけない。
 僕もそうだ。
 何もしていないのに英雄と言われ、知らない道具を数多く持たされてきている。僕にはそんな力はない。あったためしがない。そう、僕には。


 僕には―――、




 何もなかった。










 僕はいつも通り一年一組での自分の席へ腰を下ろした。出席番号トップバッターである僕『相枝 和』は、あまり友だちはいない。“あまり”だ。


 この世に友達が少ない人物なんてそうそういない。……違うな。友達がいない奴は「自分には友達がいない淋しい人物だ」と自分勝手に、自分本位に、傲慢に決めつけているだけ。
 僕は決めつけていない。だから淋しい人間でもないし、友達がいない人間でもない。


「おはよー、カズく~ん」
「おはよう、臥牙丸くん」


 教室に入ってきた『地曳 臥牙丸』くんに挨拶を返す。僕の友人の一人でもある。
 臥牙丸くんとは中学の時からの友人で、この高校も一緒に決めたほどの中だった。学力的には差があるけどそれほど気にならず、逆に教え合いができるいい関係だった。


「ねぇ、いい加減“旧名”教えてよぉ~」
「いやだよ。それよりマナーとしてどうかと思うよ、そんなこと聞いて」
「そうかな?」


 僕たちには“新名”と“旧名”というものがある。出生時に親から授かる名前を新名、代々受け継がられている名前を旧名と今の僕たちは呼んでいた。旧名というものを尋ねることはマナー違反とされており、あまり聞くものはいないのだが……
「みんな昔のこと考えすぎなんだよ。もっと気楽にいこうよ、気楽に」
 そういう臥牙丸くんですら自分からは教えてくれない。「教えてくれたら教えるよ」だそうだ。


「やっと空気が気楽になったね」


 臥牙丸くんにそう言われ僕は考え込んだ。すでに皐月となっているが、最近まで一日一日重い空気でみんな席に座りっぱなしだった。まぁ僕もだけど。
 そんな光景を見ていたから、今現在のみんなが席を立ち様々な人のところ話している姿を見ると微笑ましくなった。






「さぁ席に付け」
 担任の粕谷先生が教壇に立つ。先生は一人ひとり名簿の名前を読み上げ、出席を取る。
「全校朝礼があるから速やかに体育館へ行けよ」


 僕は、一番ドアの近くの席ということもあり最初に廊下に出た。それを追うかのように臥牙丸くんが教室から出てきて、僕たちはクラス先頭を歩く形で体育館へと向かった。




 いつものように無駄に長い校長先生の話も終わり、今は進路指導の先生が話していた。みんなしっかり聞いていないようで中には寝ている人もちらほらいた。


『えぇ最後に皆さんに大事なお話があります。校長先生お願いします』


 進行をやっている生徒指導の先生が最後にまた校長先生に話を振った。
 僕たちはまた長い話が始まると思いため息をついた。


『中途半端な時期となりますが、職員会議や教育委員会との話し合いの末新しい校則を立てることになりました』


……。


『持ち点より多く校則違反をした者には退学としてわが校を去っていただきます』


 ......え?





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