チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
起死回生
「――――」
アリアさんが、完全に闇に飲み込まれるのを見届けた。僕は結局なにも出来なくて……、伸ばされた手に、触れることすらできなかった。
「くく……。これで、これでようやく終わるのさ。このくだらない世界が! マルティネスの血もここで途絶えた。もうここに、希望なんてありはしない! 世界が救われることなんて、永遠にないっ!」
高笑いする魔王の声なんて、僕の耳には届いていなかった。……ただひたすらに、アリアさんが飲み込まれた闇を見つめていた。
アリアさん……やっと、ディランさんに会えたのに、こんなことになるなんて……そんなの、あんまりだ。
「アリアさん…………出てきてくださいよ、こんな……嘘ですよね?」
「嘘なわけないだろう? 見てみろよ、ほら、そこは完璧な闇だ。吸い込まれて消えてしまいそうなほどの、漆黒だ。そこからマルティネス・アリアが出てくることはない。二度と、永遠に。
あいつはそれほどの力はない。なのにここに来た。私の狙いが自分だとも気づかずに、のうのうとな」
「…………」
僕のミスだ。
例えそれに、今まで誰一人として気づいていなかったとしても、これは、紛れもなく僕のミスだ。
――だから、僕がけりをつける。
「ヤナギハラ・ウタ、今頭を垂れ、私に従うというのなら――」
「セイントエレキテルっ!」
白い雷が魔王に向かって降り注ぐ。魔王はそれを軽く薙げばじっと僕を見据えた。
「……まさかとは思うが、そんなちっぽけな剣一つで私に立ち向かうというのか? 力が込められているとして、それは単なる一振りの剣。お前がするべき、一番賢い判断は、私に従うことだと思うが?」
「嫌だ! 僕は……今まで、色んなものをみてきた。ドラゴンに襲われる人々、人身売買に囚われたり、魔物の幻覚に惑わされたり、大切な人を失ったり、大きな力に怯えながら生きていたり、心に惑わされて苦しんで、そのまま死んでいった人も知っている。
僕はっ、そんな人たちを知っている……ここで諦めるわけにはいかないんだ! 例えそれで敵わなかったとしても、僕がやらなきゃいけないのは、この一本の剣で立ち向かうことだから!」
絶対に諦めない。
この腕が、足が、動くかぎりは、絶対に諦めることは出来ない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――――。
――闇、だ。
どこまでも果てしなく続く闇に、私は立ち尽くしていた。手を伸ばしてもその先が見えないような闇。……なるほど、これが、魔王の力なのか。
とまぁ、自分がそれに飲み込まれているというのに、驚くほど私は冷静だった。あまりにも冷静に辺りを見渡して、それから考える。ここから出るにはどうしたらいいだろうか。
「……セイントエレキテルっ!」
雷は起こらない。魔法は使えないみたいだ。それもそうか、相手の力の方が遥かに偉大なのだから。
それならばと剣で切りつけてみる。……無理だ。傷一つつかないどころか、手応えがまるでない。切ったのに切っていないような、おかしな感覚だ。
(……それにしたって、変だな)
闇は、いわゆる闇である。絶望であり、孤独であり、それは人を飲み込み、餌食にして、巨大化していく。そういうものなのだ。
しかし今、闇は私にまるで干渉してこない。こんなところに一人で放り出されたのだから、普通に考えれば絶好の餌のはずだ。それなのにこうして自我を保てているというのはやはり……。
『…………流石、頭がいいですね、アリアは』
響き渡る声に、ハッとした。それから、胸がぐっと熱くなって、思わず表情が緩んだ。……いつの間にか、体が緊張していたのかもしれない。ゆるゆるとほどけた体は駆け登る熱に耐えかねて雫をこぼした。いくつも、いくつも。
……忘れるはずがない声だ。忘れたことなんかない声だ。大好きな声。優しい声。8年ぶりに聞いた……声。
「っ……ここに……ここに、いたんですね、母上…………!」
『アリア、こんなに……こんなに大きく、立派になって』
「母上ぇっ! 会いたい……会いたいです! 少し、ほんの少しでいいから、ここに来てください! ほんの少しでいいから、私に触れてください! 母上……」
『アリア、私はいつも、あなたのそばにいた。今もそばにいるわ』
母上の言葉はそこで一瞬途切れ、次にはもう少し私の近くで響いた。
『アリア……やらなきゃいけないことは、わかってる?』
「……魔王を倒して、世界を、救うこと……」
『そう、つまりね? アリアが今出来る最善のことは……この絶望に抗うことよ』
「…………」
絶望に、抗う。
『不屈の精神、アリアがそんな称号を持ったとき! 私はすごく嬉しかったの。強い子になってくれる。将来、この国を導けるほどの大きな力になれる。そして……一つの心配や不安もなく、「人柱」になれるって、ね』
「母上っ…………」
『アリアにやるつもりがあるなら、私はその「空のスキル」に、新しい力を注いであげましょう』
……そんなの、答えはひとつだ。
だって私は……母上の、子で、マルティネス帝国の、姫だ。
「教えてください、母上。その力を」
『――呪文、「起死回生」』
私は受け取った瞬間、そのスキルを発動させた。
アリアさんが、完全に闇に飲み込まれるのを見届けた。僕は結局なにも出来なくて……、伸ばされた手に、触れることすらできなかった。
「くく……。これで、これでようやく終わるのさ。このくだらない世界が! マルティネスの血もここで途絶えた。もうここに、希望なんてありはしない! 世界が救われることなんて、永遠にないっ!」
高笑いする魔王の声なんて、僕の耳には届いていなかった。……ただひたすらに、アリアさんが飲み込まれた闇を見つめていた。
アリアさん……やっと、ディランさんに会えたのに、こんなことになるなんて……そんなの、あんまりだ。
「アリアさん…………出てきてくださいよ、こんな……嘘ですよね?」
「嘘なわけないだろう? 見てみろよ、ほら、そこは完璧な闇だ。吸い込まれて消えてしまいそうなほどの、漆黒だ。そこからマルティネス・アリアが出てくることはない。二度と、永遠に。
あいつはそれほどの力はない。なのにここに来た。私の狙いが自分だとも気づかずに、のうのうとな」
「…………」
僕のミスだ。
例えそれに、今まで誰一人として気づいていなかったとしても、これは、紛れもなく僕のミスだ。
――だから、僕がけりをつける。
「ヤナギハラ・ウタ、今頭を垂れ、私に従うというのなら――」
「セイントエレキテルっ!」
白い雷が魔王に向かって降り注ぐ。魔王はそれを軽く薙げばじっと僕を見据えた。
「……まさかとは思うが、そんなちっぽけな剣一つで私に立ち向かうというのか? 力が込められているとして、それは単なる一振りの剣。お前がするべき、一番賢い判断は、私に従うことだと思うが?」
「嫌だ! 僕は……今まで、色んなものをみてきた。ドラゴンに襲われる人々、人身売買に囚われたり、魔物の幻覚に惑わされたり、大切な人を失ったり、大きな力に怯えながら生きていたり、心に惑わされて苦しんで、そのまま死んでいった人も知っている。
僕はっ、そんな人たちを知っている……ここで諦めるわけにはいかないんだ! 例えそれで敵わなかったとしても、僕がやらなきゃいけないのは、この一本の剣で立ち向かうことだから!」
絶対に諦めない。
この腕が、足が、動くかぎりは、絶対に諦めることは出来ない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――――。
――闇、だ。
どこまでも果てしなく続く闇に、私は立ち尽くしていた。手を伸ばしてもその先が見えないような闇。……なるほど、これが、魔王の力なのか。
とまぁ、自分がそれに飲み込まれているというのに、驚くほど私は冷静だった。あまりにも冷静に辺りを見渡して、それから考える。ここから出るにはどうしたらいいだろうか。
「……セイントエレキテルっ!」
雷は起こらない。魔法は使えないみたいだ。それもそうか、相手の力の方が遥かに偉大なのだから。
それならばと剣で切りつけてみる。……無理だ。傷一つつかないどころか、手応えがまるでない。切ったのに切っていないような、おかしな感覚だ。
(……それにしたって、変だな)
闇は、いわゆる闇である。絶望であり、孤独であり、それは人を飲み込み、餌食にして、巨大化していく。そういうものなのだ。
しかし今、闇は私にまるで干渉してこない。こんなところに一人で放り出されたのだから、普通に考えれば絶好の餌のはずだ。それなのにこうして自我を保てているというのはやはり……。
『…………流石、頭がいいですね、アリアは』
響き渡る声に、ハッとした。それから、胸がぐっと熱くなって、思わず表情が緩んだ。……いつの間にか、体が緊張していたのかもしれない。ゆるゆるとほどけた体は駆け登る熱に耐えかねて雫をこぼした。いくつも、いくつも。
……忘れるはずがない声だ。忘れたことなんかない声だ。大好きな声。優しい声。8年ぶりに聞いた……声。
「っ……ここに……ここに、いたんですね、母上…………!」
『アリア、こんなに……こんなに大きく、立派になって』
「母上ぇっ! 会いたい……会いたいです! 少し、ほんの少しでいいから、ここに来てください! ほんの少しでいいから、私に触れてください! 母上……」
『アリア、私はいつも、あなたのそばにいた。今もそばにいるわ』
母上の言葉はそこで一瞬途切れ、次にはもう少し私の近くで響いた。
『アリア……やらなきゃいけないことは、わかってる?』
「……魔王を倒して、世界を、救うこと……」
『そう、つまりね? アリアが今出来る最善のことは……この絶望に抗うことよ』
「…………」
絶望に、抗う。
『不屈の精神、アリアがそんな称号を持ったとき! 私はすごく嬉しかったの。強い子になってくれる。将来、この国を導けるほどの大きな力になれる。そして……一つの心配や不安もなく、「人柱」になれるって、ね』
「母上っ…………」
『アリアにやるつもりがあるなら、私はその「空のスキル」に、新しい力を注いであげましょう』
……そんなの、答えはひとつだ。
だって私は……母上の、子で、マルティネス帝国の、姫だ。
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