チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

昇格してよ

 僕は……アリアさんの言葉を聞いて、決意した。
 だって、例えそれが正しいことだとしても、本人にとって幸せなことだとしても、他の、大切な人にとっては……大切な誰かが死んでしまうのは、本当に、気が狂うほど悲しいことなのだ。

 しかしそれを、あえて口に出すアリアさんの『勇気』は、ディランさんに対するその想いは、ただ大切と言うものを越えていた。
 僕は……そこまでの勇気、見せられなかったのだ。だからこそ、そのアリアさんの発言を尊敬したし、尊重したいと思った。しかし、奥の手として。僕はやっぱり、『ディラン・キャンベル』としてディランさんが生きているのが一番良いと思っているから。


「……ジュノンさん、教えてください」

「ウタ」

「……念のため聞くけど、なにを?」

「僕らが二人とも助かって、世界も滅びない方法を」

「…………」


 ジュノンさんは、不意に、地図を取り出した。その地図には漆黒の場所ともう一つ、大陸の南東の辺りに印がつけられている場所があった。


「……言うのは簡単な話なんだよね。
 漆黒には魔王がいる、魔王にディラン・キャンベルが操られている……それなら、魔王本体を叩いてしまえば良い」


 ジュノンさんは地図の漆黒の場所を指差しながら、話を続ける。


「ここに入って、魔王本体と対峙、消滅させることが出来れば、ディラン・キャンベルの体からは、自己防衛のスキルと共に黒い意思も消える。敵対する要素がなくなれば、ぶつかる必要もなくなる」

「……まぁ、確かにそうだが」


 話の筋は通っている。が、ドラくんは難しい顔をして考え込んでいた。……実際、それは僕も同じ。
 確かに魔王を倒せればディランさんとぶつかることはない。魔王を倒すことに関しては個性の塊'sの右に出る人たちはいないだろう。おそらく、勝ちをとって帰ってくる。そこは、正直心配していない。が、そこではないのだ。


「……そもそも魔王は、自ら進んで出ていくんでしょうか? ほら、あのときの悪魔だって、四天王がいましたし、一応」


 フローラの言う通り、あの、なんか頭の悪そうな魔王でさえ、部下を先に行かせて、自分は最後だった。漆黒の先にいる魔王には『ディラン・キャンベル』という最強で最適な駒がある。……使わない、というのは不自然だ。


「それが、確率が低い理由ってことか」


 テラーさんがそう言いつつジュノンさんに目を向けると、ジュノンさんはそっとうなずいた。


「そう、単純に魔王倒すだけなら、そこまで確率は低くないはずなんだよね。まぁ、高くもないけどさ。
 ただ、個性の塊'sを越える『勇気』の力を持ったディラン・キャンベルがいる、尚且つ彼を殺してはいけない……なんて条件付きだったら、確率、すごく低くなると思わない?」

「……そこで同等の力のウタくんが出ていったとしても」


 根本的な解決にならないよね、とドロウさんが言う。
 ……わずかな可能性。いや、わずかどころかほぼ0に近いような可能性。それを信じて……仮に、ダメだったら? 仮に、それに失敗して、魔王に全員殺されたら? ……あり得ないことじゃ、ない。


「…………」


 ……でも、僕は……無理かもしれなくても、やるしかないって思ったんだ。
 やらないで後悔するより、やって後悔した方がどれだけいいかって、どれだけ『まし』なのかって……身に染みて分かったから。


「僕は……試してみたいなって思うんだ」


 僕がそういうと、みんな、静かに耳を傾けてくれた。……こうやって、僕のことを理解してくれる仲間だから、きっと僕は…………。


「でも、僕には決定権がない。前は……僕の判断で、みんなを危険な目に遭わせたんだ」

「でも、みんな無事だったし」

「ジュノンさんがお願いして、テラーさんが魔法を使ってくれたから、その場に来て助けてくれたからだ。……そこに進んだらそうなるって分かっていたのに、僕はわざわざ、危険な道を選んだ。
 そしてこれはきっと、それを繰り返すことになると思うんだ」


 低すぎる確率。あの魔王なんかより、ブリスなんかより、ミーレスなんかより……ずっとずっと、強い敵。
 成功する確率が低いと言うことは、死の確率が高いと言うこと。


「……おいらたち、そんな臆病者じゃないからな」


 不意に、見栄を張ったような明るい声が聞こえた。みると、えへんと胸を剃らしながら、ポロンくんは笑っていた。


「おいらたち、それくらい平気だい! ウタ兄と一緒に入れなくなる方が嫌だ!」

「……私も、命を懸ける覚悟はできてますよ。とっくに」


 フローラも、どこか儚げに笑って見せた。


「あのときよりも、生きてる感じがしますから」

「ぼくも! ぼくも行く!」

「もちろん! Unfinishedは、みーんな一緒だい!」


 ちらりとアリアさんに目線をやると、静かにうなずかれた。


「……決まったみたいだね?」


 ジュノンさんはそういいながら、地図の、もう一つの印を指差した。


「とにかく、まずはみんな昇格してよ。そうしないと漆黒の中にも入れやしない。
 クラーミルはごたごたするだろうから隣で、A級冒険者になること。それでもらえる加護がないと、南の方にいけないから」


 ひとまず、僕らの課題はさらに強くなること、らしい。

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