チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

決別

「…………あったかくない手だな」

『……え』


 おいらは、父さんの手を握った手に、力を込めた。


「短期間ゴリラ!」

『な……ポロン!』


 父さんの体が吹き飛ばされると同時に、おいらはその手を離す。そして、しっかりと地面を踏みしめて、彼を見た。
 ……おいらの知っているぬくもりは、これじゃない。


「おいお前! ……おいらがお前なんかの思い通りになると思ってたら、大間違いだい! おいらには、仲間がいるからな!」

『は……はは、俺は、お前の家族だぞ? 仲間よりもずっと深く、お前のことをしっている。なぁ、俺と一緒に行こう?』

「いやだい」


 おいらは再び伸ばされた手をリヴィーで捕らえた。


「……おいらの知ってるぬくもりは、そんなんじゃないんだい」


 『父さん』の眼が赤く光ったのが見えた。……やっぱり、あいつは父さんじゃない。ただの魔物だ。ただの魔物なら…………倒すことも、簡単なはず。


「おいらの知ってるぬくもりはっ……!
おいらの道を、塞いだりなんてしない! おいらの意思で動かせてくれるんだい!」


 短剣を抜いて、父さんに斬りかかった。それを父さんは、同じように短剣で受け止めた。


『ポロン……外に行ったって、良いことなんて何もない。苦しかったろう? 痛かったろう? 自分を犠牲にすることばかり学んで、他のことはさっぱりだ。そんなんでいいのか?』

「それでもおいらには、居場所が出来た」


 短剣を押し切る。そして、その勢いのまま振りかぶった。


「おいらは、『存在』を手に入れたんだい! ここにいたら、絶対に手に入らなかったものだ……っ、だから!」


 短剣を、振り下ろした。


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「……それでも私は、死にたくない」


 握りしめた刃の先は、お父さんとお母さんに向けた。これも裏切りだと、悪いことだと言われるのなら、私は悪にでもなんにでもなる。


『フローラ……! 二度も俺らを裏切るのか!』

「いいえ! ……これは、裏切りじゃない。これは、私の願い……。私が! ……自分で選べる、最善の願い」

『願い……? あなたになにかを望む権利があるとでも思ってるの?』


 ない……と、思ってた。けど、違う。
 私にはその権利がある。助けてって、声をあげる権利がある。この……トラウマになった過去を打ち砕く、権利がある。


「……お母さんお父さん、ごめんなさい。でも、あなたたちは違いますよね」

『なにを』


 私は、ナイフを握りしめた。


「あなたたちは、私の過去を具現化した魔物……。分かりますよ、だって、どんなに酷いことされても、私の両親ですから」


 笑って、過去を切り裂いた。


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 自分を捨てれば、みんなが助かる? 自分を捨てれば、幸せになれる?


「そんなわけないよ」

『……なんだと?』

「だって、もしそうなら、ウタたちがあんなに必死にぼくを止めるはずないもん!」


 ぼくは、初めて……初めて、本気で目の前の相手と戦おうと、手のひらに力を込めた。


「……アイス!」


 小さな氷の粒は、目の前の敵に飛んでいく。それを軽く避けると、男性はクスクスとぼくのことを笑っていた。


『そんな攻撃で俺に勝てると?』

「……思ってるよ」

『はっ、馬鹿を言うな。あのときの、お前は素晴らしかった……。すべてを破壊する化け物……! あの姿こそ、スライムであるお前の最大の可能性だというのに……』

「ぼくはあんな化け物になんかなりたくないよ!
 ……ぼくは、スライムのままだって幸せだったんだ。だって、ウタたちがいたから。ウタたちは、ぼくのことをぎゅってしてくれて、優しく笑いかけてくれて、とってもとっても……あったかいんだ」


 ぼくは、もう一度その人をしっかりと見た。


「ひとりぼっちの強さなんか……いらない!」


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「……すまぬ、ウタ殿」


 我は降り注ぐ光の槍を、すべて闇の槍で打ち消した。そして、目の前のウタ殿とニエルを交互に見据える。


「……我は、足手まといかもしれない。ただの足枷であるかもしれない。使い捨ての駒なのかもしれない。
 ……それでも、我は、彼らを守り抜くことを願い、誓ったのだ。お主らに曲げられる筋合いはない」

『……そっか、ドラくんは、僕らのことどうでもいいんだね』

「それは違う」


 我は、姿をドラゴンに変える。そして、炎を吐きながら降下した。……どうでもいいだなんて、そんなこと、思うはずがないだろう。


「お主たちのために、我がいない方がいいとしても……戦力的に、その方が有利だとしても……! ……ウタ殿は、我を助けに来たのだ」


 もうどうなっても構わない。彼らを救えるなら、この身が永遠に崩れ去り、消えてしまっても構わない……。本気でそう願っていたのに、彼はやってきた。


「我の存在が足かせだろうが、我の力が足りなかろうが……! 我が共にいて生き甲斐を感じるのは、ウタ殿のそばにいるときだ。一番生きていると感じるのは自分自身だ」


 我は、もう一度、生きる意味を見つけた。人のために生きる意味。
 それが……我の、存在意義。

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