チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
詰めが甘い
……まだ、1分も経っていない。
あいつが火をつけ出ていってから、まだ、1分も経っていないのだ。
しかし僕らは、すでに限界を向かえようとしていた。
扉は壊れない。アリアさんやロイン、レイナさんが魔法をぶつけたりしていたけれど、壊れる気配はない。炎はどんどん勢いを増し、遺跡の中の酸素を減らしていく。
『化学』で酸素を作ろうともした。しかし、僕にはそれだけの力は残っていない。その上、酸素は炎が燃えるエネルギーとなる。炎を消してからでないと、自分の首を絞めることになる。
「っ……くそ……びくともしないな」
「これ……結構、ヤバイんじゃないですか?」
「天井に穴を開けて脱出……とか」
「開けたところでだ。ドラくんもウタもあの状態。上までいけない」
圧倒的な力不足……。僕らにはもう、なすすべがない。反対の壁際に寄って、炎からなるべく離れることくらいしかできない。
『だから言ったのに』
耳元で声が聞こえた……気がした。この熱い炎が起こした幻聴か。あの、最強パーティーのリーダーの、あの落ち着いた声が聞こえた。
『ウタくんの選択にみんなついていく。一人の問題じゃない。生かすも殺すも、君次第だよって意味で……言ったつもりだったんだけどなぁ』
あぁそうだ、確かに、ジュノンさんはそんなことを言っていた。しかし僕は頑なに聞こうとせず、目を背け、信じることを選び、その結果、あまりにも簡単に裏切られた。
『何があっても知らないからねって、ちゃんと言ったのに』
僕らは……いや、僕は、個性の塊'sの言葉よりも、自分の考えの方を選んだ。その結果が……これだ。
炎に包まれ、逃げ道もなく、こんな状況に仲間を追い込んだ僕自身は、一歩も動くことが出来ずにいる。
「アリアさん……私、息が……」
「体勢を低くするんだ。喋るな。ゆっくりと息をしろ」
『一酸化炭素中毒ってやつだね。このままだとみんな死んじゃうなぁ。まぁでも、この選択をしたのは自分なんだけど』
みんなは悪くない……。僕のせいだ。ポロンくんもフローラも、ロインとレイナさんを信じきることは出来ないと言っていた。しかし、僕を信じてついてきてくれたのだ。
ドラくんもスラちゃんも、僕を信じるからついてきたのだ。
僕が間違ったことを信じさせたから、みんなは、今、こうして、苦しんでいるのだ。
『退路は……ないね。一酸化炭素中毒で意識を失って、呼吸困難か何かで死ぬことしかできないのが、今の現状かな。
どうするの? ヤナギハラ・ウタくん? このまま見殺しにする?』
僕には何ができる……?
今の僕に、一体何ができると言うのだ。
答えは明白。……なにも、出来ない。何一つ出来ないのだ。
ステータスをわざわざ見なくても、仲間のHPが減っていくのが嫌でもわかる。ポロンくんが、フローラが……次々に意識を失っていく。
「ごめ……ね……」
レイナさんがしゃがみこんだまま、小さく口にする。その、ほんの少しの言葉を聞いたアリアさんは同じように膝をつき、優しくその白い手を包みこんだ。
「……悪くない。レイナ、謝るな。だって……まだ、死ぬには、早すぎる」
「…………」
無情にも、時間は流れる。酸素は減っているはずなのに、なぜか炎は勢いを留めることなく、僕らに迫ってくる。
僕も……もうすでに、限界を向かえていた。息をするのも辛くて、意識を保つので精一杯だ。頭も働かない。しかし、どこか達観したようなジュノンさんの声だけは、響き続けていた。
『私は知らないって言ったから、本当になにもしないよ。私らのせいじゃない。どう考えても、そっちに非があるでしょ?』
その通りだ。その通りなのだけど……。
ついに、全員が倒れ込んだ。アリアさんはギリギリ意識を保ってるのか……しかし、ギリギリだ。
全員の限界が、近づく。
『詰めが甘いんだよ、全体的に。
何があっても対応できるくらいの力と心持ちがないなら、自分勝手に動いちゃダメだよね』
意識が、飛びかける。
『でもまぁ――知らないからねって言ったのは、私だけだから』
瞬間、僕が光りだす。
否、僕ではない。僕の胸の辺り、そこから、金色に輝く魔方陣が現れ、その場を強い光で照らし始めたのだ。
「……ウタ?」
魔方陣が僕から飛び出し、巨大化し、そこから、一人の女性が飛び出してきた。一つにまとめた黒髪が揺れ、その隙間から見えた横顔がふっと微笑んだとき、なんだか……急に、泣きそうになった。
「全く……バカじゃないの? ここまでやられるなんてさ」
僕らを守るようにシエルトが張られる。と同時にその人は炎の中に、一歩、踏み込んだ。
「――凍れ、永遠に」
瞬間、あれだけ熱く燃え盛っていた炎が一瞬にして凍りついた。そして、砕け散る。
「……もう、いいよ。よく頑張ったよ」
意識を……手放す。朦朧とした意識の中で笑う魔法使いを見て、僕らは後先考えず、ただ、目の前の一つのことだけを見て、安心して、意識を手放したのだ。
(……あぁ、よかった)
生きてる。助かったんだ……と。
本当に、このあとのことは一切考えずに、思っていた。
あいつが火をつけ出ていってから、まだ、1分も経っていないのだ。
しかし僕らは、すでに限界を向かえようとしていた。
扉は壊れない。アリアさんやロイン、レイナさんが魔法をぶつけたりしていたけれど、壊れる気配はない。炎はどんどん勢いを増し、遺跡の中の酸素を減らしていく。
『化学』で酸素を作ろうともした。しかし、僕にはそれだけの力は残っていない。その上、酸素は炎が燃えるエネルギーとなる。炎を消してからでないと、自分の首を絞めることになる。
「っ……くそ……びくともしないな」
「これ……結構、ヤバイんじゃないですか?」
「天井に穴を開けて脱出……とか」
「開けたところでだ。ドラくんもウタもあの状態。上までいけない」
圧倒的な力不足……。僕らにはもう、なすすべがない。反対の壁際に寄って、炎からなるべく離れることくらいしかできない。
『だから言ったのに』
耳元で声が聞こえた……気がした。この熱い炎が起こした幻聴か。あの、最強パーティーのリーダーの、あの落ち着いた声が聞こえた。
『ウタくんの選択にみんなついていく。一人の問題じゃない。生かすも殺すも、君次第だよって意味で……言ったつもりだったんだけどなぁ』
あぁそうだ、確かに、ジュノンさんはそんなことを言っていた。しかし僕は頑なに聞こうとせず、目を背け、信じることを選び、その結果、あまりにも簡単に裏切られた。
『何があっても知らないからねって、ちゃんと言ったのに』
僕らは……いや、僕は、個性の塊'sの言葉よりも、自分の考えの方を選んだ。その結果が……これだ。
炎に包まれ、逃げ道もなく、こんな状況に仲間を追い込んだ僕自身は、一歩も動くことが出来ずにいる。
「アリアさん……私、息が……」
「体勢を低くするんだ。喋るな。ゆっくりと息をしろ」
『一酸化炭素中毒ってやつだね。このままだとみんな死んじゃうなぁ。まぁでも、この選択をしたのは自分なんだけど』
みんなは悪くない……。僕のせいだ。ポロンくんもフローラも、ロインとレイナさんを信じきることは出来ないと言っていた。しかし、僕を信じてついてきてくれたのだ。
ドラくんもスラちゃんも、僕を信じるからついてきたのだ。
僕が間違ったことを信じさせたから、みんなは、今、こうして、苦しんでいるのだ。
『退路は……ないね。一酸化炭素中毒で意識を失って、呼吸困難か何かで死ぬことしかできないのが、今の現状かな。
どうするの? ヤナギハラ・ウタくん? このまま見殺しにする?』
僕には何ができる……?
今の僕に、一体何ができると言うのだ。
答えは明白。……なにも、出来ない。何一つ出来ないのだ。
ステータスをわざわざ見なくても、仲間のHPが減っていくのが嫌でもわかる。ポロンくんが、フローラが……次々に意識を失っていく。
「ごめ……ね……」
レイナさんがしゃがみこんだまま、小さく口にする。その、ほんの少しの言葉を聞いたアリアさんは同じように膝をつき、優しくその白い手を包みこんだ。
「……悪くない。レイナ、謝るな。だって……まだ、死ぬには、早すぎる」
「…………」
無情にも、時間は流れる。酸素は減っているはずなのに、なぜか炎は勢いを留めることなく、僕らに迫ってくる。
僕も……もうすでに、限界を向かえていた。息をするのも辛くて、意識を保つので精一杯だ。頭も働かない。しかし、どこか達観したようなジュノンさんの声だけは、響き続けていた。
『私は知らないって言ったから、本当になにもしないよ。私らのせいじゃない。どう考えても、そっちに非があるでしょ?』
その通りだ。その通りなのだけど……。
ついに、全員が倒れ込んだ。アリアさんはギリギリ意識を保ってるのか……しかし、ギリギリだ。
全員の限界が、近づく。
『詰めが甘いんだよ、全体的に。
何があっても対応できるくらいの力と心持ちがないなら、自分勝手に動いちゃダメだよね』
意識が、飛びかける。
『でもまぁ――知らないからねって言ったのは、私だけだから』
瞬間、僕が光りだす。
否、僕ではない。僕の胸の辺り、そこから、金色に輝く魔方陣が現れ、その場を強い光で照らし始めたのだ。
「……ウタ?」
魔方陣が僕から飛び出し、巨大化し、そこから、一人の女性が飛び出してきた。一つにまとめた黒髪が揺れ、その隙間から見えた横顔がふっと微笑んだとき、なんだか……急に、泣きそうになった。
「全く……バカじゃないの? ここまでやられるなんてさ」
僕らを守るようにシエルトが張られる。と同時にその人は炎の中に、一歩、踏み込んだ。
「――凍れ、永遠に」
瞬間、あれだけ熱く燃え盛っていた炎が一瞬にして凍りついた。そして、砕け散る。
「……もう、いいよ。よく頑張ったよ」
意識を……手放す。朦朧とした意識の中で笑う魔法使いを見て、僕らは後先考えず、ただ、目の前の一つのことだけを見て、安心して、意識を手放したのだ。
(……あぁ、よかった)
生きてる。助かったんだ……と。
本当に、このあとのことは一切考えずに、思っていた。
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