チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

勇気の影

「っ…………あ? んだ……」

「……起きたか。ウタ殿、起きたぞ」

「ん、ありがとうドラくん」

「は……あ? お前ら、何がしたい?」


 目が覚めたニエルは、目に見えて動揺しているようだった。……まぁそうだろう。僕らがニエルを介抱する利点なんて、彼には思いつかないのだろうから。
 とはいえ、また襲われても困るので、手だけはちょっと拘束させてもらってる。ジュノンさんからもらった『化学』……鉄も簡単に変形させられるからとても便利だ。蔦じゃ焼かれちゃうからね。


「……お前に聞きたいことがあるんだ」


 そう切り出したのはアリアさんだった。アリアさんは僕とドラくんの間を縫い、ニエルと目を合わせた。


「すぐにでもギルドに突き出そうかとも思ったが……お前は、かなりの情報通だとドラくんが言っていたからな。知っているかと思ったんだ」

「知っている? なにをだ? ……はっ、知っていたところでお前らに話すかどうかは分からないぞ?」

「教えてほしい」

「……聞くだけ聞いてみろ」


 アリアさんはちらりと僕に目をやる。……僕から、ということだろう。


「……国王は、以前からあんな感じなんですか?」

「あんな感じ?」

「あんな……人の命を、なんとも思っていないみたいな、人の心を失っているような」

「…………ほお?」


 それを聞いたニエルは、静かに笑った。その瞳の奥は……確実に僕を捉えていた。


「それを知ってどうする? 何がしたい? なにをどうしたい?」

「もし、国王が、そもそもあぁいう人だとしたら、それはもう僕らにはどうしようもありません。でも、何らかの原因であんな性格に変わっているとしたら……」

「……変わっているとしたら?」


 僕は、自分の手のひらを見つめた。


「…………僕は、その原因を知らなきゃいけない。知って、その原因を探さなきゃいけない。その原因は……きっと、僕の影だから」

「…………」


 ニエルはじっと僕の方を見ていた。深い青色の瞳が、僕の中を探る。そして彼は、はぁ、と大きく息をついた。


「……断っても、言うまで聞くつもりだな? その目は」

「はい」

「……特殊職か?」

「僕は、『聴き手』らしいです」

「なるほど。つまり考えさせるだけでいいわけだ。それだけでお前は、俺から情報を抜き取れる」

「はい。でも……」


 僕は、この力が、いまいち好きになれなかった。人の心を、空気を読み取って生きるようなこの感覚に……どうしても慣れなかった。


「僕は、出来れば、この力を使わないで生きていきたいんです」

「…………」

「だから、教えてください」

「ウタ殿……!」


 頭を下げる僕をドラくんは制するが、アリアさんは何も言わなかった。その様子を見たニエルは、クスクスと面白そうに笑う。


「ほーん? 面白い。なら教えてやろう。ただし」

「あ、対価を求めるなら僕にお願いします。ドラくんはダメです。そもそもこの取引に反対しているんですから」

「……ふん、金貨五枚だ。こっちだって面倒事に巻き込まれるのはごめんなんだよ」


 僕はアイテムボックスから金貨を五枚取り出して、ニエルの前に置く。それを確認したニエルはゆっくりと話し出した。


「……あぁそうさ。そもそも国王は、あぁいうことを言うような『こっち側の人間』じゃなかった。人の命を救い、守るような……俗に言う、善人だったよ。反吐が出るほどにな」

「そんな国王は、どうしてあんな感じになってしまったんですか?」

「簡単さ。『力』が働いたんだよ。得たいの知れない『力』が。それは、悪とも言い切れず、しかし正義にもなれなかった力だ」

「……その力って、つまりはなんなんですか?」

「俺が人を殺す度、大きく感じていた力だ。だが、それが何かは分からねぇ。残念ながら、そこまでの力は俺にはなかったのさ」

「…………」


 おそらく、その『力』というのは、もう一つの勇気である『自己防衛』つまり『誰しもが持っている感情であり、欲』なのだ。
 しかし僕らには、いまいちこれがなんなのか掴めない。……そりゃそうかもしれにい。だって今この瞬間抱いている感情だって、言葉や形に表すのは難しいことだ。自分のことでもそうだというのに、他人の、それも自分を一度は殺そうとした人の感情を読み取るなんて……そう簡単に出来るはずがない。


「たがまぁ……これだけは忠告しておいてやるよ」


 ニエルは蔑むように僕らを見下し、口角をほんの少しだけあげて、不気味に笑ってみせた。闇夜に暗躍する殺人鬼らしい、恍惚とした猟奇的な笑みだった。


「今のままじゃあ、俺にこうして勝てたとしても…………あいつには勝てねぇ。サクッと殺されて捨てられて終わりだ」

「…………」

「それが嫌なら、レベルをあげるんだな。ステータスアップが出来るのも、一人だけなんだろう? ならなおさらだな」

「……やけに教えるじゃないか」


 ドラくんがポツリと呟くと、ニエルはその青い瞳を細く歪めた。


「そりゃそうだよ。死なれちゃ困る。
 だって――あの言葉を聞かせた以上、その命を摘み取るのは俺でなきゃいけないんだから。なぁ?」

「…………」


 ドラくんは、それにはなにも返さなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品