チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

君の名は

「よかったー、ちゃんと押さえられたみたいで」

「ねー? だから心配要らないっていったのに。ドロウは心配性なんだからさーこのこのー!」

「もう! ちょ、おさく! 落とすよ!」

「勘弁してくださーい!」


 突然頭上に現れじゃれ合うお二人。……あのー、僕らはそれを、どういう気持ちで見つめればよいのでしょうか。というか…………。


「……おさ……く?」


 それは……お名前、でしょうか? すると、しまった! というように侍さんが頭を抱える。


「やっちまったなぁ! ドロウー! 隠してたのに!」

「き、君の名前は!」

「名前はぁー!」


 君の前前前世から僕はーって、そうじゃなくて!


「おさくさん……ですか?」

「まぁ、うん……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「そうでしょ?」

「ドロウー!」


 よ、ようやく名前が分かった……にしても『おさく』って、そんな時代劇じゃないんだから。と、そのとき、ドラくんに押さえられていたベリズが必死にもがきはじめた。


「動くな! 殺されたいのか……?」

「こ、ここにいたら本当に殺されるもの! 今度こそ殺されるわ! だからさっさと逃げるの! だからどいてー!」

「いや退くわけないだろ。……一応聞こう。ウタ殿」

「退かないでいいよドラくん」

「心得た」

「ちょっとぉぉぉぉ!!!」


 すると、おさくさんとドロウさん、二人を乗せていたサンが笑い出す。


「あっははは! 容赦ねえな! ド、ラ、く、ん!」

「バカにするな!」

「でもまぁ……このあとのこいつの行く末を考えたら、ダークにやられた方が幸せかもしれないなぁ」

「ひっ!」


 ベリズががくがくと震える。……さっきまであんなに余裕だったのに、何が起こるんだろう。

 …………うん、考えるのはやめておこう。そうしよう。


「だーいじょうぶだーいじょうぶ! 今回はジュノンいないからいくらかましなはず。多分きっともしかして」

「不確かだなぁ」

「じ、ジュノンはいないの……?」


 蛇に睨まれた蛙のようにビクビクと怯えながらベリズが言う。それを見てキョトンとしたようにおさくさんが言う。


「あれ? ジュノン呼んだ方がいい? 呼んだげよっか?」

「い! いい! 本当にいらないからそんな気遣い!」

「そっかぁ。じゃあ普通にドロウと封印しましょっか」

「はいはい。どこでやる? 山の上?」

「せやねー。っし、ドラくーん、どいていいよー!」

「……よいのか?」

「多分大丈夫だと思う。……ベリズの身の安全は保証しかねるけど」

「あ、あわわわわわ……」


 ドラくんが退くと、ベリズは必死の形相で手のひらを塊の二人に向けた。


「だ、ダークネスランス!」


 飛んでいく無数の黒い槍。それを見た二人はサンから飛び降りた。そして槍が目の前まで近づくと呪文を詠唱する。


「「ガーディア!」」


 すると、二人が黒いバリアで覆われ、槍は全て弾き飛ばされてしまった。……今の、シエルトに似てるけど、明らかになにかが違う。
 そうだ! シエルトは確か、闇魔法には効かないんだった! でも今止められてたってことは、ガーディア……は、闇魔法に有効なわけで。


「……ガーディアはシエルトの闇魔法バージョンだと思ってくれて構わない」


 僕の心を読み取ったかのようにドラくんが言う。


「シエルトは闇魔法に対してはほとんど意味を成さない。が、ガーディアは逆に、闇魔法に対してだけは絶大な効果を発揮するんだ。練度が低くても大体の闇魔法は一発防げるな。発動させるには闇魔法熟練度6は必要だ」

「な、なるほど……分かりやすい説明ありがとう」


 そんなことを話している間におさくさんとドロウさんはベリズの腕をガッチリとつかんでにこにこと笑っていた。


「さーさー! レンコンしますよ!」

「連行ね。ガーディアについての完璧な説明、ありがとうございましたー!」

「いや……なぁおさく殿、ドロウ殿、お主らの職業は侍と召喚師……だろう?」

「お? うん」

「そうだけど……?」


 ドラくんの質問に、僕もはてなマークだった。


「お主らのジョブは、魔法がそんなに得意な方ではないだろう。いくら魔王討伐のためとはいえ、闇魔法の熟練度が6以上もあるのは少し不自然だと思ってな」


 すると二人は、少し困ったように笑った。


「あー、それは……ねぇ?」

「いやー……ねぇ?」

「なんだよその曖昧な返事!」


 なんとなーくはぐらかせたのちに、ゆっくりと語り出す。


「闇魔法を鍛えたいって言うか……ガーディア使えるようになりたかったんだよね」

「そうそう。他の魔法はともかく、ガーディア使えないとヤバかったからね」

「それはやっぱり、魔王との戦いの時とかですか?」

「そうだけどそうじゃないっていうか……」

「そうだけどそうじゃない……?」


 そのつぎに語られた言葉に、僕らは納得せざるを得なくなってしまった。


「魔王と戦います。当然みんな本気を出します」

「はい」

「そのときに、ジュノンが魔法を使う可能性があってねー」


 そりゃあるだろう。魔王戦だもの。使わない方が不自然だ。


「ジュノンの魔法って、高確率で闇属性なんですな」

「それで高確率で巻き添えを喰らうんだな」


 ……うん。うん?!


「え、つまり!? その闇魔法は敵と戦うためのものじゃなくて!?」

「味方の魔法から自分の身を守るためのもの」


 ……これが個性の塊'sか。そうかこれがそうなのか。敵よりも味方を警戒する。それが……それが塊流戦法。

 その形を、僕らも導入……しません。したくありません。

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