チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
――
「ウタっ……?!」
突然襲いかかってきた羽汰の攻撃を避けられず、剣はいとも簡単に私の腕を貫く。痛みを通り抜け、熱さに感じる傷口を、咄嗟に手で押さえた。
「羽汰……私だ! アリアだ! 分からないのか!?」
ウタはそれに答えることはしない。剣を振るい、私に襲いかかってくる。それをなんとか避け羽汰を
「っ――?!」
避けたと思った剣は、いつの間にか背後にあって。しまったと思ったときにはすでに遅かった。
羽汰はなんの躊躇いもなく、私の体を貫く。
すぐに気がついた。……理由は二つ。一つは、この空間では何があっても死なないから。鋭い痛みこそやってくるが、始めに切り裂かれた腕も、体を貫いたはずの剣のあとも、その数秒後には消えてなくなった。……いや、傷はある。あった。回復速度がおかしいのだ。その答えは目の前にある。
もう一つの理由。……この空間は『柳原羽汰』の世界。つまり、『柳原羽汰』が願ったこと全てが、現実になるのだ。
この空間で、私が羽汰に勝てる可能性は……ほぼ、ゼロに等しい。
「あぁ……その様子だと、気づいたみたいですね。アリアさんでも、ここで僕に勝つのは無理ですよ。だから、諦めて一人で帰ってください? そうすれば僕も、あなたを傷つけないで済む」
「……それで私が諦めると思っているのか?」
「もちろん」
「……不屈の精神、なめるなよ」
私は羽汰に光の槍を放つ。が、それは闇に飲み込まれた……と思った瞬間、その何倍もの量の槍となって返ってきた。避けきるなんて出来ない。
「ぅ……っ、羽汰っ! みんなが待ってるんだ、お前を!」
「それは僕じゃなくて……僕の『力』じゃないんですか?」
「違う、みんな、『柳原羽汰』を待ってるんだ! 羽汰だから、待ってるんだ!」
「柳原羽汰は死にましたよ」
「羽汰!」
「もう僕は死んだんですよっ!」
雷が落ちる。避けようにも、足が動かない。なにかと思って足元を見てみれば、どこに繋がっているかも分からないような足かせが、私の足についていた。避けられなければ……
「っ…………!」
この痛みに、ひたすら耐えるしかないだろう。
「早くっ……早く、諦めてください……!」
羽汰は、必死にそう叫びながら、私に攻撃を浴びせ続ける。……私はその攻撃を、じっと耐え続ける。
そして、だんだん朦朧としてくる意識の中で、じっと目の前の羽汰を見つめた。
……初めて羽汰が剣を握ったときのことを思い出した。腰も引けてて、頼りなくて、スラちゃんと追いかけっこしていた。情けない、頼りない、強くないの三拍子揃った状態。
それに比べて、今の羽汰は…………
「…………」
なんともまぁ、しょうもない。
羽汰は本当に、こんなことで私が諦めるとでも思っているのだろうか。だとしたら羽汰は……かなりの馬鹿だ。
「なんでっ……何で諦めてくれないんですか!」
「……お前を助けたいからな、羽汰」
「僕は死ぬことが救いなんですよ! 何で諦めて、死なせてくれないんですか! そこまでして、僕を生かそうとするその想いはどこからくるんですか!? 分からない、分からない……っ」
「……羽汰、お前は、私たちの希望なんだ。それは『勇気』を持っているからじゃない、お前が、柳原羽汰だからなんだ」
「……僕のどこか、『希望』だなんていうんですか? こんな、『破滅』への道しか作らないような、誰一人助けられないような僕の、いったいどこが、希望なんですか!?」
羽汰は半ば錯乱し、叫ぶ。自我こそあるものの、普段の羽汰とは全く違うその様子を、私は、自分でも驚くほどにれ冷静な目でみていた。
「……聞け、羽汰。私たちはな」
「アリアさんはなにもわかってないんだ! 僕を助けたって、世界は救われない! 誰も幸せになんてなれないんだ! 僕がっ……僕がいたから、充希は死んだ。充希を殺したのは、僕だ……。僕が、僕のせいだ。たいせつだったはずなのに……」
「羽汰!」
「だからもういいんですよ。ここで終わらせるんです。ここで、全部終わりにしましょう。僕なんかどうなったっていい。神様もそう思ったから、僕に力をくれたんですよ! 『死にたいと思う気持ち』を糧にするスキルを!」
「羽汰! 私の話を聞いてくれ!」
私の声は……まるで羽汰に届かない。そこにいるのに、耳に蓋でもしているかのようだ。なにも聞きたくない、なにも受け入れたくない。死にたい。そんな気持ちばかりが伝わってくる。
これを受け入れてやるのが、優しさなのか? この想いを受け入れ、彼を殺すのが、優しさで、正しいことなのか?
それともこの考えをはねのけ、そんなことを言って甘えるな、大勢の人の命がかかってるんだと、引っ張りあげるべきなのか。
「…………」
私が出した答えは……どちらでもない。
今の羽汰を否定することも、過去の羽汰をしていすることも、私には出来ないし、したくはなかった。
そして、何よりも羽汰に、後悔だけはしてほしくなかった。……だからこそ、その言葉は許せなかった。
「僕なんかっ、アリアさんたちと出会う前に、あの日あのときに、死んでしまえばよかったのに!」
突然襲いかかってきた羽汰の攻撃を避けられず、剣はいとも簡単に私の腕を貫く。痛みを通り抜け、熱さに感じる傷口を、咄嗟に手で押さえた。
「羽汰……私だ! アリアだ! 分からないのか!?」
ウタはそれに答えることはしない。剣を振るい、私に襲いかかってくる。それをなんとか避け羽汰を
「っ――?!」
避けたと思った剣は、いつの間にか背後にあって。しまったと思ったときにはすでに遅かった。
羽汰はなんの躊躇いもなく、私の体を貫く。
すぐに気がついた。……理由は二つ。一つは、この空間では何があっても死なないから。鋭い痛みこそやってくるが、始めに切り裂かれた腕も、体を貫いたはずの剣のあとも、その数秒後には消えてなくなった。……いや、傷はある。あった。回復速度がおかしいのだ。その答えは目の前にある。
もう一つの理由。……この空間は『柳原羽汰』の世界。つまり、『柳原羽汰』が願ったこと全てが、現実になるのだ。
この空間で、私が羽汰に勝てる可能性は……ほぼ、ゼロに等しい。
「あぁ……その様子だと、気づいたみたいですね。アリアさんでも、ここで僕に勝つのは無理ですよ。だから、諦めて一人で帰ってください? そうすれば僕も、あなたを傷つけないで済む」
「……それで私が諦めると思っているのか?」
「もちろん」
「……不屈の精神、なめるなよ」
私は羽汰に光の槍を放つ。が、それは闇に飲み込まれた……と思った瞬間、その何倍もの量の槍となって返ってきた。避けきるなんて出来ない。
「ぅ……っ、羽汰っ! みんなが待ってるんだ、お前を!」
「それは僕じゃなくて……僕の『力』じゃないんですか?」
「違う、みんな、『柳原羽汰』を待ってるんだ! 羽汰だから、待ってるんだ!」
「柳原羽汰は死にましたよ」
「羽汰!」
「もう僕は死んだんですよっ!」
雷が落ちる。避けようにも、足が動かない。なにかと思って足元を見てみれば、どこに繋がっているかも分からないような足かせが、私の足についていた。避けられなければ……
「っ…………!」
この痛みに、ひたすら耐えるしかないだろう。
「早くっ……早く、諦めてください……!」
羽汰は、必死にそう叫びながら、私に攻撃を浴びせ続ける。……私はその攻撃を、じっと耐え続ける。
そして、だんだん朦朧としてくる意識の中で、じっと目の前の羽汰を見つめた。
……初めて羽汰が剣を握ったときのことを思い出した。腰も引けてて、頼りなくて、スラちゃんと追いかけっこしていた。情けない、頼りない、強くないの三拍子揃った状態。
それに比べて、今の羽汰は…………
「…………」
なんともまぁ、しょうもない。
羽汰は本当に、こんなことで私が諦めるとでも思っているのだろうか。だとしたら羽汰は……かなりの馬鹿だ。
「なんでっ……何で諦めてくれないんですか!」
「……お前を助けたいからな、羽汰」
「僕は死ぬことが救いなんですよ! 何で諦めて、死なせてくれないんですか! そこまでして、僕を生かそうとするその想いはどこからくるんですか!? 分からない、分からない……っ」
「……羽汰、お前は、私たちの希望なんだ。それは『勇気』を持っているからじゃない、お前が、柳原羽汰だからなんだ」
「……僕のどこか、『希望』だなんていうんですか? こんな、『破滅』への道しか作らないような、誰一人助けられないような僕の、いったいどこが、希望なんですか!?」
羽汰は半ば錯乱し、叫ぶ。自我こそあるものの、普段の羽汰とは全く違うその様子を、私は、自分でも驚くほどにれ冷静な目でみていた。
「……聞け、羽汰。私たちはな」
「アリアさんはなにもわかってないんだ! 僕を助けたって、世界は救われない! 誰も幸せになんてなれないんだ! 僕がっ……僕がいたから、充希は死んだ。充希を殺したのは、僕だ……。僕が、僕のせいだ。たいせつだったはずなのに……」
「羽汰!」
「だからもういいんですよ。ここで終わらせるんです。ここで、全部終わりにしましょう。僕なんかどうなったっていい。神様もそう思ったから、僕に力をくれたんですよ! 『死にたいと思う気持ち』を糧にするスキルを!」
「羽汰! 私の話を聞いてくれ!」
私の声は……まるで羽汰に届かない。そこにいるのに、耳に蓋でもしているかのようだ。なにも聞きたくない、なにも受け入れたくない。死にたい。そんな気持ちばかりが伝わってくる。
これを受け入れてやるのが、優しさなのか? この想いを受け入れ、彼を殺すのが、優しさで、正しいことなのか?
それともこの考えをはねのけ、そんなことを言って甘えるな、大勢の人の命がかかってるんだと、引っ張りあげるべきなのか。
「…………」
私が出した答えは……どちらでもない。
今の羽汰を否定することも、過去の羽汰をしていすることも、私には出来ないし、したくはなかった。
そして、何よりも羽汰に、後悔だけはしてほしくなかった。……だからこそ、その言葉は許せなかった。
「僕なんかっ、アリアさんたちと出会う前に、あの日あのときに、死んでしまえばよかったのに!」
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