チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

京都……?

「――タ、おいウタ!」

「…………ぅん? あれ? うわぁっ?!」


 目を開けると、目の前にアリアさんの顔があった。驚いて飛び退けそちらを見ると、アリアさんは手を腰に当て、僕を見下ろして仁王立ちしていた。


「全く……。中をみても、お前だけいないもんだからどこに行ったのかとおもったら、甲板で居眠りしてるとはな……」


 言われてぼんやりと空を見ると、もう星がキラキラと瞬いていた。さっき横になったのは昼御飯食べたあとだったから……うわ、ずいぶん寝てたなぁ。


「あ、すみません。天気もよくて、あったかくて、うとうとしちゃって……。ちょっと横になってたら寝ちゃったみたいです。あはは」

「あははって……お前なぁ? 昼間はいいとして、空みてみろ? 夜だぞ? 星出てるんだぞ? 気温も下がってる。風邪引くぞ」


 ……お母さんだ。


「……アリアさん、やっぱりちょっと過保護になってません?」

「普通に心配してるだけだ! って、そうじゃない!
 今は船、止めてあるんだ。夕飯できてるから、中入ってこいよ。遅かったら先に食べちゃうからな」

「あ、待ってくださいよ!」


 アリアさんを追いかけて船の中の部屋にはいる。僕はあまり船の造りとかに詳しくないのだが、元々が漁船なこともあって、ミニキッチンや簡易的なベッド、魚を捕まえておくのに使ってたのであろう生け簀などがある。

 色んな部屋があるが、僕らはその中で大きめの机と椅子がある部屋にはいる。アリアさんが扉を開けると、ふわっと、甘いような、クリーミーな感じの匂いが鼻孔をくすぐる。
 見ると、机の上には木製のうつわが四つ置いてあって、そこにシチューのようなものが入っていた。椅子に座ってまじまじと見ると、それは本当にシチューで、とっても美味しそうだ。


「ウタ兄、待ってたんだぞ!」

「あぁ、ごめん!」


 ちょっとむすっとした表情でこちらを見るポロンくんに軽く謝ると、フローラが嬉しそうにいう。


「これ! 私とポロンとで作ったんです! 上手く出来たと思うんですけど……」

「え!? 二人が作ったの? 一から?」

「なんでも、私たちが色々やっている間に、アイリーンたちに料理を教わっていたらしい。それで、二人だけで初めて私たちに振る舞うのが、このシチューってことだ!」

「シチューってこっちにもあったんですね」

「ん? あぁ、わりと転生者から伝わってる食べ物も多いしな。シチューはみんな大好き家庭の味だ!」

「お! おい! 早く食べてくれよ!」


 ポロンくんがそう急かす。……僕らの喜んだ顔が見たかったのかな? それは僕の理想?


(……それでもいっか。二人が作ってくれたんなら嬉しいし)


 僕はアリアさんと顔を見合わせ、手を合わせた。


「「いただきます!」」


 そして、スプーンに一口すくって飲む。


「…………」


 やば、お世辞なしに超美味い……。


「……アリアさん、」

「あぁ……これは、ヤバイな」

「え!?」

「美味しくなかった……ですか?」


 不安げなフローラと、今にも泣き出しそうなポロンくんをみて、僕らは全力で否定した。


「美味しすぎてヤバイ!」

「……本当かよ」

「本当本当! お世辞なしに本当に美味しくて!」


 二人の顔に笑顔が咲く。……これだから、もう。二人のことがかわいくて仕方ない。
 その日は、美味しいシチューに舌鼓を打ったのち、そのままみんなで寝てしまった。


 ……ちなみに、例のごとく部屋は一緒である。アリアさん……あんなことがあったあとなのに……。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 次の日の昼。


「着いたーーー!」


 ようやく僕らはハンレルに到着した。敷地内にはギルドカードでいれてもらえた。港に船を止めさせてもらい、一度、ギルドに寄って、あの船が僕たちのものだということを伝えにいく。
 そのあとハンレルの国王、女王に挨拶をして、宿を探して、それからディランさんについての情報収集だ! やることは多いけどがんばらなくちゃ!

 …………でもここ、


「京都……?」

「今日と? 何が今日なんだ?」

「いや、僕がいたところに『京都』って場所があるんですよ」


 ハンレルの町並みは、まさしく、中学三年の修学旅行で行った京都そのものだった。
 古風な建物。一昔前の『和』を感じさせるような……。探したら清水寺とか三十三間堂とかあるんじゃないかと思ってしまうほど京都の町並みにそっくりだった。

 しかし歩いてる人たちは現代的な洋服を着て、髪や目の色は他の国と同じくカラフル。なんとなーく帯刀している人が多い気がしなくもないけど、そこは他の国と同じなのだ。

 何て言えば伝わるだろうか……。見た目バリバリ海外の人が、流行とかトレンドを取り入れた洋服を着て、ペラペラの日本語を喋りながら、京都を歩いている、という感じ?

 あ、分かった! 京都でカリフォルニアロール頼んだら、すっごく美味しい鮪の握りが出てきたよー! みたいな! ……余計分かりにくいか。


 とにかく! 初めてくるところなのに、なんだか懐かしさを覚えてしまうような感覚。ちょっと不思議だ。


「とりあえず、アリア姉! ギルド、行くんだよな?」

「あぁ。先に寄っておかないと約束違反だからな。約束は守るに越したことはないさ」


 何はともあれ、僕らはそうして、荷物をもって、ハンレルの港町、タークのギルドへと向かった。
 僕らがギルドの扉を開けると、そこには


「や、やめてくださいぃー!」

「あぁ? なめてんのかくそガキが!」

「ひいっ!」


 小さくなって、今にも泣き出しそうな女の子と、それを怒鳴り付ける男の姿があった。

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