チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

ウルフ

「よし……こいつで最後だな」


 アリアさんが最後の一匹のウルフに治療を施す。僕らに襲いかかってきたウルフは、あの一匹を除いて全て生きていた。
 ……ドラくんは、一匹殺してしまったことに対して、少し後ろめたそうだけど、でも、きっと誰がどうやっていても、あのウルフは助からなかった。仕方ないんだ……きっと。


「……で、どうする? リーダー」

「……へ?」


 唐突にアリアさんに訊ねられて、僕はすっとぼけた返事をしてしまった。何でって、まさかこのタイミングで話しかけられるとは思ってなかったから。


「だーかーら、どうするかって聞いてるんだよ」

「すみません……何を? ですか?」

「ウタさん……ウルフたちを、ですよ」


 フローラに半ば呆れられた感じで言われて、ようやく僕は理解した。
 そうか、治療したとして、今意識を失っているウルフが目を覚まし、再びこの空間に留まったら……同じことの繰り返しになってしまうのだ。

 とはいえ、この数……えっと、17匹のウルフたちを外に出すのも、体力的、時間的に考えてちょっと厳しい。どうしたものか……。


「……あまりここに長居していると、日が落ちてしまうかもしれません。そうなると、遺跡の奥に向かうのは困難になってしまいます」


 ブリスさんがそう言い、遠回しに僕はを急かしてくる。んー、にしたって、このままじゃ帰りも困るからなぁ。


「……あのさ、ウタ兄」

「ん? 何かいいアイディア思いついた?」

「そうかもしれない。……あのさ、これ、そんなに難しい問題か?」


 ポロンくんの言葉に首をかしげると、ポロンくんは小さくため息をついた。


「あのさぁ……ウタ兄ってさ、肝心なとき盲目的になるよな。なぁアリア姉」

「ポロンが『盲目的』なんて難しい言葉を使えるなんて……!」

「そこじゃねーよ」

「アリアさん! ポロン、実はもともと頭いいんですよ!?」

「そうなのか?」

「12×13が暗算できるんです!」

「そうなのか、スゴいな!」

「いや頭がいいのか悪いのか分からない、微妙なラインの持ってくるの止めて!?」

「ポロンくん、11×13は?」

「ウタ兄もなんだよ! 143だよ! せめて12×13にしろよこの流れ!」

「おおー、暗算できるんだ!」

「感心するところそこじゃないだろ! ほら! ブリスもレイナも困ってる! ウルフのこと話していいかなぁ?!」

「うん、ごめんごめん」


 ポロンくんの突っ込みが炸裂したのが久しぶりで面白くて、ついついからかってしまった。


「……で、ウルフのことだけど……本当に何も思い付かない?」

「……うん」

「……ドラくんとスラちゃんは」

「ん、分かってるよ」

「突然分かっておる」

「二人分かってるの!?」

「ウター……とりあえず、ステータス見返してみたら?」


 スラちゃんにそう促され、僕は言われるがままに自分のステータスをながめた。



名前 ウタ

種族 人間

年齢 17

職業 冒険者

レベル 24

HP 36000

MP 19200

スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(中級)・体術(中級)・初級魔法(熟練度5)・光魔法(熟練度3.5)・炎魔法(熟練度3)・氷魔法(熟練度2)・水魔法(熟練度2)・風魔法(熟練度1.5)・土魔法(熟練度1.5)・回復魔法(熟練度2)・使役(中級)・ドラゴン召喚

ユニークスキル 女神の加護・勇気・陰陽進退

称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・B級冒険者・Unfinished



 ……あ。
 僕はそこで、ようやく事を察したのだった。

 つまりどういうことか? ……『使役』である。僕には使役というスキルがある。使役というスキルは、ドロウさんの時がそうであったように、ドラくんやスラちゃんのように会話ができる魔物以外も使役することができる。


「……もしかして、使役した魔物って、主人の言うことなら聞いてくれる?」

「何を今さら。我らはお主の言うことを聞ける範囲で聞いているではないか」

「……じゃあ、このウルフたちを僕が使役すれば、ここから出ていってくれる?」

「そうだな」


 これで解決だ! ……と思ったが、ドラくんの言葉は続いた。


「だが、17もいる。17体一気に使役するとなれば、ウタ殿への体の負担もかなり大きな物になるはず。
 ……どうする? 今なら、なんとでもなるが」


 ドラくんの言う、『なんとでもなる』は、きっと、僕を想ってのことだろう。しかし、『なんとでもなる』その手段を、僕は望んでいない。だからこそ、僕に判断を任せているのだ。


「……そうだなぁ」

「…………」


 僕は……できるだけ、戦いたくないんだ。いや、戦いたくないのは、嘘だ。一番僕が嫌なのは、意味もなく命が消えること。それはすなわち、ここでウルフをドラくんが殺すことにあたる。
 僕はそっとウルフに歩みより、一匹ずつ、その体に触れ、言葉を呟いた。


「……オネ、トー、スリー、オー、フィブ、シス、エル――」


 僕は17体全部のウルフに、英数字をもじった名前をつけた。その度にウルフがほわんと光り、使役完了を伝えていく。


「これでよかったんだよね」

「きっとな。しかしお主は――」


 それより先は、聞こえなかった。……否、聞こえないふりをした。

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