チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
「なにか」
「…………」
「……なんだ、ウタ。大丈夫か?」
「あ……大丈夫です」
「絶対、無理はするなよ」
「はい」
無理なんか全くしていない。なのにどうしてこうぎこちない反応をしてしまうかと言えば、何か……うん。アリアさんの手を握っていると、ふわふわとして、あたたかい気持ちが胸の中で渦巻いて、変な気分になるのだ。
……無論、嫌な気持ちではないから、無理をしているとは違うのだが、それでも何か……変な気持ち、というのには変わりない。
「……あの、アリアさん」
「なんだ?」
「やっぱり手……離しちゃダメですかね?」
「だーめーだ! ぶっ倒れるだろ、お前」
「そんなぁ」
ずっとこのままじゃ……それこそぶっ倒れそう。そう思ってため息をつくと、手を握るアリアさんの力が、ほんの少し和らぐ。
「……そんなに嫌か?」
「い、嫌じゃないです! 嫌っていうか……嫌じゃないからこそ困ってるというか……」
「なに言ってんだ?」
「ごめんなさい、僕も分からないです」
「この先に開けた空間があります。その空間の奥に、下へと続く階段があるはずです。そこを下に行きましょう」
ブリスさんが僕らに声をかけ、先へと進む。ふとその時、ドラくんとスラちゃんの会話が聞こえてきた。
「……あえて聞くのだが、スライムとは、いわゆる、最弱の魔物だろう?
しかしお主は人の姿をとっている」
「うん……それで?」
「単刀直入に聞くと……どこまで戦える?」
「ウタを、守れるくらいには……かな」
「ではもう一つ聞こうか。……『なに』が見える? あの向こうに」
『なに』が見える……?
目の前にあるのは、壁だ。その端の辺りに人一人やっと通れるほどの、小さな入り口がある。
この奥に……『なにか』いるのか?
「……見えるものは、あるよ。でもね……どう考えても、おかしいんだよ、あれ。だって、入れるはずないもん、あの入り口から」
「そうすると……あるいは、」
「かもしれないね。……ブリスー!」
スラちゃんが呼び止めると、ブリスさんは入り口に入るのをやめた。
「どうかしましたか?」
「我らが先にいく。お主らはあとからついてこい」
「待て、何があるんだ、向こうに」
「……もしかして、魔力が薄い原因になってる、『なにか』とか、いるの?」
僕が訊ねるとスラちゃんは大きく首を振り、いつになく真剣な表情で僕を見ていた。
「……違うよ。だって…………『あれ』も、正気を無くしてるんだもん」
「お、おいらちょっとよく分からないんだけど……どういうこと? 『あれ』ってなに? あっちに何がいるんだ!?」
「あのねポロ…………ちょっと待って」
スラちゃんが目線を入り口に向ける。……僕も気がついた。ドラくんは即座にブリスさんを押し退け、一番前へと進む。スラちゃんは、僕とアリアさんの前に。アリアさんは、左手で、動けないレイナさんの手を引いて、無理矢理下がらせる。
遺跡を揺るがすような、大きな振動……。入り口の方からだ。見れば原因はすぐにわかる。
――手、だ。
巨大な手。それも、ごつごつとした、灰色の、岩のような、手。いや、手の形をした岩、の方が正しいのかもしれない。
大きさは僕の体半分くらい……だろうか? 少なくとも1メートル弱はありそうだ。
手は、何かを探すように地面を触っていたが、やがて、すごすごと中へと戻っていく。
「……下がっていろ。決して、我より前に出るでないぞ」
ドラくんがそう言い、グッと足に力を込めたのが分かった。そのつぎの瞬間、再び大きな地響きが起こる。地震のようにぐらぐらと揺れ、思わずよろける。
「ウタっ……」
「だ、大丈夫ですよ。僕は……」
「お前の『大丈夫』は、高確率で大丈夫じゃないだろ」
「そんなことは」
「ある」
再び、大きな衝撃。そして、それと同時に、目の前の巨大な分厚い壁が、崩れ去る。
「……このサイズは、何年ぶりだろうな」
ふと、ドラくんが呟く。少なくとも『普通の状態』ではない魔物が、そこにはいた。
姿を現したのは巨大な岩の塊。いくつもの大きな岩が積み重なり、一つの魔物となっているのだ。ごつごつとした輪郭、顔の部分の、少し穴が開いているところは、目……なのだろうか?
まぁそんなことより、サイズだ。ドラゴンになったドラくんと、たいして変わらないほどの大きさだった。5メートル……いや、7メートルくらいあるのだろうか? 小さな遺跡の一室を陣取り、威厳のある顔つきで、まるで、自分は門番だとでも言いたいかのように僕らを見下ろしてくる。
何もかもが異常すぎて、訳がわからない。
「ゴーレム……?! でも、ゴーレムって普通、身長1、2mくらいですよね?!」
ゴーレム……聞いたことは、ある。岩の魔物として、RPGゲームやラノベでよく出てくる魔物。
しかし……やはり、大きすぎる。大きくても普通描写されるのは、人間よりも大きいくらいとか、少し見上げるくらい、とか。
「……ダメだな。これはかなり厄介な相手だ。創造者の指示を受けていないのか……?」
ドラくんが呟く。それを聞いて改めて見てみると、確かにまともではなさそうだ。もともとよく見えないであろう目は、そこにあるのかすらわからない。
……どこか操り人形のように動くゴーレム。酷い違和感を感じていた。
『勝ち目は、あるんですか?』
「無いことはないが……」
ドラくんが言葉に詰まる。……きっと、倒すことはできるのだろうが、僕らに負担がかかるのだ。
「……まぁ、とにかくやってみよう。お主ら、後ろを頼んだぞ」
「……なんだ、ウタ。大丈夫か?」
「あ……大丈夫です」
「絶対、無理はするなよ」
「はい」
無理なんか全くしていない。なのにどうしてこうぎこちない反応をしてしまうかと言えば、何か……うん。アリアさんの手を握っていると、ふわふわとして、あたたかい気持ちが胸の中で渦巻いて、変な気分になるのだ。
……無論、嫌な気持ちではないから、無理をしているとは違うのだが、それでも何か……変な気持ち、というのには変わりない。
「……あの、アリアさん」
「なんだ?」
「やっぱり手……離しちゃダメですかね?」
「だーめーだ! ぶっ倒れるだろ、お前」
「そんなぁ」
ずっとこのままじゃ……それこそぶっ倒れそう。そう思ってため息をつくと、手を握るアリアさんの力が、ほんの少し和らぐ。
「……そんなに嫌か?」
「い、嫌じゃないです! 嫌っていうか……嫌じゃないからこそ困ってるというか……」
「なに言ってんだ?」
「ごめんなさい、僕も分からないです」
「この先に開けた空間があります。その空間の奥に、下へと続く階段があるはずです。そこを下に行きましょう」
ブリスさんが僕らに声をかけ、先へと進む。ふとその時、ドラくんとスラちゃんの会話が聞こえてきた。
「……あえて聞くのだが、スライムとは、いわゆる、最弱の魔物だろう?
しかしお主は人の姿をとっている」
「うん……それで?」
「単刀直入に聞くと……どこまで戦える?」
「ウタを、守れるくらいには……かな」
「ではもう一つ聞こうか。……『なに』が見える? あの向こうに」
『なに』が見える……?
目の前にあるのは、壁だ。その端の辺りに人一人やっと通れるほどの、小さな入り口がある。
この奥に……『なにか』いるのか?
「……見えるものは、あるよ。でもね……どう考えても、おかしいんだよ、あれ。だって、入れるはずないもん、あの入り口から」
「そうすると……あるいは、」
「かもしれないね。……ブリスー!」
スラちゃんが呼び止めると、ブリスさんは入り口に入るのをやめた。
「どうかしましたか?」
「我らが先にいく。お主らはあとからついてこい」
「待て、何があるんだ、向こうに」
「……もしかして、魔力が薄い原因になってる、『なにか』とか、いるの?」
僕が訊ねるとスラちゃんは大きく首を振り、いつになく真剣な表情で僕を見ていた。
「……違うよ。だって…………『あれ』も、正気を無くしてるんだもん」
「お、おいらちょっとよく分からないんだけど……どういうこと? 『あれ』ってなに? あっちに何がいるんだ!?」
「あのねポロ…………ちょっと待って」
スラちゃんが目線を入り口に向ける。……僕も気がついた。ドラくんは即座にブリスさんを押し退け、一番前へと進む。スラちゃんは、僕とアリアさんの前に。アリアさんは、左手で、動けないレイナさんの手を引いて、無理矢理下がらせる。
遺跡を揺るがすような、大きな振動……。入り口の方からだ。見れば原因はすぐにわかる。
――手、だ。
巨大な手。それも、ごつごつとした、灰色の、岩のような、手。いや、手の形をした岩、の方が正しいのかもしれない。
大きさは僕の体半分くらい……だろうか? 少なくとも1メートル弱はありそうだ。
手は、何かを探すように地面を触っていたが、やがて、すごすごと中へと戻っていく。
「……下がっていろ。決して、我より前に出るでないぞ」
ドラくんがそう言い、グッと足に力を込めたのが分かった。そのつぎの瞬間、再び大きな地響きが起こる。地震のようにぐらぐらと揺れ、思わずよろける。
「ウタっ……」
「だ、大丈夫ですよ。僕は……」
「お前の『大丈夫』は、高確率で大丈夫じゃないだろ」
「そんなことは」
「ある」
再び、大きな衝撃。そして、それと同時に、目の前の巨大な分厚い壁が、崩れ去る。
「……このサイズは、何年ぶりだろうな」
ふと、ドラくんが呟く。少なくとも『普通の状態』ではない魔物が、そこにはいた。
姿を現したのは巨大な岩の塊。いくつもの大きな岩が積み重なり、一つの魔物となっているのだ。ごつごつとした輪郭、顔の部分の、少し穴が開いているところは、目……なのだろうか?
まぁそんなことより、サイズだ。ドラゴンになったドラくんと、たいして変わらないほどの大きさだった。5メートル……いや、7メートルくらいあるのだろうか? 小さな遺跡の一室を陣取り、威厳のある顔つきで、まるで、自分は門番だとでも言いたいかのように僕らを見下ろしてくる。
何もかもが異常すぎて、訳がわからない。
「ゴーレム……?! でも、ゴーレムって普通、身長1、2mくらいですよね?!」
ゴーレム……聞いたことは、ある。岩の魔物として、RPGゲームやラノベでよく出てくる魔物。
しかし……やはり、大きすぎる。大きくても普通描写されるのは、人間よりも大きいくらいとか、少し見上げるくらい、とか。
「……ダメだな。これはかなり厄介な相手だ。創造者の指示を受けていないのか……?」
ドラくんが呟く。それを聞いて改めて見てみると、確かにまともではなさそうだ。もともとよく見えないであろう目は、そこにあるのかすらわからない。
……どこか操り人形のように動くゴーレム。酷い違和感を感じていた。
『勝ち目は、あるんですか?』
「無いことはないが……」
ドラくんが言葉に詰まる。……きっと、倒すことはできるのだろうが、僕らに負担がかかるのだ。
「……まぁ、とにかくやってみよう。お主ら、後ろを頼んだぞ」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
127
-
-
52
-
-
549
-
-
147
-
-
2
-
-
140
-
-
37
-
-
34
-
-
3087
コメント