チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

遺跡へ

 今日から遺跡へ向かう。僕らは宿で朝御飯を食べて、身支度をし、外に出た。
 空は相変わらずの快晴で、太陽が眩しい。


「……本当に曇りの日とかありませんね」

「ま、魔法であれこれしてるからな。……曇りがいいのか?」

「うーん……」


 僕は少し目を細め、冗談混じりに言った。


「ちょっと、眩しすぎるかなって」

「…………」


 そこで、レイナさんとブリスさんがやってきた。レイナさんは僕らを見ると、少し嬉しそうに微笑み、手を動かす。


『来てくれてありがとう』

「別にー! おいらたち、約束は守る主義だもんな!」

「ポロンくん、曲がったこと嫌いそうだもんね」

「昔の反動だい!」

「嘘つきよりはいいんじゃない?」

「そうだい!」

「あはは、そっか」

「……して、これからベネッド遺跡に向かうんだな?」


 ドラくんが確認するように問いかけると、ブリスさんがうなずいた。


「ええ、ここからは遠いので馬車を出します。御者は私がするので問題ありませんよ。食料も私が持っていますが、みなさんも少しは持っていた方がよいかと」

「それなら、僕、三日分くらいは持っていますよ」

「なら大丈夫でしょう。善は急げと言いますし、さっそく向かいましょうか」


 そうして、僕らはベネッド遺跡へと向かうことになった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 確か、ドラくんがいっていた。ベネッド遺跡は、昔、人が山を切り崩して住みかにしていた跡なのだと。その言い方だと、ほぼ全ての人がそこに住んでいた感じがするから、相当大きい感じがする。しかし、現実には……


「……でか」


 その更に上をいっていた。遺跡は僕が想像していたよりも何倍も大きく、山そのものだった。イメージとしては……本物を見たことがないからなんとも言えないけど、マチュピチュと、万里の長城と、ピラミッドの間、みたいな。もしこれが日本にあったら確実に世界遺産だなって感じだ。
 しかし大きい……これ、中の構造によっては今日一日じゃロインを見つけられないんじゃ……。


「……うわぁ」

「すっごい! こんな大きいんだな!」

「そうだな……私も来たのは初めてだが、ここまでとは思っていなかった。こんなに大きなものなんだな」

『クラーミルのベネッド遺跡は、今発見されてるなかでは、世界で一番大きな遺跡だから』

「そうなんですか!」

「我も久々に来たな……。といっても、戦争が起こる前に一度来たきりだが」


 ふと、ブリスさんがなにやら紙を取り出し、僕らに差し出した。ちらりと見ると、それは地図のようだった。


「遺跡内の地図です。人が住んでいましたから、小さな部屋がいくつもありますが、ほとんどは崩れて入れなくなってしまっています。
 構造はたいして複雑ではありません。階段は上と下にそれぞれ続いていますが、上は崩落の可能性があるので結界が張られています。先代の王が張られたもので、本人にしか解けません。その先にいることはないでしょう」

「じゃあ、調べられるのは入ってすぐの辺りと、下に行って、少し大きなこの部屋……それから、この大きな部屋の周りかな」

「入れるところは少ないんですね」

『そもそも古くて立ち入り禁止だから、人が入れるところなんて極僅かなの。……そこに、ロインがいるといいんだけど』

「……大丈夫、きっと見つかりますよ! ね、アリアさん!」

「そうだな。絶対見つけよう」


 そうして僕らが先に進もうとすると、スラちゃんが僕の服の裾を、ぎゅっと、掴んできた。驚いてそちらに目をやると、僕を見ないままスラちゃんは手に力を込め、服を握りしめていた。


「……スラちゃん?」

「…………」

「どうかした……? 大丈夫? 怖いの?」


 するとスラちゃんは、少し意外なことを口にした。


「……乾いてる」

「え……っと、なにが?」

「空気とか、気配とか……全部、乾いてる」


 いまいち理解できなくて首をかしげると、スラちゃんは僕にぎゅっと抱きつき、胸に顔を埋めた。


「……なんか、変だよ、ウタ」

「変……? 変って、なにが?」

「全部。全部が……なんか……変。気持ち悪い……」

「……本当に大丈夫? 待ってる?」

「ううん……一緒にいく……」

「でも」

「絶対、一緒にいくの……」


 困ったな……連れていくのはちょっと心配だ。しかし、置いていくわけにもいかない。すると、ドラくんがそっと近づき、スラちゃんの体を抱き上げた。


「あっ」

「……ウタ殿がよければ、我がこうしてつれていこう。どうせ、連れていくのは不安だが置いていくのも不安とか、そんなこと思ってるんだろう? お主は」

「……よく分かったね」

「お主は分かりやすい。我がいれば、ある程度のことからは守ってやれる。それ以上が起こらないことを願いはするが……。
 確かに、ここの空気はよくない。乾いている」

「その……乾いているっていうのは、普通に乾燥してるってこと、じゃないよね?」

「違うな。……魔物にとってはあまりよくない。魔力が薄い。人にとって、酸素が薄いようなものだな。
 ……なにかいる。気を付けよ、我が主人よ」

「…………」


 なにか……。そのなにかが、この辺りの魔力を奪い取っているのか?
 ドラくんが気をつけろという存在。これまでの、幾度も続いた個性の塊'sの、警告。それは……この事なのか?

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