チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

ラト

 次の日の朝、何事もなかったかのようにサラさんは起きてきた。お城で食事をとろうと思うと、突然、僕らはサラさんに呼ばれた。
 何事かと思って聞いてみると、


「なんだかんだで、街の案内出来てないだろ? 朝食ついでに、私とラトで案内してやるよ」


 だそうだ。また何かあるんじゃないかってヒヤッとしたが、そんなことなかったです。よかったぁ。
 お城の大広間で二人を待っていると、明るい声が聞こえた。


「おーい、お前らー!」

「サラ姉……!」

「おー? なんだちび。寂しかったのか?」

「さ、寂しくなんかないやい!」

「ちょ、俺もいるんだけど!」

「お前は……お、ま、け、だ!」

「さ、サラ様……ひ、ひどい……」

「あ、あはは……」

「とにかく! ようやく一段落ついたんだ。いいところ、色々教えてやるよ!」


 そういうと、サラさんは意気揚々と歩きだした。それを後ろから追いかけるようにして僕らが歩いていく。ラトさんはサラさんとなにかを話しているが……。


「……ラトさんって、どういう立場の人なんですかね」


 不意に、僕のとなりにいたフローラがそう呟く。そういえば、最初っから僕らに絡んできてたけど、皇族というわけでもなさそうだし、だからといって兵士とか、そういう立ち位置でもなさそうだ。
 とすれば……なんだろう? 不思議すぎる立ち位置にいるなぁ。聞いてみようかな、と、そんなことを思っていたら不意にサラさんが立ち止まった。


「まずはここだな。ナーヤのパン屋だ! ミネドールは農業も盛んでな。パンも美味しいんだぞ!」


 そう言いながら、サラさんは木の枠のガラス張りの扉を開ける。カランカランと心地のいい音がしてふわっと甘いパンの匂いが広がる。
 中でおぼんを持った女性がこちらを振り返り、柔和な笑顔を浮かべた。


「あら、サラ様にラト君。それと……えー、ごめんなさいねぇ。そちらの方々は?」

「知らなくても無理ないさ。私たちはマルティネスから来てるんだ。
 私はアリア。こっちはウタとポロンと、フローラだ」

「あらあら可愛らしい。中で食べていかれますか?」

「あぁ」


 よく見ると、奥の方にテーブル席があり、僕らはその四人席を二つ繋げて座ることにした。


「よし、パンを取りに行くか。あそこに並んでるパンを、自分でとって会計して、それで、ここで食べるんだ。
 欲しければスープとかサラダとか、飲み物とかも頼めるぞ」


 そういうとサラさんはトレーをとってパンを取りにいった。それに続いて僕らも取りに行く。
 パンは食パンとか、フランスパンみたいなやつとか、ロールパンとか、他にもお肉が挟まったやつとか、野菜が挟まったやつとか、ちょっと甘そうなのとか……色々ある。

 僕はロールパンっぽいのと、サンドイッチっぽいの。それからなんかよく分からないもちもちしたやつを買った。あと、野菜のスープがあったから、それを買った。
 アリアさんはデニッシュみたいなのとスープとサラダ。ポロンくんはお肉が挟まったやつを二つ。フローラはロールパンをいくつかとスープ。
 サラさんとラトさんは頼むものが決まっているらしく、ナーヤさんがすぐに奥からパン三つとスープとサラダのセットを持ってきた。

 みんな揃ったところでいただきますだ!


「サラ姉とラトはこの店の常連なのか?」


 ポロンくんがパンを頬張りながらいう。同じようにパンを食べていたラトさんが答えようと声を出す。口の中はパンで一杯でモゴモゴ話す。


「んごんふとぉのたぱんぉっ?!」


 そのラトさんにサラさんがチョップする。な、なかなかの切れ味……。


「げほっ、げほっ……さ、サラ様?!」

「……はぁ、ちゃんと食べてから話せ」

「……で、でも! 話したいんだもん!」

「話したいんだもん、じゃない。女子か。
 えっと、なんだっけな……あー、うん、そうだ。私たちは完全な常連だな二日に一回、どんなに空けても一週間に一回はくるな」

「朝ごはんに最高なんですよー!」

「へぇー、そうなんですね」


 これはもしかして、いいタイミングなのでは? と、そう思った僕は二人のことについて聞いてみることにした。


「あのー」

「ん?」

「ラトさんとサラさんって、どういったご関係で……? 兄弟とかじゃなさそうだし、主従というようにも見えなくて」

「私は姉さんの弟子かと」

「それは飛躍しすぎ……でもないか」

「あれっ? バタバタしすぎて言ってなかったかな」


 サラさんは隣のラトさんを小突く。すると、えっへんと胸を張ってラトさんは答えた。


「実は俺、時期国王候補なんだ!」


 …………。
 んーーーーー?


「時期……え、ごめんなさい、なんですか?」

「国王!」

「ラトさんが?」

「そうそう」

「この国の?」

「そうそう」

「時期国王……」

「そうそう」


 僕らは一瞬沈黙した。そしてその後に、


「「「「ないないないない!」」」」

「えーーーっ?! ひ、酷くないっすか!?」

「いや酷いもなにも……こういっちゃあれだが、姉さん、こいつでいいのか?」

「なにその言い方!」


 少し笑ったサラさんは僕らをなだめ、それから、ゆっくりといった。


「まぁ……とりあえず、『候補』なんだけどな。決めかねてるんだよ」

「にしたって、ラト、だろ? おいらたちのことやドロウのことを勘違いして罰しようとしたりとか、ちょっとアホっぽかったりとか……」

「そもそも、サラさんの旦那さんになるってことですよね? どう見てサラさんより弱そうな……」

「ちょちょちょちょーい!」

「まあまあ、言ってくれるな本当のことを」

「本当のことなんだ……」


 少ししょんぼりしているラトさんの背中をポンポンと叩き、サラさんは笑った。


「時期国王候補を集めるといって、一番最初に来たのがこいつだった。他のやつらは国王になったらー、とか、この国をー、とか、そんなこと言ってるのに、こいつの第一声は『サラ様俺と付き合ってください!』だ」

「うっ……。そ、その事を今言わなくても……」


 ぷいっとへそを曲げるラトさん。構わずサラさんは続ける。


「それからもこいつの猛アタックは止まらない。結果、私らが折れて、城の中に入る権利を勝ち取ったんだ。すごいイレギュラーさ。
 ……確かに、頼りがいがあるとはお世辞にも言えないさ。でも、優しいやつだってことはわかってる」

「サラ様ぁ……!」

「ラトを指示している国民も多い。こいつはこいつで良いところあるし、私はいいと思う。ただ……このままじゃ無理だな」

「そんなぁぁぁぁ!!!」


 そんな二人を見ていて、ふと、アリアさんの方を見ると、優しい笑みを浮かべながら、どこか別のところを見ていた。……すぐにわかった。『あの人』のことを、思い出しているんだ。
 そのことに当然のように気がついたサラさんは、遠回しにこんなことを言う。


「……大丈夫、お前には、青が似合う」

「…………!」

「な?」


 優しく笑って、アリアさんはうなずいた。


 ――こんな平和な日々も、終わりを向かえようとしていた。

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