チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
スキルと容姿
思い返せば、ミーレスもスキルの影響で容姿が変わったと言っていた。だとすれば、ディランさんの容姿が変わっていたとしても違和感はない。
しかし……それに至る、確証はないのだ。というのも、どういったスキルが、どういう風に役に立つのかが分からないのだ。どんなスキルは容姿を変えるのか。もしくは、ほとんどのスキルは容姿を歪めることなんてなくて、ミーレスの「執着」が特殊なのか。
それが分からないと、どうしようもなかった。本当は個性の塊'sとかに聞きたかったんだけど、神出鬼没すぎて、どうしても見つからなかった。
……だから僕らは、ひとつの決断を下した。アリアさんにとっては決意と言ってもいいかもしれない。
三日後の朝、僕らはとある場所へと向かっていた。
「……本当に、大丈夫なんですか? やっぱり、僕一人で行きましょうか?」
僕はそうやってアリアさんに声をかけたが、アリアさんは首を横に振る。
「いや……私は、直接聞きたいんだ。ずっと探している人の、ようやく掴んだ手がかりなんだ。手放したくはない」
「…………」
そこまで言われたんじゃ、僕はもう何も言えない。アリアさんよりも1歩前を歩き、ギルドまで来た。
そこでは、いつかのようにエマさんが受付をしていて、僕らを見て、優しく微笑んだ。
「いらっしゃい」
「……あいつに逢いに来た。お願いできるか?」
「……本当に、いいの?」
「あぁ」
エマさんは、少しためらったように見えた。そりゃそうだろう。僕だって、躊躇っている。なにせ、相手はあいつなのだから。
「…………こっちよ。ついてきて」
エマさんは受付の奥にある金庫から鍵を取り出すと、部屋の脇にあった扉の奥へと僕らを案内した。
「あの金庫の鍵、受付嬢は開けられるんですか?」
「いいえ。私とギルドマスターだけよ。そうでないと危ないもの」
そう言いながらエマさんは僕を見た。
「分かってるわよ。安心して?」
ギルドの暗い廊下を歩いていくと、大きくて頑丈そうな扉の前に来た。エマさんは鍵をその扉の鍵穴に差し込むと、ゆっくりとそれを回し、扉を開く。
「……ここからは、正直安全が保証しきれないわ。だから、気をつけて」
エマさんが言う。もちろんそんなこと、僕らは知っていた。ゆっくり頷くと、中に足を踏み入れた。
「…………」
じめっとした空気が頬を撫でる。その扉の先、鉄格子を挟んだ先に、そいつはいた。
僕を見て……いや、その後ろにいるアリアさんを見て、ミーレスは気味の悪い笑顔を見せた。
「あぁ、アリア……! 来てくれるなんて、夢にも思わなかったよ!」
「黙れ。聞きたいことがあってきただけだ」
アリアさんはそういうと、一定の距離を保ったまま、ミーレスに問いかける。
アリアさんが質問する理由は他でもない。僕だと答えてくれない可能性があるからだ。
「お前は、『執着』というスキルを持っていたな」
「あぁそうさ、その力で君を手にいれようと」
「そのスキルで、容姿が変わったというのは本当か?」
アリアさんはミーレスの言葉を無視する。全く流されない。
(……アリアさんは僕が変わったって言ってたけど、アリアさん自身も、十分変わったな)
どこか楽観したような気持ちでそう思いながら、僕は二人のやり取りを見ていた。
容姿のことを聞かれたミーレスは、ちょっと不機嫌そうに言う。
「君にそういうこと聞かれると傷つくなぁ。まぁ、そうだよ。『執着』を手に入れてから髪が青く、瞳が紫に変わったのさ」
「どういうスキルが、容姿に変化を及ぼすか、分かるか?」
すると意外にも、あっさりとミーレスは言ったのだ。
「『心に強く関係するスキル』に決まってるだろ?」
「……心に?」
「そうさ。例えば……ウタだっけ? 彼の持つ『勇気』ってスキルもその一つさ。ただし、単に心に結び付いてれば言い訳じゃないのさ」
ミーレスはどこか懐かしむように目を閉じる。
「そのスキルの効果と、想いが、同じ方向を向くことが大切なのさ」
「……どういう、ことだ?」
「そうだなぁ。
……アリア、私は君を愛しているんだ」
「だからどうした」
「君に好かれたい。君を私のものにしたい……。その想いが、私の中に『執着』のスキルを産み出した。
スキルを手に入れてからも、私は君のことを思い続けたよ? そりゃあもう病んでしまうほどにね……」
……相変わらず気持ち悪いことを平気で言うやつだ。そう感じながら、僕はアリアさんの前にたつようにした。
ミーレスはそんな僕の行動も気にせずに続ける。
「そうしたら、髪の色が変わった。
アリアを手に入れたいと思い続けて手に入れたスキルが、まだその気持ちを持ち続けたことで、その目的に近づけるように手を貸してくれたのさ!
君にわかるかなぁ。この喜びが! あれほど醜かった容姿をすてて、私は、もう一人の私として生まれ変われる! それがどれだけ……どれだけ!」
「黙れっ!」
ミーレスの止まらない言葉……。アリアさんが、それを制する。そして、ゆっくりと言う。
「つまり、心とスキルがリンクしたとき、容姿に変化があることもある、ということだな」
「そういうことになるかもねぇ」
「……わかった。いこう、ウタ」
「あ、は、はい!」
アリアさんとそこを立ち去ろうとしたまさにその瞬間のことだった。
「そういえば――昨日、彼が会いに来たなぁ」
「……彼?」
「ディランという男が」
僕らは再び、ミーレスに向き合わざるを得なかった。
しかし……それに至る、確証はないのだ。というのも、どういったスキルが、どういう風に役に立つのかが分からないのだ。どんなスキルは容姿を変えるのか。もしくは、ほとんどのスキルは容姿を歪めることなんてなくて、ミーレスの「執着」が特殊なのか。
それが分からないと、どうしようもなかった。本当は個性の塊'sとかに聞きたかったんだけど、神出鬼没すぎて、どうしても見つからなかった。
……だから僕らは、ひとつの決断を下した。アリアさんにとっては決意と言ってもいいかもしれない。
三日後の朝、僕らはとある場所へと向かっていた。
「……本当に、大丈夫なんですか? やっぱり、僕一人で行きましょうか?」
僕はそうやってアリアさんに声をかけたが、アリアさんは首を横に振る。
「いや……私は、直接聞きたいんだ。ずっと探している人の、ようやく掴んだ手がかりなんだ。手放したくはない」
「…………」
そこまで言われたんじゃ、僕はもう何も言えない。アリアさんよりも1歩前を歩き、ギルドまで来た。
そこでは、いつかのようにエマさんが受付をしていて、僕らを見て、優しく微笑んだ。
「いらっしゃい」
「……あいつに逢いに来た。お願いできるか?」
「……本当に、いいの?」
「あぁ」
エマさんは、少しためらったように見えた。そりゃそうだろう。僕だって、躊躇っている。なにせ、相手はあいつなのだから。
「…………こっちよ。ついてきて」
エマさんは受付の奥にある金庫から鍵を取り出すと、部屋の脇にあった扉の奥へと僕らを案内した。
「あの金庫の鍵、受付嬢は開けられるんですか?」
「いいえ。私とギルドマスターだけよ。そうでないと危ないもの」
そう言いながらエマさんは僕を見た。
「分かってるわよ。安心して?」
ギルドの暗い廊下を歩いていくと、大きくて頑丈そうな扉の前に来た。エマさんは鍵をその扉の鍵穴に差し込むと、ゆっくりとそれを回し、扉を開く。
「……ここからは、正直安全が保証しきれないわ。だから、気をつけて」
エマさんが言う。もちろんそんなこと、僕らは知っていた。ゆっくり頷くと、中に足を踏み入れた。
「…………」
じめっとした空気が頬を撫でる。その扉の先、鉄格子を挟んだ先に、そいつはいた。
僕を見て……いや、その後ろにいるアリアさんを見て、ミーレスは気味の悪い笑顔を見せた。
「あぁ、アリア……! 来てくれるなんて、夢にも思わなかったよ!」
「黙れ。聞きたいことがあってきただけだ」
アリアさんはそういうと、一定の距離を保ったまま、ミーレスに問いかける。
アリアさんが質問する理由は他でもない。僕だと答えてくれない可能性があるからだ。
「お前は、『執着』というスキルを持っていたな」
「あぁそうさ、その力で君を手にいれようと」
「そのスキルで、容姿が変わったというのは本当か?」
アリアさんはミーレスの言葉を無視する。全く流されない。
(……アリアさんは僕が変わったって言ってたけど、アリアさん自身も、十分変わったな)
どこか楽観したような気持ちでそう思いながら、僕は二人のやり取りを見ていた。
容姿のことを聞かれたミーレスは、ちょっと不機嫌そうに言う。
「君にそういうこと聞かれると傷つくなぁ。まぁ、そうだよ。『執着』を手に入れてから髪が青く、瞳が紫に変わったのさ」
「どういうスキルが、容姿に変化を及ぼすか、分かるか?」
すると意外にも、あっさりとミーレスは言ったのだ。
「『心に強く関係するスキル』に決まってるだろ?」
「……心に?」
「そうさ。例えば……ウタだっけ? 彼の持つ『勇気』ってスキルもその一つさ。ただし、単に心に結び付いてれば言い訳じゃないのさ」
ミーレスはどこか懐かしむように目を閉じる。
「そのスキルの効果と、想いが、同じ方向を向くことが大切なのさ」
「……どういう、ことだ?」
「そうだなぁ。
……アリア、私は君を愛しているんだ」
「だからどうした」
「君に好かれたい。君を私のものにしたい……。その想いが、私の中に『執着』のスキルを産み出した。
スキルを手に入れてからも、私は君のことを思い続けたよ? そりゃあもう病んでしまうほどにね……」
……相変わらず気持ち悪いことを平気で言うやつだ。そう感じながら、僕はアリアさんの前にたつようにした。
ミーレスはそんな僕の行動も気にせずに続ける。
「そうしたら、髪の色が変わった。
アリアを手に入れたいと思い続けて手に入れたスキルが、まだその気持ちを持ち続けたことで、その目的に近づけるように手を貸してくれたのさ!
君にわかるかなぁ。この喜びが! あれほど醜かった容姿をすてて、私は、もう一人の私として生まれ変われる! それがどれだけ……どれだけ!」
「黙れっ!」
ミーレスの止まらない言葉……。アリアさんが、それを制する。そして、ゆっくりと言う。
「つまり、心とスキルがリンクしたとき、容姿に変化があることもある、ということだな」
「そういうことになるかもねぇ」
「……わかった。いこう、ウタ」
「あ、は、はい!」
アリアさんとそこを立ち去ろうとしたまさにその瞬間のことだった。
「そういえば――昨日、彼が会いに来たなぁ」
「……彼?」
「ディランという男が」
僕らは再び、ミーレスに向き合わざるを得なかった。
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