チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

ハンレル

「ライアン様、お久しぶりです」

「いやぁ! アリア姫が来ていると聞いて、もう嬉しくて嬉しくて!」


 ライアンさんがアリアさんに手を差し出し、握手を求める。アリアさんは一瞬ピクリと体を震わせたあと、右手を差し出して笑顔を見せた。
 しかしその一瞬の震えを、誰も見逃さなかった。


「アリア姫……? どうかなさいましたか?」

「あ、いや……」

「ライアン、少しは頭を使わんか。マルティネスで、少し前に何があったのか知っておろう?」

「……あ、すみません! そういうことでしたか。配慮が足りていませんでした」


 ライアンさんはなにかを察したようにアリアさんから手を離す。


「……す、すみません。決して、ライアン様がどうと言うわけではないのですが、その、例の一件があってから、男性が、少し苦手になってしまいまして」

「いえいえ! 気にしませんよ!」

「とにかくライアン、席について、食事をとったらどうだ?」

「はーい、父上」


 ライアンさんは、なんというか、明るくて優しげな人だ。僕よりも年下だろうか? 随分と子供っぽく見える。
 ふと、ポロンくんがぽつりと言う。


「よかったぁ、ハンレルの王族の人が優しくて」

「ポロン……?」

「だって、色々あったあとだから、アリア姉が変なことを言われたらやだなーって思って」


 確かに、ポロンくんが言うこともわかる。マルティネスでは確かに、アリアさんはみんなから受け入れられた。
 しかもあの場だけでなく、結果的に選挙も行ったのだ。アリアさんらしい。

 結果、投票率は98.36%、そのうち賛成率は99.17%という、異例とも言える数値が出た。僕こんな数値、日本で見たことないよ。ちなみに、ベトナムでは投票率99越えているらしい。
 みんなぁ! 僕は選挙しないで終わったけど、みんなは選挙しようね!

 それはともかく、国内ではほぼ100%旅を認められたアリアさんだったが、それは今までの国での行いをみんなが知っているからの結果だ。国外ではそうとも限らない。ゆえに、身勝手だと言われてしまっても無理はないのだ。
 だから、ハンレルにいくのに心配はしていたのだ。それは、ポロンくんもフローラも同じだったようだ。


「国でのことを、姫に対して責めるようなことはしないよ」


 国王陛下が笑いながら言う。


「こちらの国も、女王は早くに旅立っているし、ライアンに自由はほぼない。好きなことをさせてやりたい気持ちもあるが、それだけの責任を負う勇気はないさ。
 それに比べて、アリア姫を笑顔で送り出したエヴァン国王やマルティネスの国民には敬意を向けたいね」

「陛下……。ありがとうございます」

「それに、小さい頃のアリア姫は今以上に男がダメだったからのう。いつも国王の背中にしがみついておったわ」

「う……そ、それは忘れていただけると」

「男は大きいから苦手だと言っておったな! はっはっは!」


 そんな和やかな雰囲気のなか、フローラがアリアさんに声をかける。


「あの、アリアさん、」

「どうした、フローラ?」

「メロウちゃんのこと、聞いてみたら何か分かりませんかね?」

「確かにそうだな……」


 アリアさんはハンレルの方々に向きなおすと、メロウちゃんとサイカくんについて訊ねる。


「みなさんは、メロウとサイカという兄妹を知りませんか?」

「メロウとサイカか。それなら、この城を出て真っ直ぐ行ったところにある住宅街の子供だな」

「確かそこの、奥から四番目の家ですよ。でも、どうしてこんなことを?」

「私は皇女ですが、今は冒険者でもあります。サイカと言う少年が失踪したので探してほしいと言う依頼を受けまして。何か情報をと」

「なるほどそういうことでしたか。そうだ、冒険者であれば、一度街の中央にある大きな店へ行ってみるといいですよ。質のいい武器や回復薬が置いてあるはずです!」


 なるほど……。武器は、僕はおさくさんに貰った聖剣があるけど、みんなはまだちゃんとしたのは弓しか持ってない。ここで新調しておくのもいいかもしれない。


「そうだ、宿はどうするか決めていますか? よければ手配しますよ」

「いえ、大丈夫ですよ。私たちでなんとかしますから」

「しかし、マルティネスの姫君に下手なところに泊まらせるのは」

「私たちなら、どこでも大丈夫ですよ。最悪野宿だって出来なくありません。姫ではありますが、冒険者なんです」

「そうですか……」


 ライアンさんはちょっとしゅんとした感じでうつむく。そんな息子を気にもせずに、国王陛下が思い出したように言う。


「そういえば、最近、あまりよくない噂がたっているんだ。調査には向かわせているんだが、まだ手がかりはない」

「よくない噂……というのは?」

「人身売買だ」


 ポロンくんが、隣で息を飲むのが分かった。人身売買……それは、ポロンくんをずっと苦しめていたキルナンスが得意としていた商売であり、ポロン君自身、商品になりかけた。


「失踪したというのなら、可能性は0とは言えないだろう。くれぐれも気をつけてくれ。なにか詳細が分かれば、すぐに連絡にいかせよう」


 いつの間にか食事は進んでいて、デザートが出てきていた。これを食べたら、最後だ。


「姫……いや、アリアちゃん、君のことはずっと前から知っている。マルティネスはハンレルにとって欠かせない存在ではあるがそれ以上に、君は我々にとって大切なんだ。
 何かあったら、すぐに連絡をくれ。出来るだけは力になろう」

「……はい、ありがとうございます」


 デザートのゼリーを口に運びながら、アリアさんは笑った。

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