チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

クラーミル

「おい、着くぞ」


 アリアさんがそう声をかける。ハンレルの港を出発してほぼ丸二日。僕らはようやくクラーミルにたどり着いた。

 クラーミルは工業の国。よって、大きな街は海側に存在している。王都もしかりだ。
 港を降りて、すぐにわかる。近未来的な雰囲気が僕らを包んだ。人も、マルティネスやハンレルと似ているけど、どこか違う雰囲気の国。


「確か……ギルドには挨拶に行かなくていいから、すぐに城に来るように言われてましたよね」


 僕はアリアさんの少し後ろを歩きながらそう訊ねる。


「あぁ。クラーミルでは王子と姫が15になった時点で政権と王座を二人に譲られる。王子、姫がたくさんいれば、トップの頭数が増える仕組みになっているな。
 すでにレイナ姫とロイン王子が王座をついで、国王と女王になっているはずだ」


 レイナ・クラーミルとロイン・クラーミル。この二人が今のクラーミルのトップ。成人はしていないから、結婚はまだだという。


「確か……レイナ様は、アリアさんと同い年ですよね?」


 フローラが言う。アリアさんはそれにうなずくが、表情はあまり冴えない。


「とは言っても、会ったことないからな……。それに、ちゃんと会話できるか」

「会話くらいさせてもらえるだろ? いくら歴史上関係がギスギスしてたって、ちょっと世間話くらいさぁ」

「いや、そうじゃなくてな……」

「なにか……あるんですか?」


 アリアさんは少し困ったように笑いながら、僕らに向かってこんなことを言う。


「お前ら、レイナ様と会ったら、とりあえずなにも言わないでおけ。な?」

「……う、うん。分かった」

「アリアさんがそういうなら……」


 あまり顔色が良くない。少し具合でも悪そうに見える。


「大丈夫ですか? 体調、とか」

「あぁ……大丈夫だ。ちょっと思い出しただけさ。心配性だな」

「男は、どうなんですか?」

「……まだ、完全にとはいかないが、ウタたちがいるときは平気だと思うことにした。もし何かあっても、助けてくれる仲間がいるからな」

「私たちがアリアさんを助けないわけないですよ!」

「そうだよ! おいらたち、アリア姉のことだいす……って、こんなこと言わすんじゃないやい!」


 そんな二人の反応をうかがいながら、僕だけは、アリアさんの言葉に、なにも返せなかった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 お城の造りも、ちょっと近代的。全体的に鉄っぽい色が目立つ。しかし錆びてるような跡は全くなく、綺麗に保たれているんだなぁということが窺える。
 僕らがやって来ると、門番の騎士二人が僕らを止める。


「何者だ」

「私たちは今、ハンレルから来た冒険者、Unfinishedだ」


 アリアさんはギルドカードを取りだしそれを二人に見せる。ほぼ同時に、僕らもカードを取り出した。


「私はマルティネス・アリア。マルティネス帝国の皇女だ。こちらに着き次第、挨拶に来るよう達しがきている。中に入れてもらいたい」


 いつだかアリアさんが、クラーミルの国民はみんな、プライドが高いと言っていた。だからなのか、アリアさんの口調は、どこかいつもより強めに感じた。


「なるほど……。確かにマルティネス・アリアのようだな」

「ブリス様を呼んでこい」

「あぁ」

(ブリス様……?)


 一人が城の中に入っていき、しばらくすると、見た目30~40くらいの、少し小太りな男性が奥から出てきた。服は豪華だが、見たところ、執事とか、秘書とか、そんな感じだった。側近……という言葉が当てはまるかもしれない。
 ブリスさんは僕らの前まで来ると軽く一礼し、にこりと笑う。


「お待ちしておりました。お話は聞いております。こちらへ」


 そして、片手で僕らを中に入るように促し、そのままお城の中を率先して歩いていく。
 僕らはそれについていき、やがて、大きな両開きの扉の前にやって来た。ブリスさんがその扉をゆっくりと開く。

 奥には、玉座が二つ置かれていて、一つには黄金色の髪と瞳の男性、一つには銀髪に銀色の瞳の女性が座っていた。パット見でわかる。この二人が、レイナ様とロイン様なのだと。
 しかし、二人とも今まで会った国王、女王に比べて、はるかに若かった。確かに、これはアリアさんと同い年でおかしくないな。


「マルティネスのアリア姫と、そのお仲間のみなさんです。
 左からウタ様、ポロン様、フローラ様です」


 僕らが玉座の前に横一列に並ぶと、ブリスさんがこんな風に僕らを紹介した。ど、どうしよう。何か言った方がいいのかな……?
 所作もなにも分からないでどうしようかと思っていたら、アリアさんが一歩前に出て、膝を少し曲げて、綺麗に一礼する。
 王族の、優雅さを物語るような一例――。普段は気にしないけれど、やっぱり姫なんだなと分からせてくれような礼。

 ……あ。


(アリアさん、国によって礼の仕方変えてるんだ……)


 細かいところだけど、恐らく、その国に合わせた礼の仕方にしているのだ。……なんともアリアさんらしい。

 アリアさんは顔をあげると少し微笑み、言葉を告げる。


「はじめましてロイン様。マルティネス・アリアと申します。しばらくの間、クラーミルに滞在させていただくため、ご挨拶に伺いました。港の方も貸していただき、ありがとうございます」

「いえ。こちらこそはじめましてアリア姫。ずっとお会いしたかったです」


 黄金色の髪を揺らし、同じ色の瞳を細めて、ロイン様はそう答える。
 そしてアリアさんはレイナ様に向き直り、


「…………」


 無言で、手を動かした。それに対してレイナ様も、同じように手を動かす。そして、真っ白い頬を少しだけピンク色に染めて微笑んだ。

 ……手話?
 この人――耳が、聞こえないのか?

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