チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

ここまで強く

 魔力と言うのは、極端に強くなると目に見えるものだ。光となって、その体に収まりきらなかったものが、溢れ出す。しかし、本人には見えないものなのだ。
 ……当たり前か。でも、そう考えると、光そのものにとっての光は、自分よりも強い光になる。……本当に明るい光にとって、光という、明るいという概念はあるのだろうか? もしかしたら、永遠に暗いだけなのではないか……?

 ウタは……前、私が『勇気』の力を発揮したとき、私が輝いて見えたとか言っていた気がする。どこでだったかは忘れた。人づたいだったかもしれない。でも、確かに言っていた記憶がある。
 そしてそのとき、私は「本当にバカだな」と思ったのだ。
 お前が私を見てそう思うよりずっと早く、私はお前を見てそう思っていたのに、と。
 月が太陽より明るく輝くことはないのだ、と。

 ……そんな曖昧な感情を抱えながら私は剣を握り、そこに力を込めた。魔力が集まり、輝く。光の剣となったそれでレイナを飲み込んだ闇を切り開く。
 思ったよりもあっさりと口を開けたそれの中は、ぐるぐると何かが渦巻き、私という新たな餌をとらえたように見えた。


「……残念だったな、私はお前の餌じゃない。喰われて、呑み込まれる気はない」


 後ろから止める声が聞こえる。……ロインか、ドラくんか。ウタではない。ウタは、私が闇に呑まれないであろうことを一番よくわかってる。止めるわけないのだ。
 私は、口を開けたレイナの闇に飛び込んだ。


 …………。
 ……暗い。とても暗い。そして、寒い。

 レイナはどこにいるんだ。こんなに暗い中だというのに、辺りは不自然に明るく、視界はハッキリとしていた。
 私は辺りを見渡して、自分の持つ剣を見て、ハッとした。

 私が、私の魔力が、この世界の光になっているのか。

 すぅ、と、息を飲み込む。じっと耳を澄ませた。――誰かのすすり泣く声が聞こえる。そちらへ、ゆっくりと歩みを進めた。


『うっ……ひぐっ、えぅ…………』

「…………」


 泣いていたのは、小さな小さな女の子だった。綺麗な白銀の髪はボサボサで、だけど、そんなこと気にもしていない様子で、ひたすら泣いていた。
 私は……その子の前にしゃがみこむと、そっと頭を撫でる。驚いたようにその子は顔をあげ、それでもなお、瞳からは涙をポロポロとこぼしていた。


「……大丈夫か?」

『…………ぁう……』


 困ったように眉を歪め、また泣き出した。それで、確信した。


「レイナ、なんだな……」


 小さく、幼いときの……記憶なのか、それとも、闇の中でそういう姿に変わってしまったのか。どちらにせよ、彼女はレイナだった。それは分かった。
 だけど――――。


『……あぅ……っ……ぐすっ…………』


 そこから先……何も聞こえず、話すことも出来ない、泣いてばかりいる彼女に対して、どうしたらいいのか……分からなかった。
 意思疏通が出来ないのだ。……当たり前のことかもしれない。それでも、目の前に泣いている友人がいるというのに、何もせずに見ているだけというのは……酷く、歯がゆいことだった。

 ……待て。
 どうして、何も出来ないと思っている?
 私は……何も出来ないのか? 本当にそうか?

 いや違う。思い出せ。私は、このレイナと同じ状況に陥ったことはなかったか? 耳こそ聞こえてはいたが、声を発せず、全てを拒絶して、一人泣き続けたことはなかったか?
 その時、羽汰は、私に手を伸ばすことを諦めたか? 諦めてないだろう。


「レイナ……」


 だけど、明確にどうしたらいいのかは分からなかったから、小さな小さな体を、ぎゅっと抱き締めた。それ以上に何ができるのか分からなかったから、ただ、抱き締めた。


「大丈夫……大丈夫だ。私はお前が大切なんだ。レイナが大切なんだ。だから、いなくならないでほしい。クラーミルの国民にとっても、お前は大切な存在なんだ。
 ……頼む、その想いを聞かせてくれ」


 抱き締める腕に力を込める。壊さないように、でも強く、抱き締めた。
 その声が聞きたい。呪詛でもいい。死んでしまえとか、邪魔だとか、お節介とか……そんな、汚い言葉でも良い。ただ、その本音が聞きたい。出来ることならそれを、受け止めたい。


『こわいよ』

「――――」


 息を飲んだ。聞こえた。声が……レイナの声が。驚いて腕の中の小さなレイナを見るが、相変わらず泣いているだけだった。


『こわいよ……何も聞こえないの。聞こえるって、なに……? 自分の声も聞こえないの。
 みんなが指差すから……。私は変なんだって、おかしい子だって言われるから……悲しいの』


 鳴き声とは別に、聞こえてくる声。震えて、今にも消えてしまいそうなか細い声。

 そうかこれが……羽汰が聞いている声なんだな。私の声も、こうやって聞こえていたのか。なるほどな……。


(羽汰、お前は……ここまで。ここまで強く、私の声を聞こうとしていてくれたんだな。だから…………)

「レイナ……お前は、変なんかじゃない。すごく強いんだ。耳が聞こえなくても、生きることを諦めなかったんだ。どんなに陰口を叩かれても、後ろ指を指されても、生きることを望んだんだ。女王として、国の頂点に立ったんだ」


 いつのまにか、腕の中のレイナは、見慣れた姿に変わっていた。それでも泣き続けながら、こんな言葉を呟いた。呟いたのか、頭に響いただけなのかは実際には分からない。でも、聞こえた。


『私なんか、生まれなきゃよかった』


 その言葉を聞いたとたん、私の中に別の感情が、新たに生まれた。

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