チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
そんなわけないだろ
「フラッシュランス!」
フローラがそう詠唱する。が、現れた光は槍にはならず、その場で弾けてしまった。
「うーん……やっぱり、テラーさんみたいにはいきませんね」
「いやいや、いきなりあれできたら僕ちょっと心おれるんだけど」
「相変わらず豆腐メンタルだなぁ、ウタ兄。おいらは全然いいもーん! あとから出来るようになればいいんだろ?」
「確かにそうだけどさぁ……」
「まぁまぁ、頑張りましょうよ!」
フローラはそうにこにこ笑って言う。……会ったときより、そうとう明るくなったなぁ。
アリアさんとテラーさんは、少し離れたところで雷魔法を使っている。スピードが命の雷魔法は、コントロールが光魔法よりも難しく、威力が上がるごとに、危険も高まる。今練習できるなら、したほうがいいだろう。
「よし! じゃあ僕もやってみようかな……フラッシュランス!」
僕の手から放たれた光は、ほんの少しの間だけ、槍状に変化した。しかし、飛ばすことはできずに、そのまま消えてしまう。
「すごいですウタさん!」
「いやぁ……上手くいかないなぁ」
と、そんな風に話していると、僕らの後ろから、知らない男性の声が聞こえた。
「…………フローラか?」
「え、あ……」
その声の主を見た瞬間、フローラの顔が凍りついたように見えた。僕も振り返り、その人を見る。
ごく普通の男性だ。隣には女性もいる。……夫婦なのだろうか? フローラの名前を知ってるってことは……。
あ、そういえばフローラの両親にまだ会ってなかった。この二人がフローラの両親なんだとしたら、探しに来たのかもしれない。
……それにしても、フローラのこの反応はなんなのだろう。会いたくなかった人に会ってしまったというような、違和感のある反応だ。
「こんなところで何をしているんだ。その人たちは?」
「えっと……その……」
「……なんでなにも言わないの? 心配ばかりかけて。本当にあなたは……」
男性は大きなため息をつくと、ずんずんと歩いてきて僕の横を通りすぎ、フローラの片腕を乱暴に掴む。
「やっ……」
「帰るぞ。こんなところで油を売っている暇はないんだ」
「いや……やだっ! やめてっ! 離してぇっ!」
激しく抵抗するフローラを見て、僕は思わず男性の手を殴り、フローラから引き離した。男性から開放されたフローラは、僕の背中にしがみつき、ブルブルと震えていた。
「……なんだ、お前は」
「ご、ごめんなさい! 思わず……。でも、こんなに嫌がってますし」
「はぁ……。そもそも、どうしてお前は嫌がる? 俺はお前の父親だ! 違うか?!」
「うっ……あぅ…………」
怯えたままのフローラは、僕から前に出ようとしない。……これは、何かあるんじゃないか。そう思った僕は、目の前の二人に向き合った。
「……えっと……失礼ですけど、お二人はフローラのご両親…………です、よね?」
「そうだけど? せっかく壁が消えたって言うのに、その子、こっちに来ないんだもの。わざわざ探しに来てあげたって言うのに……」
「…………本当に?」
「は?」
「す、すみません! で、でも……その、あまりにもフローラが嫌がってるので」
「だから! それはそいつのわがままだ! 俺らが親だ! 俺らにはそいつを連れて帰る義務も権利もある! 違うか!?」
違わない。決して違わないのだけど……。僕は、どうしても、フローラをこの二人に預けたくはなかった。
ふと、フローラが僕の服を握りしめたような気がした。はっとしてちらりとフローラを見ると、僕の背中に顔を埋め、小さく呟いた。
「…………たすけて……」
……僕の答えは、その瞬間に決まった。もう一度前を向く。いらだったような二人の男女を交互に見て、そして、
「すみません!」
頭を下げた。
「……はぁ?!」
イラついたような声が耳をつく。僕は、頭を下げたまま、叫ぶように言う。
「ごめんなさい! フローラをあなた方に渡すことはできません!」
「なにいってるの!? その子は私たちの物よ! 誘拐したっていって、訴えてもいいのよ!?」
「違うんです! でも! でも……」
「でもなんだ! さっさと言わないか!」
……正直に言うのなら、僕の心のなかに、フローラをこの二人に返すと言う選択肢は微塵も残っていなかった。フローラのことを『物』と言ったこの人たちに、絶対、返したくなかった。
「僕は……お願いされたことは、出来るだけ、行動に移そうと思ってるんです。だから、無理です。少なくとも今は、無理です」
「意味がわからないな。俺たちは『親』なんだぞ!? それなのに」
「――だろ」
「…………あ?」
ふと、今まで黙り込んでいたポロンくんが口を開く。その目は出会ってから今までで一番するどく、男を睨み付けていた。
「嫌がることをやめない。悲鳴を無視する。あげくの果てには、『物』だって? ……ふん、笑わせんじゃないや。
そんなことを平気で言ったりやったり出来るやつがフローラの親だって? ――そんなわけないだろ」
「……ポロンさん…………」
しびれを切らした男が、声と右手を上にあげる。
「このやろう……俺らをバカにしやがって! エレキテルっ!」
「っ!」
……雷が、僕らに落ちることはなかった。
「……アリアさんの魔法かと思ったら、違うみたいだね。賑やかそうで何より」
「お、おい! 今の魔法って……」
「あ!」
そこにいたのは、テラーさんとアリアさんだった。
フローラがそう詠唱する。が、現れた光は槍にはならず、その場で弾けてしまった。
「うーん……やっぱり、テラーさんみたいにはいきませんね」
「いやいや、いきなりあれできたら僕ちょっと心おれるんだけど」
「相変わらず豆腐メンタルだなぁ、ウタ兄。おいらは全然いいもーん! あとから出来るようになればいいんだろ?」
「確かにそうだけどさぁ……」
「まぁまぁ、頑張りましょうよ!」
フローラはそうにこにこ笑って言う。……会ったときより、そうとう明るくなったなぁ。
アリアさんとテラーさんは、少し離れたところで雷魔法を使っている。スピードが命の雷魔法は、コントロールが光魔法よりも難しく、威力が上がるごとに、危険も高まる。今練習できるなら、したほうがいいだろう。
「よし! じゃあ僕もやってみようかな……フラッシュランス!」
僕の手から放たれた光は、ほんの少しの間だけ、槍状に変化した。しかし、飛ばすことはできずに、そのまま消えてしまう。
「すごいですウタさん!」
「いやぁ……上手くいかないなぁ」
と、そんな風に話していると、僕らの後ろから、知らない男性の声が聞こえた。
「…………フローラか?」
「え、あ……」
その声の主を見た瞬間、フローラの顔が凍りついたように見えた。僕も振り返り、その人を見る。
ごく普通の男性だ。隣には女性もいる。……夫婦なのだろうか? フローラの名前を知ってるってことは……。
あ、そういえばフローラの両親にまだ会ってなかった。この二人がフローラの両親なんだとしたら、探しに来たのかもしれない。
……それにしても、フローラのこの反応はなんなのだろう。会いたくなかった人に会ってしまったというような、違和感のある反応だ。
「こんなところで何をしているんだ。その人たちは?」
「えっと……その……」
「……なんでなにも言わないの? 心配ばかりかけて。本当にあなたは……」
男性は大きなため息をつくと、ずんずんと歩いてきて僕の横を通りすぎ、フローラの片腕を乱暴に掴む。
「やっ……」
「帰るぞ。こんなところで油を売っている暇はないんだ」
「いや……やだっ! やめてっ! 離してぇっ!」
激しく抵抗するフローラを見て、僕は思わず男性の手を殴り、フローラから引き離した。男性から開放されたフローラは、僕の背中にしがみつき、ブルブルと震えていた。
「……なんだ、お前は」
「ご、ごめんなさい! 思わず……。でも、こんなに嫌がってますし」
「はぁ……。そもそも、どうしてお前は嫌がる? 俺はお前の父親だ! 違うか?!」
「うっ……あぅ…………」
怯えたままのフローラは、僕から前に出ようとしない。……これは、何かあるんじゃないか。そう思った僕は、目の前の二人に向き合った。
「……えっと……失礼ですけど、お二人はフローラのご両親…………です、よね?」
「そうだけど? せっかく壁が消えたって言うのに、その子、こっちに来ないんだもの。わざわざ探しに来てあげたって言うのに……」
「…………本当に?」
「は?」
「す、すみません! で、でも……その、あまりにもフローラが嫌がってるので」
「だから! それはそいつのわがままだ! 俺らが親だ! 俺らにはそいつを連れて帰る義務も権利もある! 違うか!?」
違わない。決して違わないのだけど……。僕は、どうしても、フローラをこの二人に預けたくはなかった。
ふと、フローラが僕の服を握りしめたような気がした。はっとしてちらりとフローラを見ると、僕の背中に顔を埋め、小さく呟いた。
「…………たすけて……」
……僕の答えは、その瞬間に決まった。もう一度前を向く。いらだったような二人の男女を交互に見て、そして、
「すみません!」
頭を下げた。
「……はぁ?!」
イラついたような声が耳をつく。僕は、頭を下げたまま、叫ぶように言う。
「ごめんなさい! フローラをあなた方に渡すことはできません!」
「なにいってるの!? その子は私たちの物よ! 誘拐したっていって、訴えてもいいのよ!?」
「違うんです! でも! でも……」
「でもなんだ! さっさと言わないか!」
……正直に言うのなら、僕の心のなかに、フローラをこの二人に返すと言う選択肢は微塵も残っていなかった。フローラのことを『物』と言ったこの人たちに、絶対、返したくなかった。
「僕は……お願いされたことは、出来るだけ、行動に移そうと思ってるんです。だから、無理です。少なくとも今は、無理です」
「意味がわからないな。俺たちは『親』なんだぞ!? それなのに」
「――だろ」
「…………あ?」
ふと、今まで黙り込んでいたポロンくんが口を開く。その目は出会ってから今までで一番するどく、男を睨み付けていた。
「嫌がることをやめない。悲鳴を無視する。あげくの果てには、『物』だって? ……ふん、笑わせんじゃないや。
そんなことを平気で言ったりやったり出来るやつがフローラの親だって? ――そんなわけないだろ」
「……ポロンさん…………」
しびれを切らした男が、声と右手を上にあげる。
「このやろう……俺らをバカにしやがって! エレキテルっ!」
「っ!」
……雷が、僕らに落ちることはなかった。
「……アリアさんの魔法かと思ったら、違うみたいだね。賑やかそうで何より」
「お、おい! 今の魔法って……」
「あ!」
そこにいたのは、テラーさんとアリアさんだった。
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