チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
自己防衛
自己防衛に支配される……。そんな異常な言葉が、僕らの耳をついた。アリアさんは、それに対して警戒だとか、不安だとか、そういう感情を示さなかった。……本当に、アリアさんとディランさんは、お互いに想いあっているんだなと、深く感じた。
「……自分の感情に支配される……って、ことだよな? それで、ディランは、大丈夫なのか?」
「ま、大丈夫ではないだろうね」
「どうなってしまうんだ……ディランが……。
――世界を救ったとき、ディランが生きていることは奇跡に近い。そう言っていたのは、自己防衛が魔王の力であり、その自己防衛にディランが溺れると分かっていたからなのか?」
「……自己防衛って、なんなんだろうね?」
「自己防衛……自己犠牲……」
なんなんだろう……。自己防衛……自分を、守ること。……何から? 一番人間にとって危険なものは、紛れもなく『死』だ。自己防衛は、『死』から自分を守ろうとする感情……。
「……生きたいと思う気持ち?」
「え……」
「…………」
「自己防衛は、『死』から自分を守ろうとする気持ち。死を避けるってことは、その人は生きたいと願っているということ。つまり……『生』を求める気持ちが、『自己防衛』」
……仮に、それが『自己防衛』だとすると、僕の『自己犠牲』はその反対……。つまり、『死』を求める気持ち。
僕は…………。
「……おいウタ」
「え……っと、はは。僕って、もしかして」
「生きたいと思う気持ちの反対は、本当に死にたいと思う気持ちなのか?」
「…………どういう」
「いやそもそも、自己犠牲と自己防衛は、陰と陽とで対比するようなものなのか?」
「そうじゃないとしたら」
「そうじゃないと思うぞ、私は。だって、そもそもは同じものだろう? 『勇気』っていう、同じスキル。それが真反対になるなんておかしくないか?」
……アリアさんがいってることは、確かに正しいのだけれど、穴が多い。同じものでも反対なものは、たくさんある。
アリアさん自身も、きっとそれを分かっている。……分かっていて、それでも、あえてそれを口にしているのだ。何のために? ……分かりきっていることは、考えない。
「……ま、そこはいいよ。でさ、本題に移っていい?」
ジュノンさんが、その場を切り替える。僕はそちらに目をやると、一瞬、何かを聞いた気がした。……でも、分からなかった。
「自己防衛が生に執着する気持ちだとして、そうすると、私たちに勝ち目がないんだな」
「……え」
「だって、私たちだって生きたいし。生きたくない人間なんて一握りじゃない? その力を合わせたところで、生を上回ることはできない」
「ならどうすれば」
「でも……例え『自己防衛』に支配されて、自分自身を失っていたとしても、ディラン・キャンベルは、まだ自分自身を失いきれていない。自分を殺しきれていない。
それどころか、アリアさんが危険にさらされたってなれば、自分から出てきてなんとかしようとするわけだからね」
自己防衛に勝る力を、ディランさんは持っている……。そういうことになる。だとしたら『それ』はなんなんだ? 『自己犠牲』……? いやでも、それはきっと『死』……。
「ディランさんを保ってる力がなんなのかって言われてもさ、分かんないわけだ。だから、聞いてみるしかないでしょ、本人に」
「……本人に、だと?」
「レイナとロイン、それからドラくんが目を覚ましたって、さっきドロウとアイリーンから連絡があったんだ」
「本当ですか!?」
よかった……。不安なこと、分からないこともまだたくさんあるけど、とりあえず、安心できることが一つ増えた気がする。
「そう。だからさ、本格的にマルティネスとクラーミルの戦争を止めにいこうと思って」
「今後のこと考えるとね、やっぱ争ってほしくないし。そもそも戦争って、いいイメージ無いじゃん?」
僕らは、小さくうなずく。……利害がどうとかこうとか言うけれど、僕らはとりあえず、マルティネスとクラーミルの戦争を止めたい。それだけなのだ。
……そう出来なければ、おばさんに顔向けもできない。
「まず、二人には人を引き付けてほしい。私と、あと、テラー? 起きてるだろうからさ。二人でサポートする。
とにかく逃げ回って、出来るだけ人を引き付けて引き付けて、城に入ってほしいんだ。そうやって逃げてる間にー」
「私が化学でクロロホルム出して、全員寝かしつけておくから。殺さないから安心してねー」
「殺すって言われた瞬間この作戦は却下だからな」
「分かってる分かってる」
「……で、人を引き付けて、スカスカになったところを、レイナとロインが通って、回り道して城まで来る。あっちはあっちで、アイリーンとドロウがいるし、ドラくんもいる。
最悪、ポロンくんたちが起きたら囮になってもらうし。『窃盗』があるなら、人目を撒くのは簡単でしょ」
「で、城に上ったレイナとロインを、集まった国民に見せて、ブリスの言うことは嘘だって知らしめる。
……これが」
悪魔の妨害を一切受けなかったときの作戦。……そう、ジュノンさんは言っていた。
どこかで妨害を受ける可能性が高い。そしてその対策として、一つだけ、『やってはいけないこと』を告げられた。
「……自分の感情に支配される……って、ことだよな? それで、ディランは、大丈夫なのか?」
「ま、大丈夫ではないだろうね」
「どうなってしまうんだ……ディランが……。
――世界を救ったとき、ディランが生きていることは奇跡に近い。そう言っていたのは、自己防衛が魔王の力であり、その自己防衛にディランが溺れると分かっていたからなのか?」
「……自己防衛って、なんなんだろうね?」
「自己防衛……自己犠牲……」
なんなんだろう……。自己防衛……自分を、守ること。……何から? 一番人間にとって危険なものは、紛れもなく『死』だ。自己防衛は、『死』から自分を守ろうとする感情……。
「……生きたいと思う気持ち?」
「え……」
「…………」
「自己防衛は、『死』から自分を守ろうとする気持ち。死を避けるってことは、その人は生きたいと願っているということ。つまり……『生』を求める気持ちが、『自己防衛』」
……仮に、それが『自己防衛』だとすると、僕の『自己犠牲』はその反対……。つまり、『死』を求める気持ち。
僕は…………。
「……おいウタ」
「え……っと、はは。僕って、もしかして」
「生きたいと思う気持ちの反対は、本当に死にたいと思う気持ちなのか?」
「…………どういう」
「いやそもそも、自己犠牲と自己防衛は、陰と陽とで対比するようなものなのか?」
「そうじゃないとしたら」
「そうじゃないと思うぞ、私は。だって、そもそもは同じものだろう? 『勇気』っていう、同じスキル。それが真反対になるなんておかしくないか?」
……アリアさんがいってることは、確かに正しいのだけれど、穴が多い。同じものでも反対なものは、たくさんある。
アリアさん自身も、きっとそれを分かっている。……分かっていて、それでも、あえてそれを口にしているのだ。何のために? ……分かりきっていることは、考えない。
「……ま、そこはいいよ。でさ、本題に移っていい?」
ジュノンさんが、その場を切り替える。僕はそちらに目をやると、一瞬、何かを聞いた気がした。……でも、分からなかった。
「自己防衛が生に執着する気持ちだとして、そうすると、私たちに勝ち目がないんだな」
「……え」
「だって、私たちだって生きたいし。生きたくない人間なんて一握りじゃない? その力を合わせたところで、生を上回ることはできない」
「ならどうすれば」
「でも……例え『自己防衛』に支配されて、自分自身を失っていたとしても、ディラン・キャンベルは、まだ自分自身を失いきれていない。自分を殺しきれていない。
それどころか、アリアさんが危険にさらされたってなれば、自分から出てきてなんとかしようとするわけだからね」
自己防衛に勝る力を、ディランさんは持っている……。そういうことになる。だとしたら『それ』はなんなんだ? 『自己犠牲』……? いやでも、それはきっと『死』……。
「ディランさんを保ってる力がなんなのかって言われてもさ、分かんないわけだ。だから、聞いてみるしかないでしょ、本人に」
「……本人に、だと?」
「レイナとロイン、それからドラくんが目を覚ましたって、さっきドロウとアイリーンから連絡があったんだ」
「本当ですか!?」
よかった……。不安なこと、分からないこともまだたくさんあるけど、とりあえず、安心できることが一つ増えた気がする。
「そう。だからさ、本格的にマルティネスとクラーミルの戦争を止めにいこうと思って」
「今後のこと考えるとね、やっぱ争ってほしくないし。そもそも戦争って、いいイメージ無いじゃん?」
僕らは、小さくうなずく。……利害がどうとかこうとか言うけれど、僕らはとりあえず、マルティネスとクラーミルの戦争を止めたい。それだけなのだ。
……そう出来なければ、おばさんに顔向けもできない。
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とにかく逃げ回って、出来るだけ人を引き付けて引き付けて、城に入ってほしいんだ。そうやって逃げてる間にー」
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