チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

ハルの依頼

 僕らはハルさんにつれられて、ギルドの奥の、ギルドマスター室なる場所へ連れてこられた。いわゆる、社長室とかそういう感じらしい。
 入ってすぐに目にはいるのは大きなふかふかの椅子。そして、その前には大きく、使い勝手が良さそうな机。その手前に、ソファーが三つほどおいてあった。二人掛けのが二つと、一人用のが一つだ。


「ここには、船のことの報告に来たんだろうが、そう焦るような旅でもあるまい」


 ハルさんはそのソファーの一人掛けの方へ座ると、僕らを見て、同じように座るよう、促した。
 僕らがソファーに腰かけると、ハルさんは唐突に本題を切り出した。


「君たちに一つ、依頼をしたい。頼まれてくれるな?」

「え、あの……」

「マルティネスの姫だか知らないが、私は君たちのことを一冒険者として扱う。その能力を買った上での依頼だ。
 依頼主は私、報酬は金貨10枚」


 ハルさんはスッと席をたち、後ろの机の方へと行って、思い出したように振り向いた。


「……ポル・ポロンといったな?」

「お、おいら? うん、そうだけど……」

「お前が追い払ってくれた男……。あいつは元冒険者なんだが、振るまいがあのざまでな。先週契約を打ち切ったんだが、それでもあぁやってしつこくこちらに首を出す」


 ……相当ヤバイ人だったんだ、あの人。まぁ、普通な感じはしなかったけどね。


「あれでいてなかなかの手練れだ。誰も手を出せないから放っておいたんだが……お前がやってくれて助かった。礼を言う」

「あ、えっと……ど、どういたしまして!」


 ポロンくんはそういうと、ちょっと赤くなって下を向く。お礼を言われて、嬉しいんだろうけど、素直に笑えないから。……かわいいなぁ。


「で、だ。私が今回頼みたいのは、そのポル・ポロンが助けたメロウの兄、サイカのことだ」


 ハルさんは机の上からなにやら写真とか名前と色々かいてある……いわゆる、履歴書、というようなものを持ってきた。
 それを僕に差し出す。見ると、メロウと同じ明るい紫色の髪で、見るからに優しいお兄ちゃんって感じだ。


「彼はB級の冒険者で、腕もたつ。人柄もよく、パーティーの仲も良好だった。
 しかし、一昨日から全く連絡がつかない。依頼を受けて、それっきりだ。パーティーのメンバーが寝ずに探しているが、見つからない。
 死んではいない。もし仮に死亡したのなら、それはそれでギルドに連絡が入るはずだ」

「……つまり、私たちへの依頼の内容、というのは…………?」


 アリアさんが聞くと、ハルさんは大きく頷いた。


「彼を探し出してほしい。……なに、あのままボランティアでやらせてもよかったが、せっかくの復帰戦だろう?」


 そういうハルさんは、アリアさんをじっと見ていた。この人、まさかアリアさんが国で何を見てきたのか、知ってるのか?


「それならば、正式に依頼をして報酬をやろうと思ってな。
 まさか断るとは思っていないが……受けてくれるな?」


 僕はちらりと三人を見る。三人とも、微かに笑いを浮かべ、僕を見る。


「……お、お願いします」

「了解した。期限は特にないが、対象が死亡した場合の報酬はなしだ。
 また、お前たちはまだC級。スキルがあるとはいえ、B級のあいつよりは劣る」


 そして、眉一つ動かさず、しかしどこか悲しそうにハルさんは言う。


「……何らかの理由で戦闘を余儀なくされた場合、無理に戦う必要はない。こちらに戻ることを拒否した場合も、無理矢理連れてくる必要はない。私はな」


 僕らは何も言えずに、ただ、頷いた。ハルさんの言う『私は』という言葉は、『私はそれでいいが、お前たちやメロウはよくないんじゃないか?』というそれだと、僕は解釈した。


「……もういい。船の件は、ここを出るときにもう一度伝えに来てくれ。置きっぱなしでも、持っていくにしてもだ」

「分かりました。……じゃあ、僕らは、この辺で」


 僕らは席をたち、ギルドマスター室から出ていった。そして、待たせていたメロウちゃんに……


「……あれ? メロウは?」


 ポロンくんがそういいながらキョロキョロと辺りを見渡す。そこには、あの小さな少女の姿はなく、他の大人たちでガヤガヤと賑わっているだけだった。


「帰っちゃった……? のかな?」

「でも、10分も経っていませんよ?」


 少し違和感がある。……街の人に聞いたら、家の場所くらいは分かるだろう。まずはそこに……あ、でも。


「アリアさん、その……先に、ここの王族の人たちに挨拶しなきゃいけない……ですよね?」


 僕がそういうと、アリアさんは申し訳なさそうに笑う。


「そうだな……。メロウを探したいのは山々だが、私の立場も、港を貸してもらっている恩もある。先に行かないと、色々と面倒なことになってしまうだろう」

「……そっか。じゃあ、仕方ねーな!」


 ポロンくんはそう、振りきったように笑う。……大人になった。でも、まだ、子供だ。早く探したいのはポロンくんも同じはずなのに。


「……ごめんな、この大通りを東に進めば屋敷につく。連絡はとれているから、そのまま行っても大丈夫なはずだ」

「分かりました」


 そうして僕らは、ひとまず、屋敷へと向かうのだった。

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