チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
絶望
普段部屋で過ごしてるときと全く同じ服装……。胸元に小さな紺色のリボンがついただけの白いワンピースという、今この場では、あまりに軽装といえるだろう。
隠れなきゃいけない。ここに来ちゃいけない。……分かっていただろう。そう思いながらも、アリアさんのことだ。じっと見ているなんて出来なかったのだろう。
声も失い魔法も使えず、何も出来ない無力な時でも、じっとしているなんて、出来なかった。
しかし、その気持ちは時として毒になる。
ミーレスはアリアさんを見つけると手のひらを向ける。アリアさんはハッとして街の奥へと逃げていく。
「アリアさん!」
瞬間的に、僕の体は動いていた。ありとあらゆる影からはトゲが伸び、剣山のように僕とアリアさんの行く手を阻む。
「…………っ!」
アリアさんが立ち入ったそこは、行き止まりだ。どうすることも出来ず、壁に背を預け震える彼女に、黒いトゲが迫る。
「私の力で……赤く染まってしまえばいい!」
「っ……」
僕はその間をすり抜け、トゲよりもほんの少し速くアリアさんの元へとたどり着く。そして、その細い体を片手で抱え、地面に手を向けた。
「ウィング!」
ぶわっと小さな渦が起こり、風が僕らを舞いあげた。トゲは標的を外し、奥の壁に突き刺さる。
僕は風を操作し、とりあえず、家の屋根の上にそっと降りた。そして、軽く小突いてアリアさんを見た。
「もう……なんで来ちゃったんですか!」
「――!」
「だってじゃないですよもう……。とにかく、僕から離れないでくださいね」
アリアさんは、小さくうなずく。すると、向かいの家の屋根に、ミーレスが降り立った。
「あぁ、アリア……そんなに震えて。いったいどうしたって言うんだ? 私はただ、君を迎えに来ただけだって言うのに」
「身勝手なこと言わないでください! あなたのせいでアリアさんがどれだけ…………」
僕はそこで、言うのをやめた。ここは王都。当たり前だが、国民だって山ほどいる。アリアさんはその人たちに、弱味を見せたくはないはずだ。
「全く……。アリアも酷いじゃないか。私を見ても何も言ってくれないなんて」
「…………」
「……あれ? もしかして、喋れないとか? それは私のせいかな? いやぁ! だとしたら嬉しいなぁ! 私の言動が、アリアの体に異常をもたらしているなんて!」
ぎゅっと、服の袖が掴まれる。その手は、ひどく震えていた。
「……とにかく、ここから立ち去ってください」
「大人しく立ち去ると思うかな?」
ミーレスが両手を突き出すと、僕らを囲うように、空中に黒い魔方陣が展開される。僕はアリアさんを守るように手を伸ばし、剣を握りしめた。
「カプリチオ」
魔方陣から、黒いエネルギー玉のようなものが発射される。僕はぐっと剣を握り、大きく振った。
「シャインっ!」
まばゆく光る光にエネルギー玉は打ち消され、その間に、アリアさんを連れて逃げる。華奢な体を気遣いつつ、屋根から飛び降り、なるべく遠くへと走る。
「逃がさないよ」
地面からまたトゲが生える。そしてそのトゲは長く伸び、目の前の進路を塞いだ。
「――……!」
「大丈夫です、絶対……! ウィング!」
風魔法で再び空へと舞い上がる。そして、次はどこへ逃げようかと模索していると、
「――――っ!」
「え……」
空中で、突然、アリアさんに突き飛ばされた。驚いて、重力にしたがって落ちるなか、アリアさんのほうを向く。
……すべてがスローモーションのように映し出される。僕の背後から迫ってきた黒いトゲがアリアさんの細く、柔らかい、華奢な体を貫く。その体は軋み、真っ赤な血が飛び散り、顔の上に落ちてきた。
「……あ、りあ……さん…………?」
それだけでは終わらない。トゲは二本、三本とその体を貫いた。その度に、痛みから、苦しみから、絶望から……アリアさんは声にならない悲鳴をあげる。
普段の僕ならば、即座に気を失っていておかしくない光景だった。しかし、意識はいやにハッキリとしていて、体が地面に打ち付けられるのもよくわかった。
「あぁ……あぁ! 美しいよアリア!」
ぐったりとしたアリアさんの手を、ミーレスが捕らえる。アリアさんは抵抗をしない。いや、出来ないのだ。極限まで高められた恐怖心と、体に空いた大きな傷が原因で。
彼はアリアさんをその手に捕らえると、一度家の屋根に立ち、
「じゃあね」
そう言って結界の外へ駆け出した。僕は痛みなんて感じる暇もなくそれを追いかけた。
……速い!
ステータスを確認する。勇気が発動している。なのに、追い付けない……!
ならばと僕は結界の外へ出た瞬間、叫んだ。
「ドラゴン召喚っ!」
ドラくんは、その場の状況を一瞬にして察したようだった。
「追えばいいんだな!?」
「うん!」
僕はその背に乗ると、剣をしっかりと握り直した。そして、先にいくミーレスの進路を塞ぐべく、詠唱する。
「ソイル!」
ゴゴゴ……と、低い地響きが鳴り、大きな壁がその行く手を塞ぐ。ミーレスはそれを見ると一度立ち止まり、アリアさんを闇に捕らえたまま振り向き、手を前に突き出す。
「アイスランス」
凄まじい量の氷の槍。ドラくんはそれを炎の溶かそうとする。……が、
「なっ……?!」
その槍は溶けず、ドラくんの体に突き刺さる。
「ドラくん……!」
「大丈夫だ。この程度……なん、でも……ない…………」
ぐしゃりと、ドラくんの体が崩れ落ちる。僕はとっさにドラくんを回復させようとして、しかし、その間に逃げるミーレスを見て、迷っていた。
「……追え、主よ」
「でも!」
「死にはしないさ。……お主が死なない限りはな」
「…………」
僕はその言葉を信じて追いかけた。
それほどいかないところに立ち止まり、ミーレスが嘲笑うかのごとく僕を見ていた。
「驚いたかな? 氷の槍なんかでドラゴンを倒すってさ」
「アリアさんを、返してください」
「嫌だって言えば?」
「無理矢理にでも」
僕はぐっと手に力を入れ、ミーレスに標的を合わせる。
「シャインランスっ!」
……それは、命中したのだ。
命中したのだ。
しかし……彼は涼しい顔でそこに立っていた。
普段の僕の攻撃ならわかる。でも、今は勇気が発動している。かなりのダメージが出ておかしくないはず。
そのとき、僕の足が真っ黒い蔦で拘束される。身動きがとれない。はめられた!
「鑑定、してみなよ」
ミーレスがそういう。
「そして……絶望しな!」
名前 ミーレス
種族 人間
年齢 23
職業 村人
レベル 2000
HP 3000000
MP 1600000
スキル アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度40)・光魔法(熟練度20)・炎魔法(熟練度10)・氷魔法(熟練度15)・水魔法(熟練度10)・闇魔法(熟練度10)・回復魔法(熟練度10)・使役(超上級)
ユニークスキル 執着
称号 狂人・激しい執着心・ストーカー
……え。
「いいか、よく聞いてね。私のスキル『執着』はね……」
ミーレスが手をあげると、周りに無数の魔方陣が現れる。
「自分より勝るステータスを、そのままコピーできるのさ。
……カプリチオ」
まともに受け流すこともできず、僕は全ての攻撃をもろに受けた。
薄れゆく意識の奥で、ミーレスが呟く。
「これから……たくさん絶望させてあげるよ、アリア」
隠れなきゃいけない。ここに来ちゃいけない。……分かっていただろう。そう思いながらも、アリアさんのことだ。じっと見ているなんて出来なかったのだろう。
声も失い魔法も使えず、何も出来ない無力な時でも、じっとしているなんて、出来なかった。
しかし、その気持ちは時として毒になる。
ミーレスはアリアさんを見つけると手のひらを向ける。アリアさんはハッとして街の奥へと逃げていく。
「アリアさん!」
瞬間的に、僕の体は動いていた。ありとあらゆる影からはトゲが伸び、剣山のように僕とアリアさんの行く手を阻む。
「…………っ!」
アリアさんが立ち入ったそこは、行き止まりだ。どうすることも出来ず、壁に背を預け震える彼女に、黒いトゲが迫る。
「私の力で……赤く染まってしまえばいい!」
「っ……」
僕はその間をすり抜け、トゲよりもほんの少し速くアリアさんの元へとたどり着く。そして、その細い体を片手で抱え、地面に手を向けた。
「ウィング!」
ぶわっと小さな渦が起こり、風が僕らを舞いあげた。トゲは標的を外し、奥の壁に突き刺さる。
僕は風を操作し、とりあえず、家の屋根の上にそっと降りた。そして、軽く小突いてアリアさんを見た。
「もう……なんで来ちゃったんですか!」
「――!」
「だってじゃないですよもう……。とにかく、僕から離れないでくださいね」
アリアさんは、小さくうなずく。すると、向かいの家の屋根に、ミーレスが降り立った。
「あぁ、アリア……そんなに震えて。いったいどうしたって言うんだ? 私はただ、君を迎えに来ただけだって言うのに」
「身勝手なこと言わないでください! あなたのせいでアリアさんがどれだけ…………」
僕はそこで、言うのをやめた。ここは王都。当たり前だが、国民だって山ほどいる。アリアさんはその人たちに、弱味を見せたくはないはずだ。
「全く……。アリアも酷いじゃないか。私を見ても何も言ってくれないなんて」
「…………」
「……あれ? もしかして、喋れないとか? それは私のせいかな? いやぁ! だとしたら嬉しいなぁ! 私の言動が、アリアの体に異常をもたらしているなんて!」
ぎゅっと、服の袖が掴まれる。その手は、ひどく震えていた。
「……とにかく、ここから立ち去ってください」
「大人しく立ち去ると思うかな?」
ミーレスが両手を突き出すと、僕らを囲うように、空中に黒い魔方陣が展開される。僕はアリアさんを守るように手を伸ばし、剣を握りしめた。
「カプリチオ」
魔方陣から、黒いエネルギー玉のようなものが発射される。僕はぐっと剣を握り、大きく振った。
「シャインっ!」
まばゆく光る光にエネルギー玉は打ち消され、その間に、アリアさんを連れて逃げる。華奢な体を気遣いつつ、屋根から飛び降り、なるべく遠くへと走る。
「逃がさないよ」
地面からまたトゲが生える。そしてそのトゲは長く伸び、目の前の進路を塞いだ。
「――……!」
「大丈夫です、絶対……! ウィング!」
風魔法で再び空へと舞い上がる。そして、次はどこへ逃げようかと模索していると、
「――――っ!」
「え……」
空中で、突然、アリアさんに突き飛ばされた。驚いて、重力にしたがって落ちるなか、アリアさんのほうを向く。
……すべてがスローモーションのように映し出される。僕の背後から迫ってきた黒いトゲがアリアさんの細く、柔らかい、華奢な体を貫く。その体は軋み、真っ赤な血が飛び散り、顔の上に落ちてきた。
「……あ、りあ……さん…………?」
それだけでは終わらない。トゲは二本、三本とその体を貫いた。その度に、痛みから、苦しみから、絶望から……アリアさんは声にならない悲鳴をあげる。
普段の僕ならば、即座に気を失っていておかしくない光景だった。しかし、意識はいやにハッキリとしていて、体が地面に打ち付けられるのもよくわかった。
「あぁ……あぁ! 美しいよアリア!」
ぐったりとしたアリアさんの手を、ミーレスが捕らえる。アリアさんは抵抗をしない。いや、出来ないのだ。極限まで高められた恐怖心と、体に空いた大きな傷が原因で。
彼はアリアさんをその手に捕らえると、一度家の屋根に立ち、
「じゃあね」
そう言って結界の外へ駆け出した。僕は痛みなんて感じる暇もなくそれを追いかけた。
……速い!
ステータスを確認する。勇気が発動している。なのに、追い付けない……!
ならばと僕は結界の外へ出た瞬間、叫んだ。
「ドラゴン召喚っ!」
ドラくんは、その場の状況を一瞬にして察したようだった。
「追えばいいんだな!?」
「うん!」
僕はその背に乗ると、剣をしっかりと握り直した。そして、先にいくミーレスの進路を塞ぐべく、詠唱する。
「ソイル!」
ゴゴゴ……と、低い地響きが鳴り、大きな壁がその行く手を塞ぐ。ミーレスはそれを見ると一度立ち止まり、アリアさんを闇に捕らえたまま振り向き、手を前に突き出す。
「アイスランス」
凄まじい量の氷の槍。ドラくんはそれを炎の溶かそうとする。……が、
「なっ……?!」
その槍は溶けず、ドラくんの体に突き刺さる。
「ドラくん……!」
「大丈夫だ。この程度……なん、でも……ない…………」
ぐしゃりと、ドラくんの体が崩れ落ちる。僕はとっさにドラくんを回復させようとして、しかし、その間に逃げるミーレスを見て、迷っていた。
「……追え、主よ」
「でも!」
「死にはしないさ。……お主が死なない限りはな」
「…………」
僕はその言葉を信じて追いかけた。
それほどいかないところに立ち止まり、ミーレスが嘲笑うかのごとく僕を見ていた。
「驚いたかな? 氷の槍なんかでドラゴンを倒すってさ」
「アリアさんを、返してください」
「嫌だって言えば?」
「無理矢理にでも」
僕はぐっと手に力を入れ、ミーレスに標的を合わせる。
「シャインランスっ!」
……それは、命中したのだ。
命中したのだ。
しかし……彼は涼しい顔でそこに立っていた。
普段の僕の攻撃ならわかる。でも、今は勇気が発動している。かなりのダメージが出ておかしくないはず。
そのとき、僕の足が真っ黒い蔦で拘束される。身動きがとれない。はめられた!
「鑑定、してみなよ」
ミーレスがそういう。
「そして……絶望しな!」
名前 ミーレス
種族 人間
年齢 23
職業 村人
レベル 2000
HP 3000000
MP 1600000
スキル アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度40)・光魔法(熟練度20)・炎魔法(熟練度10)・氷魔法(熟練度15)・水魔法(熟練度10)・闇魔法(熟練度10)・回復魔法(熟練度10)・使役(超上級)
ユニークスキル 執着
称号 狂人・激しい執着心・ストーカー
……え。
「いいか、よく聞いてね。私のスキル『執着』はね……」
ミーレスが手をあげると、周りに無数の魔方陣が現れる。
「自分より勝るステータスを、そのままコピーできるのさ。
……カプリチオ」
まともに受け流すこともできず、僕は全ての攻撃をもろに受けた。
薄れゆく意識の奥で、ミーレスが呟く。
「これから……たくさん絶望させてあげるよ、アリア」
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