チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

また

 あわてふためく街の人の前にサラさんは駆け込んでいき、呼び掛ける。


「おいっ! 逃げ遅れたのは誰だっ!」

「さ、サラ様……!」

「早く教えろ。誰が逃げ遅れたっ!」

「は、ハリルとマランが……」

「分かった」


 そして、両手を体の前に。複雑に指を絡ませてじっと集中しているように見える。


「……守護の力よ、我が力と共に、汝を守りたまえ」


 すると、落ちてきた何かの下がカッと光輝いて、やがて収まる。そんなサラさんを、僕らは後ろから追いかけていった。
 よく見ると、落ちてきたのは大きな鳥だった。こっちの世界に来てからよく見た鳥だ。結界の外から落ちてきたから、大きさは実際と同じ。たかが鳥でも、小人の街では大きな被害になる。


「サラさんっ! ……一体、なにが」

「話はあとだ。『守護』の力はそう長く持たない。ウタ、アリア、手伝え。下に人がいる。
 この鳥には申し訳ないが……体を切って、その間から助けるしかないな。動かすには、私じゃ力が足りない。アイツくらい力があれば――」


 と、そのとき、どこかで聞いたことのある声がした。


「サラ様ぁーーー!!! このラトが応援にきましたよぉーーー!!!」

「あ、あなたは……えっと、私たちを間違えて捕まえようとした人ですね!」


 フローラがそういう。……そう、この人は僕らを暗殺者か何かと勘違いして捕まえようとしたラトさんだ。

 しかしまぁ、今はそんなことを気にしている暇はない。そういえばラトさんは、僕ら四人を軽々と持ち上げるほど力持ちだったのだ。サラさんもそれを知っていたのか、こう呼び掛ける。


「ラト! いいところに来た。この鳥を持ち上げてくれないか? 下に人がいる。お前が持ち上げたら、私たちで助けるから」

「了解っす! よーし……うんしょっと」


 ラトさんは意図も簡単にひょいっと鳥を持ち上げる。その下には、一人の青年と、妹らしき女の子が倒れていた。
 二人とも怪我を負ってはいるが、光の膜のようなものに覆われていて、ちゃんと息もしている。


「よし、引っ張り出すぞ! アリアは私を手伝ってくれ! ウタはマランの方を頼む!」


 そういうと、サラさんは男性の方へと駆けていく。あっちの青年の方が、ハリルという人のようだ。僕は女の子の方へと駆けていき、その小さな体を抱きかかえ、鳥の下から出た。


「……んぅ…………」

「あっ、大丈夫? 安心してね、もう平気だよ」


 腕の中の女の子が目を覚まし、僕を見てくる。……あまりにも弱々しい目だ。心配になって鑑定すると、HPが100ちょっとしか残っていない。
 『守護』とか、言ってたな……。サラさんが守ったのか。もしも、サラさんがなにもしていなかったら、もしかして……。

 僕はアイテムボックスからHPの回復薬を取り出した。


「ほら、これ、一口飲んでね」


 栓をはずして渡すと、女の子はそれを手に取り、こくっと一口飲む。とたんに、その子の顔に赤みがさす。こわばったままだった頬はほころび、柔らかく笑った。


「……元気出た?」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」


 ちらりとアリアさんとサラさんの方を見る。……あちらはあちらで、回復薬を渡しているみたいだった。無事でよかった。本当にそう思った。


「サラ様ぁ……これー、まだ持ってないとダメなんですかぁ?」

「ん……? あぁ、そうだな……そのまま移動してもパニックになるし……。とりあえず、森の中に連れていってくれるか?」

「了解でーす」


 ラトさんがさっさと歩いていくと、サラさんはハリルさんとマランちゃんを見て、ほっと胸を撫で下ろす。


「……よかった、とりあえず、命が助かって。本当によかった」

「すみません……ご迷惑をおかけしました」

「ごめんなさい……」

「いいんだよ! 国民の命を守るのも、姫の役割だからな!」


 ハリルさんとマランちゃんが家に帰るのを見届けると、サラさんはこちらに振り向く。


「悪いな。ちょっとやることが出来ちまった。適当に街歩いて、城に戻っててくれ!」

「サラ姉さんっ!」


 アリアさんが呼び掛けるも、すぐにサラさんの姿は小さくなり、見えなくなってしまった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「……なんだったんだろうな、さっきの」


 ポロンくんが呟く。僕らは今、街中で見つけた喫茶店でお茶を飲みつつ話している。少し落ち着いて話したかったが、城に戻るのはちょっと……となったので、喫茶店だ。


「なんだったって……鳥、ですよね?」

「鳥、だったよ。だったんだけど……」

「ん? ウタ、お前何か気づいてるのか?」


 アリアさんがそう、僕の顔を覗き込む。……そう、少し違和感があったのだ。大きく分けて、二つの点で。


「えっとですね……撃たれてたみたいなんです、あの鳥」

「撃たれてた? つまり……誰かが撃ったってことですか?」

「そうなるな。だって、勝手に撃たれるわけないもんな」


 ポロンくんとフローラが納得したようにうなずくなか、僕はもう一つのことを口に出す。


「で……もう一つ、あるんですけど」

「もう一つ?」


 それは、あのときのあの彼女の言葉。


「『また』……って、言ってたんです」


 その場の雰囲気が変わったような気がした。

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