チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

五人部屋

 出発は明日になった。ドロウさんがそうしてくれたのだが、理由は主に僕らの心と体を守るためだ。


「今日いっぱい休んで、明日何があっても大丈夫なようにしておきなー?」


 だそうです。
 まぁその辺のあれはともかくとして、僕らはもう疲れたし、宿でゆっくりすることに決めた。何せ明日は魔王討伐に行くのだ。そんな異世界ノベルみたいな展開、予想してないよ! だって魔王は封印したって聞いてたし!

 ……えー、おほん。宿に戻った僕ら。ここでひとつ、問題が生じたのだ。


「……あ、」

「ん?」

「お?」

「一人増えてるじゃん」

「あっ、そっか。ぼくスライムだったから」

「とりあえず、宿の人に聞いてみようか」


 そして聞いてみたのだが、


「すみませんねぇ。今、全部のお部屋埋まってしまってて、ご用意出来ないんですよ。
 まさか……えぇ、使役していた魔物が人になって戻ってくるとは」

「誰も思わないな。大丈夫だ。無理言ってすまなかった」

「お布団の予備もなくて……。小さな宿ですから」


 さーて、どうしようか。部屋にはベッドが四つ。それとソファーだ。うーん、ここでとる一番無難な手は……。


「僕、ソファーで寝ますよ。毛布なら用意できるって言ってましたし」

「え!? だ、ダメだよ! ウタ風邪ひいちゃうよ!?」

「大丈夫だよ」

「そもそも、ぼくが人になっちゃったせいなんだから、ぼくがソファーで寝ればいいじゃん!」

「いやでも……」

「間をとって私が寝るか?」

「アリア姉、皇女だろ?」

「野宿もできる! 問題ない!」

「いやいやいや、部屋とれてるのに……」


 やっぱり僕が寝袋とかで寝るのが一番良い気がする。アリアさんをソファーでっていうのはやっぱり気が引けるし、ポロンくんたちは、なんだかんだ言って子供だから、あったかくして寝て欲しい。


「あっ!」

「どうしたの、スラちゃん?」

「ぼく! ウタと同じベッドで寝る!」

「はぇっ?!」

「そもそも、今までそうしてたし! このベッドそこそこ大きいから大丈夫だよ! ウタと寝る!」

「い、いや……。待って待って待って。え、一緒にって、あの……一緒のベッドに入って、ってこと、だよね?」

「そうだよ? 別にいいじゃーん」


 んんんんん……よ、よくない。だって、人とスライムじゃ違うんだよ!? 分かるかなぁ?!
 ……って、よく考えたら、基本スラちゃんと一緒だったから、他にも色々ヤバイことあるんじゃないか!? な、ないか……? いや、人としてまずいことはしてないけども!


「……ウタ、ぼくと寝るのやだ?」

「うっ……」


 そ、その目は反則だろぉーーー!!! 親心(?)をくすぐるような目をするんじゃないっ!


「それならぼく、一人でソファーで寝るもん。それでいいもん」

「わー……かったよ! わかった! 一緒に寝るから!」

「ほんとに!? やったー! ウタと同じベッド~!」


 ……悪意がないっていうのがたちが悪い。
 大きくため息をついていると、どこからか痛い視線を感じた。そちらに目をやると、ポロンくんとフローラがじーっとこちらを睨んでいた。


「……え? 僕なんか、悪いことしたかな?」

「なんだかんだで、一緒に寝るんだなぁーって思ってよ」

「え、だってそれは」

「別に良いですけど。それはウタさんの判断次第ですから?」

「え、え?」

「おいらの特権だと思ってたのにー……」

「え……ええええー……」


 んー? ちょ、ちょっと待って? なんで僕はこんな目で見られてるわけ!? 僕はスラちゃんをソファーで寝かさないために仕方なく、しかたなーく……。


「……はぁ」

「アリアさんもその目は何なんですか!?」

「気づけよ」

「えええええ?!」

「……あっ! ぼくまたいいこと思いついた!」


 スラちゃんがそう声をあげる。……な、なんだ今度は。


「アリアー! このベッドって動かせるやつかな?」

「え……そうだな。少し動かすくらいなら、押せばできそうだ」

「じゃあさ! ベッドくっつけて、みんなで雑魚寝しよーよ!」

「んぁ?!」


 と、とんでもない発想力!? ででで、でも、それだとアリアさんとも一緒に寝ることに……!


「いいじゃないか!」

「アリアさーん!?」

「私も賛成です!」

「おいらも!」

「ま、待って! それだと僕……」

「なんだ。なんの問題もないだろ?」

「うぅー……ない、ですけど」


 はぁー……。メヌマニエCD、出すようかな。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 その夜……話していた通り、四つのベッドをくっつけてみんなで雑魚寝。順番は、アリアさん、フローラ、僕、スラちゃん、ポロンくんだ。


「……なんで僕が真ん中なんですか……」

「いいじゃないか。電気消すぞ!」


 端っこのアリアさんが電気を消して毛布の中に潜る気配がする。……というか、フローラじゃなくてポロンくんが隣と思ってた。


「……ウタさんの隣、こんなにあったかいんですねー」

「うん! ウタあったかーい」

「寝れるかな……」

「ははっ……。うん、あったかいな。こうやってくっついて寝るのもいいじゃないか」

「ポロンくん、端でよかったの?」

「おいら端でも寂しくないもーん。いつもウタ兄の隣だから、今日はフローラとスラちゃんに譲ったの!」


 ……ちょっと強がってるな。


(あ、もしかして……寂しかった?)


 ……そう、なのかな。だったら…………。


「うーん……届くか分かんないけど、せっかくくっついてるし、腕枕とか、する?」

「「「する!」」」

「即答か。はは……」


 実際したことはないけど……。三人の頭の下に手を通す。ちょっと重い。でも、あったかいなぁ……。


「腕枕してもらったの、はじめてです!」

「おいらも!」

「ぼくもぼくも!」

「あはは……じゃあ、寝」

「ウタ」


 寝ようか、と言いかけたとき、アリアさんがそう声をかける。


「アリアさん?」

「私も腕枕して欲しい」

「マジですか」

「マジだ」

「……はぁ、もう、一緒に寝てるのになんでそこは確認とるんですか。
 いいですよ。もう好きにしてください」

「いいのか!?」

「どうぞ」


 こんなにみんなと近くてどうしようかと思っていたのに、一周回って、安心してきてしまった。


(……両手に花、だなぁ)


 次の日、僕の腕がしびれて動かなかったのは、まぁ……幸せの証である。

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