チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
強さ
例え『勇気』が発動していても、例えジュノンさんの『魔王の微笑み』が継続していても、僕と魔王のレベル差は2700もある。だからなのか、僕の放った槍に、一瞬だけ怯んだ魔王だったが、すぐにそれを消し、僕を今までと違った目で見た。それを僕も、真っ直ぐに見返す。
「……なるほどな。ヤナギハラ・ウタ。お前はただの弱虫なガキではなかったと。それは認めてやろうか。
しかし俺よりも、塊'sよりも弱いことには変わらない。お前の後ろの、『仲間』が弱いことにも」
「……僕らは、弱いです。確かに弱いです。まさか魔王と戦うとは思ってませんでしたし、勝てるなんて、微塵も思えません。それは、今も同じです」
「ウタっ……」
僕を止めるような、声が聞こえた。しかし僕はそれを無視する。魔王の瞳は黒く、暗く、しかし輝き、僕をただただ見据える。
「なるほど……それならなぜ、こうして俺と戦おうとしている?」
「本当の『強さ』はステータスには現れない。僕は、そう思っているからです」
「ほう? それなら示してみろ。その、『本当の強さ』というものを」
そして魔王は、右手を顔の前までもってくると、パチンと、指をならす。
「――出来ないのならば、死ね」
瞬間、僕の体は動いていた。周囲に現れるのは、具体的な形を持った影。……そう、あのときと同じ闇魔法。たしか、『操影』という技なのだと、エドさんが教えてくれた気がする。
その名の通り、影を操る魔法。平面的なものならば簡単にできるが、立体となると熟練度9は必要と言われる高度な魔法……。
魔王はそれを使い、僕らに向かって四方八方から刺を飛ばしてきた。……見なくても、アリアさんが怯えているだろうことは、わかる。
僕はその影を認識するとほぼ同時に、両手から光を溢れさせた。
「フラッシュ!」
僕の光魔法は闇魔法を打ち消していく。僕は不安そうに僕を見ながら、しかし動けないでいる僕の仲間たちに笑顔を向けた。
「……ウタ、さん?」
「ウタ兄……?」
「ウタ……!」
「大丈夫だよ! ……絶対絶対、守るからね」
僕がそういって笑うと、アリアさんが無言で僕に近づき、そして、僕の右手をきゅっと、握る。
「……一緒にいるから」
「アリアさん……」
「守られてばっかりはな……癪なんだよ。
私には、『勇気』のスキルはない。分け与えられたのだって、あれ一度きりなのかもしれない。私は弱い。それでもな……仲間だし、一応私は、お前の年上なんだぞ?」
「……そうだよ。ウタ」
スラちゃんが僕の左手をとる。
「ぼくも、ウタの力になれるよ! スライムだったときより、もっともっと!」
「ウタさん!」
「ウタ兄!」
フローラとポロンくんの手が、重なる。
「おいらだって、すごくすごく弱いけどっ……。でも! ウタ兄の力になりたいから!」
「すごく怖いけど……ウタさんと一緒なら、何とかなるような気がしますから」
あたたかい。
すごく怖くて、さっきまで震えていた。そのことにも、一人では気づけなかった。
勝たなきゃ……僕を信じてくれる、仲間のためにも。いや……勝とう、みんなで。
「……僕に、ついてきてくれる?」
みんなが、無言でうなずいたのが分かった。
「無理は、しないでね」
「お前もな」
僕らの思考回路が、一瞬だけ繋がった。……気がした。
「――Unfinished、いくよ!」
僕らは一気に飛び出す。
魔王にとって警戒するべきなのは僕、ヤナギハラ・ウタただ一人。普通に考えれば魔王は僕だけを狙えばいいはず。
でも、僕だってレベルは2300。単純な魔法を打ち消せる程度には強いんだ。
……そして、魔王はさっきの僕の行動を知っている。なら、僕以外を敢えて狙い、僕が庇いにはいるのを待つだろう。
「弱いものがいくら集まっても、弱いだけだ」
影を操り、思った通り、魔王はポロンくんに狙いを定める。
なぜなら魔王は、僕の仲間の、本当の強さを知らない。
「――へへっ、『窃盗』」
「……なに」
魔王の狙いが自分に定まったことに気がついたポロンくんは『窃盗』を使い、その視線の先から姿を消した。一瞬、魔王が視線を泳がせる。
「シャインランスっ!」
その、ほんの少しの隙を決して見逃さず、アリアさんは魔王の背後から光の槍を放つ。それを打ち消すため振り向いた魔王の左から、僕は剣を構えた。
「フラッシュ!」
「……ふん、ダークネス」
魔王が僕の攻撃も、アリアさんの攻撃も打ち消した、それとほぼ同時に、魔王の背後から声がする。
「短期間ゴリラ」
「なっ、それはあいつらの――!」
魔王がそれに気づくよりも少し早く、ポロンくんの攻撃は魔王に届く。それと同時に僕らにもバフがかかる。
「っ……『窃盗』しながらはこれが限界か」
「大丈夫、ありがとうポロンくん!」
「……これくらいで倒れるわけがなかろう」
「知ってます」
次に魔王に攻撃を仕掛けたのはフローラだった。
「レインボー!」
「っ……?!」
僕は魔王が声をあげる前に、続けて攻撃を仕掛ける。
「陰陽進退!」
……もう一発、
「バーニングフラッシュ!」
光魔法と、炎魔法が入り交じる。白い輝きを纏った炎が魔王を包む。なんの音もしない。
倒した――そう思ったのは、ほんの一瞬。
「ただの人間ごときが、調子に乗るなよ。
――漆黒に堕ちよ、『堕天使』」
ガーディアを。そう思うより前に、僕らの視界は黒に消えた。
「……なるほどな。ヤナギハラ・ウタ。お前はただの弱虫なガキではなかったと。それは認めてやろうか。
しかし俺よりも、塊'sよりも弱いことには変わらない。お前の後ろの、『仲間』が弱いことにも」
「……僕らは、弱いです。確かに弱いです。まさか魔王と戦うとは思ってませんでしたし、勝てるなんて、微塵も思えません。それは、今も同じです」
「ウタっ……」
僕を止めるような、声が聞こえた。しかし僕はそれを無視する。魔王の瞳は黒く、暗く、しかし輝き、僕をただただ見据える。
「なるほど……それならなぜ、こうして俺と戦おうとしている?」
「本当の『強さ』はステータスには現れない。僕は、そう思っているからです」
「ほう? それなら示してみろ。その、『本当の強さ』というものを」
そして魔王は、右手を顔の前までもってくると、パチンと、指をならす。
「――出来ないのならば、死ね」
瞬間、僕の体は動いていた。周囲に現れるのは、具体的な形を持った影。……そう、あのときと同じ闇魔法。たしか、『操影』という技なのだと、エドさんが教えてくれた気がする。
その名の通り、影を操る魔法。平面的なものならば簡単にできるが、立体となると熟練度9は必要と言われる高度な魔法……。
魔王はそれを使い、僕らに向かって四方八方から刺を飛ばしてきた。……見なくても、アリアさんが怯えているだろうことは、わかる。
僕はその影を認識するとほぼ同時に、両手から光を溢れさせた。
「フラッシュ!」
僕の光魔法は闇魔法を打ち消していく。僕は不安そうに僕を見ながら、しかし動けないでいる僕の仲間たちに笑顔を向けた。
「……ウタ、さん?」
「ウタ兄……?」
「ウタ……!」
「大丈夫だよ! ……絶対絶対、守るからね」
僕がそういって笑うと、アリアさんが無言で僕に近づき、そして、僕の右手をきゅっと、握る。
「……一緒にいるから」
「アリアさん……」
「守られてばっかりはな……癪なんだよ。
私には、『勇気』のスキルはない。分け与えられたのだって、あれ一度きりなのかもしれない。私は弱い。それでもな……仲間だし、一応私は、お前の年上なんだぞ?」
「……そうだよ。ウタ」
スラちゃんが僕の左手をとる。
「ぼくも、ウタの力になれるよ! スライムだったときより、もっともっと!」
「ウタさん!」
「ウタ兄!」
フローラとポロンくんの手が、重なる。
「おいらだって、すごくすごく弱いけどっ……。でも! ウタ兄の力になりたいから!」
「すごく怖いけど……ウタさんと一緒なら、何とかなるような気がしますから」
あたたかい。
すごく怖くて、さっきまで震えていた。そのことにも、一人では気づけなかった。
勝たなきゃ……僕を信じてくれる、仲間のためにも。いや……勝とう、みんなで。
「……僕に、ついてきてくれる?」
みんなが、無言でうなずいたのが分かった。
「無理は、しないでね」
「お前もな」
僕らの思考回路が、一瞬だけ繋がった。……気がした。
「――Unfinished、いくよ!」
僕らは一気に飛び出す。
魔王にとって警戒するべきなのは僕、ヤナギハラ・ウタただ一人。普通に考えれば魔王は僕だけを狙えばいいはず。
でも、僕だってレベルは2300。単純な魔法を打ち消せる程度には強いんだ。
……そして、魔王はさっきの僕の行動を知っている。なら、僕以外を敢えて狙い、僕が庇いにはいるのを待つだろう。
「弱いものがいくら集まっても、弱いだけだ」
影を操り、思った通り、魔王はポロンくんに狙いを定める。
なぜなら魔王は、僕の仲間の、本当の強さを知らない。
「――へへっ、『窃盗』」
「……なに」
魔王の狙いが自分に定まったことに気がついたポロンくんは『窃盗』を使い、その視線の先から姿を消した。一瞬、魔王が視線を泳がせる。
「シャインランスっ!」
その、ほんの少しの隙を決して見逃さず、アリアさんは魔王の背後から光の槍を放つ。それを打ち消すため振り向いた魔王の左から、僕は剣を構えた。
「フラッシュ!」
「……ふん、ダークネス」
魔王が僕の攻撃も、アリアさんの攻撃も打ち消した、それとほぼ同時に、魔王の背後から声がする。
「短期間ゴリラ」
「なっ、それはあいつらの――!」
魔王がそれに気づくよりも少し早く、ポロンくんの攻撃は魔王に届く。それと同時に僕らにもバフがかかる。
「っ……『窃盗』しながらはこれが限界か」
「大丈夫、ありがとうポロンくん!」
「……これくらいで倒れるわけがなかろう」
「知ってます」
次に魔王に攻撃を仕掛けたのはフローラだった。
「レインボー!」
「っ……?!」
僕は魔王が声をあげる前に、続けて攻撃を仕掛ける。
「陰陽進退!」
……もう一発、
「バーニングフラッシュ!」
光魔法と、炎魔法が入り交じる。白い輝きを纏った炎が魔王を包む。なんの音もしない。
倒した――そう思ったのは、ほんの一瞬。
「ただの人間ごときが、調子に乗るなよ。
――漆黒に堕ちよ、『堕天使』」
ガーディアを。そう思うより前に、僕らの視界は黒に消えた。
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