チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

海か山か

 こんにちは、柳原羽汰です。ただいま久しぶりに自分のヘタレと格闘中です。


「……ウタ? 大丈夫か?」

「目……魚……白……魚……」

「どうみてもだいじょばないよな!? 戻ってこいウタ兄!」

「う、ウタさん! ほら! ここにはお魚さんなんていませんよー!」


 何が起こってるかというと、まず第一に、僕らは明日、ハンレルに向かって出発する。
 ハンレルは、マルティネスの北に位置する国で、周りを高い山と海に囲まれ、独自の文化が発展した国だそう。なんでも、初代国王が転生者だったとか。

 まぁ、それはともかく、僕らは明日そこへ向かう。ということで、ちょっとしたお別れ会? というか、僕らがまた国を出るからって小さなパーティーのようなものをエマさんが企画してくれていた。
 参加者は僕ら四人と、エマさん、エドさん、彰人さんの三人、それからスラちゃんだ。料理は全部彰人さんが作ってくれててとってもとっても美味しい! ……のだが、


「うぅ……なんで、お魚の目って、こんなに、怖いんだろう……」

「ウタくん、ちょっと怖いのは確かに分かるけど、そこまで怖がることないんじゃない? ほら、確かに死んじゃってるけど、おいしく食べてあげれば……ね?」

「おいしいです……確かにお魚おいしいです……でも怖いです……焼き魚の目は怖いんです……」


 ……はい、料理の中に焼き魚があったんです。食べたらきっと美味しい。だって、見た目や匂いからして美味しそうだもの。でも怖いんだよ! 怖いよね!? あの、白い目! なんかこっち見てる気がしない!?
 そんな僕を見て、なにも気にせず焼き魚を器用に箸で食べながら、エドさんが軽くため息をつく。


「……アリア様を助けた人間と同一人物とは思えないな。本当にあれ、ウタだったのか?」

「僕ですぅ……信じてください……」

「はっはっは! ウタの二面性には驚くよなぁエド!」

「あなたは……裏とか無さそうですね。偏見ですけど、嘘とか吐けなさそうです」

「んだと、俺だってなぁ! やるときゃやるんだよ!」

「……ぷる(食べなよ)」

「ハイ、食べます……」


 ゆっくりと息をして、焼き魚と向き合う。白い目と目が合う。うわぁぁぁ……怖いぃぃぃぃ…………。


「……ウタ、」

「なんですかアリアさーん……」

「魚自体が嫌いな訳じゃないよな?」

「僕が嫌いなのは辛い食べ物です……魚は目だけが怖いです……」

「身だけ取ってやろうか?」

「ふぇっ?!」


 驚きすぎて変な声が出た。やばいやばい……え!?


「いや、それは申し訳ないです! アリアさんはマルティネスの姫なんですよ!? お姫様を魚の骨取りに使うなんてそんな滅相もないでござそうろう……」

「大丈夫か?」

「なら、俺がとってやるか!」

「あぎびどざん……! ありがどぉ……」

「おうおう、泣くな泣くな」


 そんな風に笑ったあと、少しおいて、ポロンくんがこう切り出した。


「んでよ、やっぱりドラくんでいくのか? ハンレルまでは」

「んー、そうだなぁ。山を越えるからなぁ。それもかなり高いやつを」

「どれくらいあるんですか?」

「確か……標高5429メートルだったと思う」

「富士山より全然高い!」

「富士山はみななろうだもんな!」

「みななろう?」

「3776だよ」

「で、それを越えるんですか……確かにドラくんいないと大変ですね」

「例によって山はどの国のものでもない。ドラくんで通っても大丈夫だ。
 ……そういえばポロン、お前、前はハンレルにいたんだろ? どうやってこっちまで来たんだ?」


 そう言われるとポロンくんは「どうだったっけなぁ」と顎に手を当てて考えたあと、「あっ」と声をあげた。


「そうだ! 船!」

「船?」

「うん、おいら、船でマルティネスの領土まで来たんだ! 今思い出した!」

「じゃああれか? 船で、西側をぐるーっと迂回して来た感じか」

「さすがに山越えるのは無理だったんだ。だから、キルナンス所有の船にこっそり乗って、こっちまで来たんだい!」


 そうなると、ハンレルまでいくには、少なくとも二つのパターン、ドラくんで山を越えるパターンと、船で迂回して行くパターンとがあるみたいだ。
 どっちの方がいいんだろう……と、僕が思っていると、フローラがポツリと呟く。


「海、いいなぁ……」

「ん? フローラ、海行きたいの?」

「え!? あ、その……旅行とか、そんなの今まで経験したことなかったので、みなさんと一緒に海をわたって、過ごせたらいいなぁって、思っただけで……」

「…………」

「あ! で、でも! 無理にこうとかはないので……」


 そっか、と思った。
 フローラはあぁいう家庭で育ってきていて、旅行とかの経験がないのは当たり前といえば当たり前なのかもしれない。コックスさんは優しいけど、店を開けるわけにもいかないから、出掛けることもそんなになかったのだろう。

 そう考えると、フローラにとってこの旅は、そもそもが『初めて』の連続なのだ。船で国境を越える。ただそれだけだったとしても、きっと、フローラにとっては特別なのだ。
 ちらりとアリアさんを見ると、ほぼ同時にこちらを見て、にこっとり微笑み、うなずいた。


「…………」

「決まりだな」


 アリアさんはそういうやいなや立ち上がって、エドさんに声をかけた。


「どれか出せる船がないか聞いてくる。お前も付き合ってくれるか?」

「もちろんです」

「え、あの……」


 戸惑うフローラの肩をとんとんと叩いて、僕は笑った。


「せっかく旅するなら、思い出に残るようにしようよ」

「…………いいんですか? わがまま聞いてもらって」

「いいんだよ、フローラも仲間だしね」


 嬉しそうに笑ったその表情は、まさに子供そのものだった。

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