チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

魔王軍

「ま、魔王軍四天王って……個性の塊'sが倒したんじゃないのか!?」


 アリアさんが驚いたような声をあげる。と、ベリズが表情を歪めて憎々しげに言う。


「個性の塊's……その名前、二度と聞きたくなかったわ。
 勇者が来るって言うからどんなやつらかと思って身構えていたら、どうだったと思う?」

「え、あの、急にふられても……」

「あいつら……私のことを倒すのに5秒しか使わなかったのよ!? 5秒よ!? 5! 分かる!? この屈辱が!」


 ……いや、あの。僕からしたら5秒『も』かかってる印象なんですが。


「でも……あなたたちは、私に暴れさせてくれそうね?」


 言うと同時にベリズは銃をとった。


「あぁ、そこのドラゴン君? ……当たって無事にいれるなんて思わないでね?」

「……毒か」


 毒……? 僕が戸惑っていると、アリアさんが弓を握り締めたのが分かった。


「……守ってもらってばかりのわけにもいかないだろう」

「……そうですね」

「おいらは窃盗を使う。あいつが分かっちまったら意味ないけど……。
 あと、短期間ゴリラのやつで、サラ姉以外はめちゃ速くなってるからな」

「じゃあ私は、転を発動させられるか試してみます」

「我もできるだけお主らを守ろう。……サラ殿はどうする?」


 サラさんはすこしだけ間をおいて、しっかりと答えた。


「……もしも何かあれば、必ず守る」

「…………」

「いっけぇーーー!」


 何発も放たれる銃弾。短期間ゴリラのおかげでかなり速く動けてる。しかし当たり前ながら銃弾は速い。避けるので精一杯だ。


「ダークネスチェイン!」


 二本の鎖鎌と銃弾が入り乱れるなか、僕は走った。避けるだけでは勝つことはできない。どうすればいい?
 ポロンくんが見えないところから狙い、フローラは神経を集中させつつ守りを固めている。アリアさんは弓矢を何度か放つが避けられてしまう。僕の魔法も同様だ。

 ダメージを与えていそうなのはドラくんとサラさん。ドラくんはその大きな体を、サラさんは小さな体を生かしてじわじわと攻撃を仕掛ける。
 その様子を冷静に見ていたベリズはニヤリと笑った。


「なるほどねぇ……一番の戦力はサラちゃんとドラゴン君ね。なら、そこを潰せばいい」


 ぐっと鎖を引き、その進路を変える。そして、とてつもない勢いで鎌がドラくんを襲った。


「っ、避けきれないか……!」


 刃先が漆黒の翼を裂く。空中にいたドラくんは僅かに体制を崩す。


「ドラくん! ……大丈夫?」

「この程度なら問題ない。動けるさ」

「あとはこっち……ダークネスランス!」

「…………!」


 サラさんに向くかと思われたその槍は、全く違う方向へと向かった。


「アリアっ!!!」


 サラさんの声は泣いているようにさえ感じた。必死なその叫びは、アリアさんに届くのにはあまりに遅すぎた。


「え――」


 その声に振り向いたその時、すでに黒い槍は、アリアさんの目の前にまで迫ってきていた。


「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そしてその間に、サラさんが滑り込む。魔法でできた黒い槍はサラさんを貫くと消え、アリアさんまでは届かなかった。
 もうすでに、サラさんの意識はない。……アリアさんはサラさんの体を抱え、必死になって呼び掛けた。フローラも、ポロンくんも姿を表し、サラさんに駆け寄った。


「姉さん……サラ姉さん! なぁ、起きろよ! 頼むから起きてくれよっ、姉さん!」

「その子も物好きよねぇー?」


 ベリズが高く笑いながら言う。


「二回もボロボロにやられて、それでもまた来てボロボロになって。わざわざ生かして返してあげたって言うのに……本当、バカねぇ」

「……なんだと」


 アリアさんが怒りに声を震わせながら叫んだ。……僕は、必死に感情を押さえながら、それを見ていた。


「お前は……民のために必死に頑張る姉さんをバカにしているのか!? 姉さんは、お前のせいで死にそうになった人を助けて、自分一人で原因を絶とうとして……下手に迷惑かけちゃいけないからって、たった一人で!」

「だから、それがどうしたっていうのよ? あなたたちって、本当にバカみたいね」

「…………」


 ふつふつと沸き上がる怒りを押さえる。ちらりとサラさんを見て、ホッとして、やっぱり耐えられなくて。


「あんなの、ただの遊びに決まってるじゃない! 封印されてはや四年……。なーんにもできなくてイライラしてたのよぉ。
 それが、せっかく外に出たんだもの。たっぷり遊ばないと損じゃない?」

「だからっ……だからって、ミネドールの人たちを傷つけたのか!? 自分はなんの不利益も被らないで、ただただ人を苦しめて!
 ……お前には、血も涙もないのかっ!」

「ざーんねん、ありますよー。でも、それらはとても冷たい……。そのことをこんな風に怒りに任せながらぶちまけられるって、魔人としてはとっても名誉なことだけど?」

「っ……お前は!」

「もういいですよ! ……アリアさん」


 僕は耐えきれなくなってアリアさんを止めた。少し動揺したように、しかしはっきりと意思を持った目でアリアさんは僕を見た。


「でもっ、こいつら、姉さんのことを!」

「だから……もういいですよ。もうアリアさんがなにか言ったり、やったりする必要はありません」


 アリアさんにできるだけ優しく笑いかけ、僕は視線をベリズにやった。


「……あとは僕に、任せてくれませんか?」

「…………え?」

「僕だって……もう、こいつの言うことを聞いているだけなんて、そんなの限界なんですよっ!」

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