チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
消せない親心
僕らは宿屋セアムの入り口から、中をそおっと覗き込んでいた。いや! 別になにかやましいことがある訳じゃないけど!
……フローラが僕らと一緒に来るのなら、コックスさんには伝えておかないといけない。でも、正直伝えづらくて、こうして覗き込んでいるのだった。
「ど、どうしましょう。私、その、ちゃんと言えるかな……」
「大丈夫だって! 悪いことしたわけじゃないんだから、こう、しっかり伝えれば」
「何してるんですか?」
「わぁぁぁぁぁっ!?」
素晴らしくも悪意のあるタイミングで、コックスさんが声をかけてくる。僕らはおずおずと中に入り、フローラを見る。
「……あ、あの…………」
「どうした? フローラ」
「えっと、コックスさん、私……」
そして、意を決したように告げる。
「私、アリアさんたちと一緒に行きたいです」
「…………」
コックスさんは、どこか分かっていたように微笑み、僅かに顔を伏せた。
「そうか……。そう言うんじゃないかと思ってたよ。前の家には帰りたくなさそうだったからね」
「え……き、気づいてたんですか?」
「なんとなく、かな」
そして、カウンターから立ち、僕らの前にやってくると、フローラと顔を合わせる。
「フローラの好きにすればいいよ。自由に過ごしなさい」
「ほ、本当?!」
優しくうなずいたコックスさんは、僕らを見て立ち上がり、軽く頭を下げた。
「フローラを、よろしくお願いします」
「あぁ、任せておけ」
「……なんかさぁ、コックスの方が親っぽいよな」
ポロンくんがそういう。確かに……あの人たちよりも何倍もコックスさんのほうが優しいお父さんっぽい。
「えっ、あ、そうですか? ならいいんですけどね」
少しはにかみながらコックスさんが言う。そして、それをごまかすように話を変える。
「そういえば、このあとはどこに行かれるつもりなんですか?」
「このあとか……そうだな、ミネドールの方に行こうかと思ってる」
「あぁ、ミネドールですか。サワナルからなら……山を越えますからね、馬車で三日くらいでしょうか?」
「……ミネドール?」
「ミネドール国、マルティネス帝国の隣にある国だ。かなり良くしてもらっててな、貿易の点でも、生活を守る上で切れない縁がある」
「ってことは……国を出るんですか」
「そうなるな」
僕にとっては、初めての外国になる。今から楽しみだ!
「……でさ、フローラ」
「はい?」
不意にポロンくんがフローラに声をかける。
「ずーっと思ってたんだけど、おいらまで『さん』づけはおかしくないか? ほら! おいらたち仲間になるわけだしー……なんか、いい呼び方とかないかなって!」
「…………ウタ兄とアリア姉……ぷっ」
「な、なんだよアリア姉! なんか文句あるのか!」
「いや別に……思い出しただけだよ、かわいかったなーって」
「~~~~~っ!」
「えっと……ウタ兄とアリア姉は、恥ずかしいので却下で」
「フローラまでなんだよ!」
クスクスと笑ったフローラは、少しだけ考え込み、そして、僕らを順番に見た。
「えっと……ウタさんはウタさん、アリアさんはアリアさんでいいですか?」
「別に構わないよ。な?」
「うん。僕らは全然!」
「で……ポロン、くん?」
「敬称抜けないのかい!」
「じゃあ……ポロン?」
「お、おう……」
少し恥ずかしそうに顔を背けるポロンくんを面白く思ったのか、フローラは少しからかうようにすっとポロンくんの目の前に入る。
「ポーロン!」
「うわっ!?」
バッと跳び跳ねるように後ずさったポロンくんは僕にどんっとぶつかった。
「ご、ごめんウタ兄!」
そう言って謝ったポロンくんの顔は、どことなく赤かった。
「…………? 大丈夫、ポロンくん、顔赤いけど」
「だっ! 大丈夫だい! おおお、おいら赤くなんてなってないやい!」
「……照れたのか?」
「照れてなんかないやい!」
「ぷるぷる……(諦めなよ、バレバレだよ)」
「おっ……おいら! 荷物まとめてくるからっ!」
「あーっ! ちょ、ちょっと待って!」
ポロンくんが階段を駆け上ろうとした瞬間、僕らの後ろから声がした。振り向くと、軽く息を切らしたテラーさんが立っていた。
「えっと……テラーさん、ちょっと怖いんですけど」
「みんなの言う侍がさ、『あそこはカレーぷすっとだろ』って言ってたよ!」
「……は?」
「あと、そこのみなさま! せっかく四人も集まったんだから、ちゃんとパーティー登録しなさい!」
あー、それは確かに。そういえばポロンくんの冒険者登録はしたけど、パーティー登録はなんか出来なかったんだよなぁ。……僕のレベル不足で。レベル16以上ないとダメだったらしく。
あっ、そうだ! フローラの冒険者登録もあるんだった!
「……せっかくだし、行きますか!」
ちなみに、カレーぷすっとですが……おそらくこれのことかと。
collapse 崩壊する
《語呂合わせ》カレーぷすっと崩壊する
……確かに、スポイトよりこっちの方がいいかもしれない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「はい、それでは確認いたしますね。マルティネス・アリア様、ヤナギハラ・ウタ様、ポル・ポロン様、セリエ・フローラ様。この四名のパーティーでよろしいですね」
「あぁ、よろしく頼む」
「では、データに書き込みますので、少々お待ちを」
僕らはギルド内の椅子に腰掛け、登録が終わるのを待っていた。ふと、僕は頭によぎったことがあって、アリアさんに話しかける。
「……アリアさん、」
「なんだ?」
「ギルドに来ると、エマさんのこと、思い出しますね」
「あー……そうだな」
「彰人さんとか、どうしてるんでしょう」
「あいつのことだ、また玉子サンドぼったくり価格で売ってるんじゃないか?」
「あははっ、でも、侍さんのに比べれば相応の値段ですよね」
「だな」
ふっと、アリアさんはどこか寂しそうな顔を見せる。
「……父上は、どうしているかな」
「…………元気でいますよ、きっと」
次に向かうは、ミネドール国。
……フローラが僕らと一緒に来るのなら、コックスさんには伝えておかないといけない。でも、正直伝えづらくて、こうして覗き込んでいるのだった。
「ど、どうしましょう。私、その、ちゃんと言えるかな……」
「大丈夫だって! 悪いことしたわけじゃないんだから、こう、しっかり伝えれば」
「何してるんですか?」
「わぁぁぁぁぁっ!?」
素晴らしくも悪意のあるタイミングで、コックスさんが声をかけてくる。僕らはおずおずと中に入り、フローラを見る。
「……あ、あの…………」
「どうした? フローラ」
「えっと、コックスさん、私……」
そして、意を決したように告げる。
「私、アリアさんたちと一緒に行きたいです」
「…………」
コックスさんは、どこか分かっていたように微笑み、僅かに顔を伏せた。
「そうか……。そう言うんじゃないかと思ってたよ。前の家には帰りたくなさそうだったからね」
「え……き、気づいてたんですか?」
「なんとなく、かな」
そして、カウンターから立ち、僕らの前にやってくると、フローラと顔を合わせる。
「フローラの好きにすればいいよ。自由に過ごしなさい」
「ほ、本当?!」
優しくうなずいたコックスさんは、僕らを見て立ち上がり、軽く頭を下げた。
「フローラを、よろしくお願いします」
「あぁ、任せておけ」
「……なんかさぁ、コックスの方が親っぽいよな」
ポロンくんがそういう。確かに……あの人たちよりも何倍もコックスさんのほうが優しいお父さんっぽい。
「えっ、あ、そうですか? ならいいんですけどね」
少しはにかみながらコックスさんが言う。そして、それをごまかすように話を変える。
「そういえば、このあとはどこに行かれるつもりなんですか?」
「このあとか……そうだな、ミネドールの方に行こうかと思ってる」
「あぁ、ミネドールですか。サワナルからなら……山を越えますからね、馬車で三日くらいでしょうか?」
「……ミネドール?」
「ミネドール国、マルティネス帝国の隣にある国だ。かなり良くしてもらっててな、貿易の点でも、生活を守る上で切れない縁がある」
「ってことは……国を出るんですか」
「そうなるな」
僕にとっては、初めての外国になる。今から楽しみだ!
「……でさ、フローラ」
「はい?」
不意にポロンくんがフローラに声をかける。
「ずーっと思ってたんだけど、おいらまで『さん』づけはおかしくないか? ほら! おいらたち仲間になるわけだしー……なんか、いい呼び方とかないかなって!」
「…………ウタ兄とアリア姉……ぷっ」
「な、なんだよアリア姉! なんか文句あるのか!」
「いや別に……思い出しただけだよ、かわいかったなーって」
「~~~~~っ!」
「えっと……ウタ兄とアリア姉は、恥ずかしいので却下で」
「フローラまでなんだよ!」
クスクスと笑ったフローラは、少しだけ考え込み、そして、僕らを順番に見た。
「えっと……ウタさんはウタさん、アリアさんはアリアさんでいいですか?」
「別に構わないよ。な?」
「うん。僕らは全然!」
「で……ポロン、くん?」
「敬称抜けないのかい!」
「じゃあ……ポロン?」
「お、おう……」
少し恥ずかしそうに顔を背けるポロンくんを面白く思ったのか、フローラは少しからかうようにすっとポロンくんの目の前に入る。
「ポーロン!」
「うわっ!?」
バッと跳び跳ねるように後ずさったポロンくんは僕にどんっとぶつかった。
「ご、ごめんウタ兄!」
そう言って謝ったポロンくんの顔は、どことなく赤かった。
「…………? 大丈夫、ポロンくん、顔赤いけど」
「だっ! 大丈夫だい! おおお、おいら赤くなんてなってないやい!」
「……照れたのか?」
「照れてなんかないやい!」
「ぷるぷる……(諦めなよ、バレバレだよ)」
「おっ……おいら! 荷物まとめてくるからっ!」
「あーっ! ちょ、ちょっと待って!」
ポロンくんが階段を駆け上ろうとした瞬間、僕らの後ろから声がした。振り向くと、軽く息を切らしたテラーさんが立っていた。
「えっと……テラーさん、ちょっと怖いんですけど」
「みんなの言う侍がさ、『あそこはカレーぷすっとだろ』って言ってたよ!」
「……は?」
「あと、そこのみなさま! せっかく四人も集まったんだから、ちゃんとパーティー登録しなさい!」
あー、それは確かに。そういえばポロンくんの冒険者登録はしたけど、パーティー登録はなんか出来なかったんだよなぁ。……僕のレベル不足で。レベル16以上ないとダメだったらしく。
あっ、そうだ! フローラの冒険者登録もあるんだった!
「……せっかくだし、行きますか!」
ちなみに、カレーぷすっとですが……おそらくこれのことかと。
collapse 崩壊する
《語呂合わせ》カレーぷすっと崩壊する
……確かに、スポイトよりこっちの方がいいかもしれない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「はい、それでは確認いたしますね。マルティネス・アリア様、ヤナギハラ・ウタ様、ポル・ポロン様、セリエ・フローラ様。この四名のパーティーでよろしいですね」
「あぁ、よろしく頼む」
「では、データに書き込みますので、少々お待ちを」
僕らはギルド内の椅子に腰掛け、登録が終わるのを待っていた。ふと、僕は頭によぎったことがあって、アリアさんに話しかける。
「……アリアさん、」
「なんだ?」
「ギルドに来ると、エマさんのこと、思い出しますね」
「あー……そうだな」
「彰人さんとか、どうしてるんでしょう」
「あいつのことだ、また玉子サンドぼったくり価格で売ってるんじゃないか?」
「あははっ、でも、侍さんのに比べれば相応の値段ですよね」
「だな」
ふっと、アリアさんはどこか寂しそうな顔を見せる。
「……父上は、どうしているかな」
「…………元気でいますよ、きっと」
次に向かうは、ミネドール国。
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