チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

血の気が多い?

 それからスラちゃんも起き、ドラくんと二人で身支度をする。僕も川で顔を洗い、その横でアリアさんたちが魚を何匹か捕まえていた。


「うわぁー! 見ろよウタ兄! でっかい魚!」

「うわ、本当だ! すごいね」

「ウタさん、生きている魚は大丈夫なんですか?」

「うん、まぁ生き物は嫌いじゃないからさ。ピラニアとか狂暴な魚じゃなければ」

「ピラニア?」

「よく知らないけどヤバイ魚みたいです」

「でも、焼き魚はダメなんだよねー、ウタ」

「……怖いじゃん?」

「相変わらずというか、なんというか……。これでもヘタレが治ってきた方というのが信じられないな」


 アリアさんはため息をつきつつ、魚をナイフで、手際よく捌き始める。その隣でポロンくんは、


「リヴィー、からの、ファイヤ!」


 土魔法で薪の代わりを作り、火をつけて簡易的なかまどにする。アリアさんは魚に塩をふりつつ、僕を見る。


「朝は時間がないんだ。焼き魚で我慢しろよ?」

「目を合わせないようにして食べます」

「なんでそんなにダメなんだよ」

「なんか、罪悪感が……」

「ちゃんと食べれば、お魚さんも許してくれるよ?」

「んん……でもなぁ」


 そんなこんなで、手際の良いアリアさんによって朝食はあっという間に作られ、いただきますのお時間だ。
 ……なお、僕の焼き魚は皆様の配慮により、身だけほぐされた状態となっております。……優しい、申し訳ない、ありがとう。


「……で? ウタ、今日の予定は?」


 わざとらしくアリアさんがそう訊ねてくる。僕はちょっと笑ってそれに答えた。


「アリアさん、パレルの王族の人たちに挨拶しますよね?」

「そうだな」

「なら、今日はまずパレルに行って、王族の人たちに挨拶しましょう。で、そのあとギルドに行って、クランってダンジョンの行き方教えてもらいましょう」

「クラン……か?」

「さっきおさくさんがフラッと来て、そこが良いよーって教えてくれたんです」

「なるほどな……じゃ、そうしてみるか」

「で……。ドラくん」


 僕は不意に、ドラくんに向き合った。何事かと少し訝しげに僕を見つつ、ドラくんは言う。


「なんだウタ殿」

「向こうで行動する間、僕から離れないでほしいんだ。それは、他のみんなもそうなんだけど、特に今回は、ドラくんに、一人で行動してほしくないんだ」

「…………」


 僕は、思った。
 仮にドラくんをニエルが見つけたとすれば、どうするだろうか? なにもさせずに、ただ人が死ぬのを見せつけていたのにはどんな目的があったのか。……ドラくんがニエルに見つかったら、どうなるかは分からないけど、良い結末は望めない。


「……心得た」


 そんな僕の願いを、ドラくんは了承した。が、


「だが、条件がある」

「条件?」

「……絶対、と、約束は出来ないかも知れない。が、守れなかったとしても、我との契約は解消しないでほしい」


 僕は、ほんの少しあきれた。あきれてから、その体を抱き締めた。


「するわけないじゃん」


 ……ま、僕の方がチビなんだけどね。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 パレルに入り、王都のすぐ近くまでやってきた。なんというか、僕の今のところの印象としては、真夏のビーチサイド……だなって。
 とてもとても偏見でしかないけれど、どうして真夏のビーチサイドかって、パレルに入って歩き始めて約30分。アリアさんが男性に声をかけられた回数、27回。1分に1回以上声をかけられている形になるのだ。

 ……本当に、完全に、偏見だけど。その口説き文句が「やぁお嬢さん、僕と一緒にシャンパンでもどう?」って感じなのだ。……真夏のビーチサイドって言うか、ホストか、これ。ロインたちは血の気が多いって言ってたけど、これは血の気が多いというよりは……なんか……。

 ちなみに、アリアさんの振り方がとてもかっこいいし美人ですごい。そしてその近くにいる僕が周りからなーんとも思われてないのがまたすごい。付き人かなにかだと思われてるのか。


「お嬢さん! 俺と一緒に遊びに行きませんか?!」


 とか僕が思っている間に、またアリアさんがナンパされているらしい……ん?


「え、あの、私ですか……?」


 見れば、ナンパされていたのはアリアさんではなくフローラだった。上手く対処できずにたじたじするフローラにその男性……というよりは、男の子は、その桃色の瞳をキラキラと輝かせて笑う。


「君だよ! その銀色の瞳に、俺は一目惚れしたんだ! ねぇ! 一緒に遊ぼうよ! 君が良いんだ!」

「え、えーっと……」


 僕がそっと視線をやると、同じように僕に目をやったアリアさんが、大きく息をついた。


「……はぁ。なぁ、からかってるのか本気なのかは分からないがフローラは私たちと旅をだな」

「旅!? すっげー、すっげー! 俺、それ一緒にいきたい!」

「いやバカか? そう簡単にパーティーに入れるわけには……。それにお前、親は」

「俺は『愛』を求めて家出してきたんだ! 今ここに本当の愛を見つけた今! 引き下がるわけにはいかないんだ!」

「え、えっと……」


 困ったなぁ……。連れていくわけにもいかないし、ここに置いていくわけにも……。と、ドラくんがその子に話しかける。


「お主、パレルの子供だな?」

「そうだよ。俺はパレル生まれパレル育ち!」

「ならば、パレルの中を案内してくれ。その働き具合でパーティーに入れるか決めよう。で、いいな? ウタ殿」


 その言葉にハッとした。ドラくん、案内する過程でこの子の家を突き止めて、そのまま家に返すつもりだ。


「……そうだね。じゃあまず、名前教えてくれるかな?」

「おう! 俺はリード。12歳! よろしくな!
 ……それで、君の名前は?」

「え、あ、私は……フローラ」

「フローラか! 良い名前だな!」


 ニコニコしながらリードくんはフローラの手をとる。そしてそのまま、僕らの先陣をきって歩きだした。
 ……そんな二人の様子を、ポロンくんは微妙な表情で見ていた。

 …………あれ? もしかして?

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