チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
否定
レイナさんの足元に、魔方陣が展開されていく。青く輝くそれは、暗い城の中を照らしていた。
そういえばアリアさん、言ってたな。耳が聞こえなくて上手く詠唱できない分、レイナさんは、魔法を詠唱なしで使えるすごい人だって。
ふっ……と、目を開く。瞬間、辺り一面に氷の結晶が数えきれないほど現れる。もちろん、目に見えないほど小さいわけではない。大体3cmくらいの結晶だ。
レイナさんが指を真っ直ぐとブリスに向ける。すると、結晶は一気に速度をあげ、まるで小さな槍が幾本もあるかのように見えた。
その一つ一つは恐ろしく小さい。ブリスも、全てを避け、落とすことは出来ない。すぐに溶けてしまうため、スキルに利用することも出来ないようだ。
「……すごい」
「ダストクリスタル。非常に高度な、氷魔法だ。……あれを詠唱なしで使うとは」
「姉さん、なかなかやれるでしょ?」
ロインがどこか嬉しそうに言う。もちろん、ブリスはそれだけでは止められない。もっと手を尽くさなくてはいけない。
「今度は僕が」
ロインはそう笑うと、手を優しく右へと薙ぐ。するとその線をなぞるように光が集まり、やがて、一振りの光輝く刀となった。そして、それを振りかぶり、振り下ろす勢いに乗せて魔法を放つ。
……ロインも、レイナさんも、思っていたのの何倍も強い。すごい。
「圧倒されてばかりはいられないな」
アリアさんがそう言って笑う。僕はそれに、笑顔で返した。
「そうですね。……ドラくん!」
「任された」
ドラくんの背にまたがり、剣をしっかりと握る。……『勇気』が発動していないとき、それはすごく怖いのだ。そもそも高いところだってそんなに得意じゃない。だけども、そんなことでピーピー言ってられないのだ。
「こうもわらわらと……いい加減面倒だ」
あからさまに苛立ったように、ブリスは短く舌打ちする。そして、瞳の奥を赤く光らせた。
「こんなことしても……だーれもお前らの言葉なんて信じないんだぜ? なぁ?」
「何言ってるんだ。ここはクラーミル。そもそもこの反乱の原因は、クラーミルの国王と女王、二人がマルティネスに殺されたと言う勘違いから起こった怒りによるものだ。
二人が顔を出して、収まらないはずがない」
アリアさんは、そう反論する。……実際、僕だってそうだと思う。二人はこの国の人に信頼されていたはずだ。それは、確かだった。だから戦争になろうとしているのだ。
「……それはどうかな」
「……お主、何が言いたい?」
怪しく光るその瞳に、ゾッと背筋が凍る。なにを言おうとしているのか……考えることすら、阻まれてしまうようだった。
「何が言いたい……? そのままのことさ。
良いかよく聞け! 国民はなぁ、お前ら二人の生死なんてどーでもいいんだよ! ただな、そのせいで国の経済やら政治やら治安やらが傾いて、自分等が過ごしにくくなるのが嫌なのさ! それだけなんだよ!」
「違う! 二人はそんな風に思われてなんかいなかった! もっと大切にされていた! だからクラーミルの人は」
僕の言葉を跳ね返すように、ブリスは叫ぶ。
「はっ、本気でそう思うのか?
考えても見ろ。そもそも国の頂点に立つ人物が二人いるのは、男女平等であり、出来るだけ広くの声を聞くため……とかだったか? 全く、反吐が出る。
そんな目的で二人いるのにも関わらず、一人は耳が聞こえずほとんど国民の前に出てこない。行政をするのはほぼロイン一人のみ。何を言いたいのか、何を考えてるのかすら分からない女王に、国民はついていきたいと思うか? あ?」
「っ…………」
「レイナ……! 違う。レイナは」
「何が違う? 現に耳が聞こえずに行政が出来ていたか? 国民の声は聞こえていたか? さっぱりだろう! 俺はこれでもそばにいたからな。その様がよーく分かるんだよ。
レイナ・クラーミルが消えたところで、死んだところで、国民は反乱を起こしたかね? 本当に? それだけの価値はその女にあるのか?」
僕は、気がついた。ブリスの目的は、僕らを揺さぶることじゃない。後悔させることじゃない。その先にある。
心を揺さぶって、後悔させて、絶望させて、僕らをとことん否定して……その過程を経て、僕らに『してはいけないこと』をさせようとしている。
「あーあ、本当に。……この国に女王なんて必要なのかなぁ?」
「レイナさん!」
僕の声は、少し、遅かったようだ。
「……わ、たし…………」
『もしかしたら私は……生まれてこない方が、よかった?』
……遅かった。
やってしまった。
もっと早く、伝えておけばよかった。
僕の表情から、アリアさんはその事実をどうやら掴み取ったように見えた。ハッとしたように僕を見て、それから、レイナさんに一歩近づいた。
「姉さん、大丈夫? あんなやつの言うことなんか聞かなくて良いから!」
「……あ……あぁ…………」
ブリスの口角が、上がる。彼にとって、最高の舞台が出来上がったのだ。レイナ・クラーミルを餌として、僕らを、ロインを釣るという、最高の舞台が。
「……いいねぇ。良い反応だ」
真っ黒い檻が、レイナさんの足元から現れる。それは氷の美しい魔方陣をも飲み込んで、レイナさんを中に閉じ込める。
「…………!」
「姉さん!」
「レイナさん! ……ドラくん!」
「やってみよう」
ドラくんが勢いよく体当たりしたが、その黒は、レイナさん以外なにも受け付けなかった。そして、完全に彼女を飲み込む。
レイナさんはしてはいけないこと……『自分を否定』してしまったのだ。
そういえばアリアさん、言ってたな。耳が聞こえなくて上手く詠唱できない分、レイナさんは、魔法を詠唱なしで使えるすごい人だって。
ふっ……と、目を開く。瞬間、辺り一面に氷の結晶が数えきれないほど現れる。もちろん、目に見えないほど小さいわけではない。大体3cmくらいの結晶だ。
レイナさんが指を真っ直ぐとブリスに向ける。すると、結晶は一気に速度をあげ、まるで小さな槍が幾本もあるかのように見えた。
その一つ一つは恐ろしく小さい。ブリスも、全てを避け、落とすことは出来ない。すぐに溶けてしまうため、スキルに利用することも出来ないようだ。
「……すごい」
「ダストクリスタル。非常に高度な、氷魔法だ。……あれを詠唱なしで使うとは」
「姉さん、なかなかやれるでしょ?」
ロインがどこか嬉しそうに言う。もちろん、ブリスはそれだけでは止められない。もっと手を尽くさなくてはいけない。
「今度は僕が」
ロインはそう笑うと、手を優しく右へと薙ぐ。するとその線をなぞるように光が集まり、やがて、一振りの光輝く刀となった。そして、それを振りかぶり、振り下ろす勢いに乗せて魔法を放つ。
……ロインも、レイナさんも、思っていたのの何倍も強い。すごい。
「圧倒されてばかりはいられないな」
アリアさんがそう言って笑う。僕はそれに、笑顔で返した。
「そうですね。……ドラくん!」
「任された」
ドラくんの背にまたがり、剣をしっかりと握る。……『勇気』が発動していないとき、それはすごく怖いのだ。そもそも高いところだってそんなに得意じゃない。だけども、そんなことでピーピー言ってられないのだ。
「こうもわらわらと……いい加減面倒だ」
あからさまに苛立ったように、ブリスは短く舌打ちする。そして、瞳の奥を赤く光らせた。
「こんなことしても……だーれもお前らの言葉なんて信じないんだぜ? なぁ?」
「何言ってるんだ。ここはクラーミル。そもそもこの反乱の原因は、クラーミルの国王と女王、二人がマルティネスに殺されたと言う勘違いから起こった怒りによるものだ。
二人が顔を出して、収まらないはずがない」
アリアさんは、そう反論する。……実際、僕だってそうだと思う。二人はこの国の人に信頼されていたはずだ。それは、確かだった。だから戦争になろうとしているのだ。
「……それはどうかな」
「……お主、何が言いたい?」
怪しく光るその瞳に、ゾッと背筋が凍る。なにを言おうとしているのか……考えることすら、阻まれてしまうようだった。
「何が言いたい……? そのままのことさ。
良いかよく聞け! 国民はなぁ、お前ら二人の生死なんてどーでもいいんだよ! ただな、そのせいで国の経済やら政治やら治安やらが傾いて、自分等が過ごしにくくなるのが嫌なのさ! それだけなんだよ!」
「違う! 二人はそんな風に思われてなんかいなかった! もっと大切にされていた! だからクラーミルの人は」
僕の言葉を跳ね返すように、ブリスは叫ぶ。
「はっ、本気でそう思うのか?
考えても見ろ。そもそも国の頂点に立つ人物が二人いるのは、男女平等であり、出来るだけ広くの声を聞くため……とかだったか? 全く、反吐が出る。
そんな目的で二人いるのにも関わらず、一人は耳が聞こえずほとんど国民の前に出てこない。行政をするのはほぼロイン一人のみ。何を言いたいのか、何を考えてるのかすら分からない女王に、国民はついていきたいと思うか? あ?」
「っ…………」
「レイナ……! 違う。レイナは」
「何が違う? 現に耳が聞こえずに行政が出来ていたか? 国民の声は聞こえていたか? さっぱりだろう! 俺はこれでもそばにいたからな。その様がよーく分かるんだよ。
レイナ・クラーミルが消えたところで、死んだところで、国民は反乱を起こしたかね? 本当に? それだけの価値はその女にあるのか?」
僕は、気がついた。ブリスの目的は、僕らを揺さぶることじゃない。後悔させることじゃない。その先にある。
心を揺さぶって、後悔させて、絶望させて、僕らをとことん否定して……その過程を経て、僕らに『してはいけないこと』をさせようとしている。
「あーあ、本当に。……この国に女王なんて必要なのかなぁ?」
「レイナさん!」
僕の声は、少し、遅かったようだ。
「……わ、たし…………」
『もしかしたら私は……生まれてこない方が、よかった?』
……遅かった。
やってしまった。
もっと早く、伝えておけばよかった。
僕の表情から、アリアさんはその事実をどうやら掴み取ったように見えた。ハッとしたように僕を見て、それから、レイナさんに一歩近づいた。
「姉さん、大丈夫? あんなやつの言うことなんか聞かなくて良いから!」
「……あ……あぁ…………」
ブリスの口角が、上がる。彼にとって、最高の舞台が出来上がったのだ。レイナ・クラーミルを餌として、僕らを、ロインを釣るという、最高の舞台が。
「……いいねぇ。良い反応だ」
真っ黒い檻が、レイナさんの足元から現れる。それは氷の美しい魔方陣をも飲み込んで、レイナさんを中に閉じ込める。
「…………!」
「姉さん!」
「レイナさん! ……ドラくん!」
「やってみよう」
ドラくんが勢いよく体当たりしたが、その黒は、レイナさん以外なにも受け付けなかった。そして、完全に彼女を飲み込む。
レイナさんはしてはいけないこと……『自分を否定』してしまったのだ。
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