チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
再びクラーミルへ
「……よし、通っていいぞ」
「は、はい! ……本当に通れてしまった」
一泊野宿して、クラーミルの王都へ向かうための最後の検問。個性の塊'sに改造されたギルドカードひとつで、ついにここまでこれてしまった。
「……逆に怖いぞ、これ。本当はバレてるんじゃないか?」
「そういうこと言わないでください! ……正直そんな気もしますけど」
だって、上手くいきすぎている。確かに個性の塊'sの力は強大だし、ギルドカードだってパッと見程度じゃ改造されたなんて全くわからない。その上僕らの見た目も変わっている。僕なんて……女装させられているのだ。性別まで違うとなれば、普通に見逃してるのかもしれない。
でも……。
……クラーミルの王都は、前とは違った雰囲気に包まれていた。みんなあくまでも『普通』に過ごしていて、違いは無いように見える。……しかし、僕には全く違う様子に見えていた。
『マルティネスなんて滅びればいい』
「……っ?!」
「……オト?」
突然響いた声。振り向いてその声の主を探すが、見当たらない。
……また、聞こえたのか?
『お二人ともマルティネスに殺された』
『私たちはあの姫を殺さなくてはいけない』
『あぁ、国は何をやっているんだ。さっさと捕まえて処刑してしまえばいいものを』
『殺せ、殺せ』
「違う……違う、僕らは……」
「……オト、こっちに来い」
アリアさんは僕の手を引いて、店と店の間の細い路地に入り込む。そして、肩をしっかり掴んで僕の目を見る。
「……大丈夫」
「アリアさん……でも」
「誰も何も言っていない。いいな? 誰も何も、言っていないんだ。
その力は、しばらくお前を苦しめるかもしれない。でもな、永遠じゃない。聞こえるのも悪いことだけじゃないはずだ。私がいる。大丈夫だ」
僕には大きすぎる力……。『勇気』でさえまだ、使いこなせていない。それなのに……。
……でも、アリアさんにそう言われると、なんとなくそんな感じがしてくるから不思議だ。
「……はい」
「よし。……じゃ、どうするかな。あいつらが起きるまでは私たちは待機だ。ギルドに行くと偽装がバレるからな……」
「街中でバレたら速攻でアウトですもんね」
「即座に国に引き渡されるか、その場で滅多うちにされるかの二択だからな」
「どうしましょうか」
なにもしなければそれはそれで怪しまれる。でも、下手に動くわけにもいかない。
「……よしオト」
「なんですかサミラさん」
「デートしよう」
「でっ、でででででデート?!」
この流れで出てくるとは思わなかった爆弾発言に僕は分かりやすく飛び上がる。だって、デートって……デートって?!
「そもそも今! ……ぼ、僕、女の子なんですけど」
「そうだな?」
「……その、デートって……」
「二人で出掛けることだろう?」
「……はい?」
「ならなんの問題もないじゃないか! よし行くぞ! オトに似合いそうな髪飾り探してやる!」
「いや、あの……えー?」
これは……指摘した方がいいのか? それとも、このまま流れにのった方がいいのか? ど、どうする柳原羽汰!
(…………)
「よし、どこに行く?」
「……サミラさんに、お任せします」
「ならあの店とかどうだ?」
……まぁいいかと思ってしまった自分を呪いたい。
そして、そのお店に向かって店頭の商品を眺めていると
『――て』
「……え」
「……またなにか、聞こえたか?」
「はい……でも、なにか……」
『助けて』
「……サミラさん」
「なんだ、どうした」
「……助けてって…………」
「…………」
「助けてって、言ってます」
「……どこだ?」
「向こうの方からです」
「行くぞ」
「はい!」
……少し、お人好しが過ぎるかもしれない。この状況で人と関わるなんて、一番危険なことだ。しかし、放っておくことなんて……出来るわけなかった。
声のする方へ向かうと、そこは見覚えのある場所だった。……そうだここは、僕らがクラーミルに来て、一番最初に泊まった宿だ。
よく考えてみれば、声だって聞き覚えがあった。……あの時、僕らに向かって微笑んでくれた、あのおばさんの声だった。
「マルティネスの味方をするだと? この非国民が!」
「……あの子達が、レイナ様とロイン様を殺すなんてありえない……何かの間違いなの!」
「ブリス様がそうおっしゃっているんだ! 何を疑う!?」
「マルティネスの子達だって、私たちとなんにも変わらない……普通の子なの! マルティネスだからって、簡単に疑うなんて出来ない!」
「まだ言うか! ……ファイヤ」
そこら中に、女性の悲鳴が響く。よく見れば、おばさんの体は、すでにボロボロだった。
……涙が滲んできた。ここまで……ここまでの仕打ちをされて、それでも僕らを庇ってくれている……。僕らのことを、信じてくれている……。
「……覚悟はいいか、ウタ」
「……覚悟なんてとっくに、出来てますよ、アリアさん」
「よし……行くぞ」
僕らは強く地面を蹴って駆け出した。アリアさんはフードを乱暴に脱ぎ、光の槍を飛ばす。僕らの意図に反応したのか、容姿はみるみるうちに元に戻った。
アリアさんはシエルトを張りながらおばさんの前に立ち塞がると、叫ぶ。
「ロイン・クラーミルとレイナ・クラーミルを殺した、マルティネス・アリアはここだ! 私を見つけられないからこの人を暴行してたのか? 笑えるな!」
「マルティネス・アリア……!」
「……あなたたち…………」
僕はその後ろでおばさんの前にしゃがみこみ、回復薬を手渡す。
「……僕らは、大丈夫ですよ」
「でも……」
「全力で逃げるんで、大丈夫です。自分の体を大切にしてください」
ちらりと後ろを振り向くと、アリアさんが小さくうなずく。僕は立ち上がり、おばさんに向かって微笑んだ。
「信じてくれて、ありがとうございました!」
そして
「ウタっ!」
「ストリーム!」
アリアさんの手を掴み、勢いよく空へ舞い上がった。
「は、はい! ……本当に通れてしまった」
一泊野宿して、クラーミルの王都へ向かうための最後の検問。個性の塊'sに改造されたギルドカードひとつで、ついにここまでこれてしまった。
「……逆に怖いぞ、これ。本当はバレてるんじゃないか?」
「そういうこと言わないでください! ……正直そんな気もしますけど」
だって、上手くいきすぎている。確かに個性の塊'sの力は強大だし、ギルドカードだってパッと見程度じゃ改造されたなんて全くわからない。その上僕らの見た目も変わっている。僕なんて……女装させられているのだ。性別まで違うとなれば、普通に見逃してるのかもしれない。
でも……。
……クラーミルの王都は、前とは違った雰囲気に包まれていた。みんなあくまでも『普通』に過ごしていて、違いは無いように見える。……しかし、僕には全く違う様子に見えていた。
『マルティネスなんて滅びればいい』
「……っ?!」
「……オト?」
突然響いた声。振り向いてその声の主を探すが、見当たらない。
……また、聞こえたのか?
『お二人ともマルティネスに殺された』
『私たちはあの姫を殺さなくてはいけない』
『あぁ、国は何をやっているんだ。さっさと捕まえて処刑してしまえばいいものを』
『殺せ、殺せ』
「違う……違う、僕らは……」
「……オト、こっちに来い」
アリアさんは僕の手を引いて、店と店の間の細い路地に入り込む。そして、肩をしっかり掴んで僕の目を見る。
「……大丈夫」
「アリアさん……でも」
「誰も何も言っていない。いいな? 誰も何も、言っていないんだ。
その力は、しばらくお前を苦しめるかもしれない。でもな、永遠じゃない。聞こえるのも悪いことだけじゃないはずだ。私がいる。大丈夫だ」
僕には大きすぎる力……。『勇気』でさえまだ、使いこなせていない。それなのに……。
……でも、アリアさんにそう言われると、なんとなくそんな感じがしてくるから不思議だ。
「……はい」
「よし。……じゃ、どうするかな。あいつらが起きるまでは私たちは待機だ。ギルドに行くと偽装がバレるからな……」
「街中でバレたら速攻でアウトですもんね」
「即座に国に引き渡されるか、その場で滅多うちにされるかの二択だからな」
「どうしましょうか」
なにもしなければそれはそれで怪しまれる。でも、下手に動くわけにもいかない。
「……よしオト」
「なんですかサミラさん」
「デートしよう」
「でっ、でででででデート?!」
この流れで出てくるとは思わなかった爆弾発言に僕は分かりやすく飛び上がる。だって、デートって……デートって?!
「そもそも今! ……ぼ、僕、女の子なんですけど」
「そうだな?」
「……その、デートって……」
「二人で出掛けることだろう?」
「……はい?」
「ならなんの問題もないじゃないか! よし行くぞ! オトに似合いそうな髪飾り探してやる!」
「いや、あの……えー?」
これは……指摘した方がいいのか? それとも、このまま流れにのった方がいいのか? ど、どうする柳原羽汰!
(…………)
「よし、どこに行く?」
「……サミラさんに、お任せします」
「ならあの店とかどうだ?」
……まぁいいかと思ってしまった自分を呪いたい。
そして、そのお店に向かって店頭の商品を眺めていると
『――て』
「……え」
「……またなにか、聞こえたか?」
「はい……でも、なにか……」
『助けて』
「……サミラさん」
「なんだ、どうした」
「……助けてって…………」
「…………」
「助けてって、言ってます」
「……どこだ?」
「向こうの方からです」
「行くぞ」
「はい!」
……少し、お人好しが過ぎるかもしれない。この状況で人と関わるなんて、一番危険なことだ。しかし、放っておくことなんて……出来るわけなかった。
声のする方へ向かうと、そこは見覚えのある場所だった。……そうだここは、僕らがクラーミルに来て、一番最初に泊まった宿だ。
よく考えてみれば、声だって聞き覚えがあった。……あの時、僕らに向かって微笑んでくれた、あのおばさんの声だった。
「マルティネスの味方をするだと? この非国民が!」
「……あの子達が、レイナ様とロイン様を殺すなんてありえない……何かの間違いなの!」
「ブリス様がそうおっしゃっているんだ! 何を疑う!?」
「マルティネスの子達だって、私たちとなんにも変わらない……普通の子なの! マルティネスだからって、簡単に疑うなんて出来ない!」
「まだ言うか! ……ファイヤ」
そこら中に、女性の悲鳴が響く。よく見れば、おばさんの体は、すでにボロボロだった。
……涙が滲んできた。ここまで……ここまでの仕打ちをされて、それでも僕らを庇ってくれている……。僕らのことを、信じてくれている……。
「……覚悟はいいか、ウタ」
「……覚悟なんてとっくに、出来てますよ、アリアさん」
「よし……行くぞ」
僕らは強く地面を蹴って駆け出した。アリアさんはフードを乱暴に脱ぎ、光の槍を飛ばす。僕らの意図に反応したのか、容姿はみるみるうちに元に戻った。
アリアさんはシエルトを張りながらおばさんの前に立ち塞がると、叫ぶ。
「ロイン・クラーミルとレイナ・クラーミルを殺した、マルティネス・アリアはここだ! 私を見つけられないからこの人を暴行してたのか? 笑えるな!」
「マルティネス・アリア……!」
「……あなたたち…………」
僕はその後ろでおばさんの前にしゃがみこみ、回復薬を手渡す。
「……僕らは、大丈夫ですよ」
「でも……」
「全力で逃げるんで、大丈夫です。自分の体を大切にしてください」
ちらりと後ろを振り向くと、アリアさんが小さくうなずく。僕は立ち上がり、おばさんに向かって微笑んだ。
「信じてくれて、ありがとうございました!」
そして
「ウタっ!」
「ストリーム!」
アリアさんの手を掴み、勢いよく空へ舞い上がった。
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