チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

光と

 ぼわんぼわんと、頭のなかで音が響く。まるで水の中で溺れてるみたいだ。

 …………かろうじてアリアの声だとわかる程度。なんとか目を開けると、アリアが必死になにかを叫んでいる。

 そんな泣きそうになって……いったいどうしたんだ? あー、そういえば、前は何かにつけて理由をつけて、私のところに来て、わんわん泣いてた時期もあったな。

 ふと、ウタと目が合う。

 安心したようにふっと笑ったその顔は、どこか、ディランに似ていた。
 ……そうか。アリア、どこかでこいつを、ディランに重ねていたのか。どうりでな……。そもそも男が苦手なアリアが、普通に接してるわけだ。ポロンはともかくウタはどうなのかと思っていたが……なるほどそういうことなのか。

 そんなことを考えていると、ウタがアリアになにかを言う。そしてその瞬間――ウタの纏う雰囲気が変わった。
 ただ優しいだけじゃない。……静かになにかを見つめるその瞳は、まさしくディランのそれとリンクしていた。

 ……お前は、一体…………。

 しかしそれ以上は見ることができず、激しい睡魔に襲われ、抗うすべもなく、再び気を失った。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「あら……いいわねぇ、その目。楽しませてくれそうじゃない」


 僕はそっと、ベリズを鑑定した。



名前 ベリズ

種族 魔人

年齢 54

職業 ガンナー

レベル 186

HP 42000

MP 20000

スキル アイテムボックス・暗視・剣術(上級)・体術(上級)・銃(超上級)・初級魔法(熟練度10)・闇魔法(熟練度10)・炎魔法(熟練度10)・雷魔法(熟練度7)

ユニークスキル 魔王の加護

称号 魔王軍四天王・噛ませ犬・五十路



 ……一つだけいっていいかな? 五十路!? それわざわざ書きますか?! なかなかのお年で!
 と、ともかく、魔王の加護を鑑定しよう。


魔王の加護……相手に与えるダメージを2倍にする。


 殺意高いですね。となると、攻撃は極力受けないようにして対処した方がいいってことか。
 僕はドラくんの方を見た。……怪我はそんなに深くないけど、無理はさせたくない。ここは僕一人でいこう。


「楽しめるのはいいんだけど、やられちゃうのはつまんないじゃない? だから、さっさとお陀仏してもらうわよ」


 僕は剣を取りだし、ぎゅっと握りしめた。


「シャイン」


 剣に光が宿るのを確認すると、僕はベリズに向かって走り出す。闇魔法でできた鎖鎌を、光魔法が宿った剣で弾き返す。


「……アイスランス!」


 僕が放つ槍を、意図も簡単によけるベリズ。やっぱり、今まで通りにはいかないな。……なら!


「へぇ……なかなかやるじゃない。でも、これならどうかしら? ……ダークネススモーク!」

「っ……ウタ!」


 目の前が黒に覆われる。暗視の技能を持っていても、魔法の霧の中じゃなにも見えない。どうしたらいいんだろう。


「ぷるっ! ぷるるるっ!」

「え? ……分かった。やってみるよ」


 僕はじっとして、動くのをやめた。そして目を閉じ、耳をそばだてる。ねっとりとまとわりつく闇。息をするのもしんどくてゆっくりと呼吸を繰り返す。……そのとき、


「…………見つけたっ!」

「っ?!」


 僕は気配がした方へ剣を振る。光が弾け、視界にベリズの姿が現れた。


「ど、どうして!」

「持つべきものは、信頼できる仲間だね」

「ぷるぷるっ!」


 仕組みは簡単。ベリズの目には僕しかない。無論、僕の髪の毛の影に隠れていたスラちゃんになんて気づくはずもない。
 なので、スラちゃんが一人で闇の中を動き回り、ベリズの動きをぷるぷるで教える。どうやらスラちゃんは、ベリズの魔法の対象にはなってなかったらしく、問題なく目が見えるとか。

 ともかく、ベリズの姿を見つけた僕は弓矢を構えた。


「っ……避けてみなさい!」


 ベリズが銃を撃つ。僕はその銃弾に合わせて弓矢を放った。弓矢と銃弾はぶつかり合い、威力が相殺される。


「ふふ、これで……?!」

「これで……なんですか? あなたの勝ち……だとでも思いましたか?」


 そんなにつめはあまくない。アリアさんに鍛えられ、サラさんの想いを背負った今の僕は、決して弱くない。
 僕はベリズの背後に立ち、剣を首もとに突きつけていた。そしてそのまま、ゆっくりと左手をベリズの前に出す。


「……銃を、渡してください」

「あ、あなた!」

「渡してください。でなきゃ、首を切りますよ」

「っ…………」


 しぶしぶ、といった感じでベリズは手を震わせながら銃を渡す。僕はそれをさっと受けとると、すぐにアイテムボックスの中にしまってしまった。


「……ドラくん、この人の動き、押さえてることできるかな?」

「任された。……役に立てなくて、すまなかったな」


 ドラくんは申し訳なさそうにいいながら、僕に代わってベリズの体制を崩し、押さえつけた。


「いたたたたっ! ちょっと、痛いってば!」

「痛いくらいが丁度いいだろう。サラ殿やアリア殿を苦しめた罰だ」

「……ウタ」


 アリアさんが、倒れたままのサラさんの体を抱えながら、こちらを見る。その顔には不安げな、表情が浮かんでいた。……無理をしているときの、アリアさんの顔だ。


「……大丈夫ですよ。今、治療しますから。ケアル」


 僕が詠唱すると、淡い光が放たれ、サラさんの傷が塞がっていく。


「……もう、大丈夫そうですね」

「……姉さんに庇わせてしまった……。ありがとう、ウタ」


 ……初級魔法なのにこの回復力。『勇気』の力はバカにならないなぁ、と思いながら、僕は改めてステータスを開く。前回は確認し忘れたからね。



名前 ウタ

種族 人間

年齢 17

職業 冒険者

レベル 2000

HP 3000000

MP 1600000

スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度40)・光魔法(熟練度20)・炎魔法(熟練度10)・氷魔法(熟練度15)・回復魔法(熟練度10)・使役(超上級)・ドラゴン召喚

ユニークスキル 女神の加護・勇気

称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・C級冒険者



 ……そろそろ本格的におかしくなってきたな。というか、そうだよ。


「ベリズのレベル、186だったんですけど」

「186?! なんですかそのレベル!」


 フローラは驚いたように言うが、アリアさんとポロンくんは冷静だった。


「魔人にはレベルの上限がないもんな」

「そうなの?」

「あぁ、だから、魔王はレベル500なんだな」

「うわぁ……」


 そのとき、空から聞き覚えのある声が降ってきた。


「あっれ、五十路の人だ! レベル186だって! ちゃんとレベルあげてたんだねー」

「うーん、やっぱさ、魔人と言えどレベリングしなきゃいけない時代っていうか?」

「誰が五十路……あっ……あああ、あなたたちは!」


 突然ベリズががくがくと震えたし、空を見上げる。そこにいたのは、真っ赤なドラゴンとその飼い主。そして、一人の侍だった。

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