チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
幻覚
テラーさんと侍さんの強さに圧倒されつつ、僕らは次の扉を開け放つ。
……長い長い通路。先が見えないほどの、長い通路だ。明かりはないのに明るくて、鳥の声が聞こえる。
「なんだここは……」
アリアさんが驚嘆したように声を漏らす。
「本当だな。でも、とにかく、進むしかねーのかな?」
「みたいですね。行ってみましょうか!」
僕はそっと後ろを振り替える。扉は普通にある。が、違和感がある。……あれだけの魔物がいて、二人の強い人が戦ってるというのに、一切の音がしない。何歩か歩くと、こつこつと靴が地面を叩く音が聞こえる。と、そこで気がついたのだ。
……おかしい。
だって、窓がないのに鳥の声は聞こえるし、足音も聞こえる。なのに、真後ろの扉から音は聞こえない。それほど厚い扉ではなかったはずだ。それなのに……こんなの、おかしい。
そう思って、その事を伝えようと前を向くと……。
――すでに僕しかいなくなっていた。
「……アリアさん? ポロンくん……フローラ!」
呼び掛けてみるが、返事はない。相変わらず長すぎる廊下に、僕はただ一人。
……一人になったのなんて、いつぶりだろう? こんな状況なのにも関わらず、僕はぼんやりとそんなことを思っていた。
改めて辺りを見渡す。やはり、誰もいない。そもそもここは、廊下なのか? ……多分違う。不安はあるけど、冷静に考えないと。
メヌマニエは、幻覚のスキルを持っている。僕は、それにかかっている可能性が高い。なら、見えないし聞こえないってだけで、どこかにいるはずだ。僕はそっと、耳をすます。と、後ろから肩を叩かれた。
アリアさんたちかもしれない。そう思い、振り向く。
そしてその顔を見たとき、僕は、冷静な思考を一瞬にして失った。
どうしてあいつがここに――!
パニックになった僕は、自分の顔がさっと青ざめるのが分かった。そして、やみくもに通路の奥に向かって走り出したのだ。
嫌だ……嫌だ、嫌だっ! 僕は、もう、お前とは関係のない人間だ!
と、走っていったその先の通路が、蕀の蔦で閉ざされる。戻ろうとしたら、すぐそこまであいつが来ていた。
『羽汰…………』
「違うっ! 僕は、違うんだ! 僕は――」
『羽汰、ウタ……』
頭がガンガンと痛む。目の前がぐらぐらとして落ち着かない。大丈夫、これは現実じゃない! 違う! 違うけど……。
僕はパニックになって、剣を抜いた。そして、あいつを切りつけようと、振り上げる。その腕を、別のなにかに掴まれる。
「やだっ! こ、こいつは! だって、もう、僕は!」
それでもあいつを切りつけようとすると、今度は体に何かが……。
「もぅ、やめてよ……! 僕は、もうあいつに縛られるのは嫌なんだっ! だから、だから……っ!」
ふと、僕をつかむなにかが、声をあげる。
「ウタ兄っ! 落ち着けよ! 目の前にいるのは、そんな怖いやつじゃねーよ!」
「ウタさん! 大丈夫です、大丈夫ですから! 剣を下ろしてくださいっ!」
その声にハッとして前を見ると、そこにいたのは、あいつじゃあなかった。アリアさんは心配そうに僕を見る。
「…………大丈夫か? ウタ」
「あ……りあ、さん…………」
安心したのと脱力したので、僕はその場に座り込み、頭を抱えた。スラちゃんがプルプルしながら僕の膝に飛び乗ってくる。
……あぁ、そうだよな。ここにあいつがいるわけない。そもそも、世界中どこを探したって…………。
「大丈夫かよ、ウタ兄」
「あ、あの。私、回復薬持ってますけど、使いますか?」
「ポロンくん……フローラ……スラちゃんも……。
ごめん。もう、大丈夫だから」
そう言いながら、僕は立ち上がる。体のどこかがおかしいわけではないのだ。単に、気持ちの問題だ。
振り向くと、廊下はいうほど長くなくて、もう向かい側の扉の前に来ていた。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。……メヌマニエの影響、だよね?」
「多分な。廊下を歩いていたら急にお前がおかしくなったからビックリしたんだ」
「面目ないです」
「ウタはそもそもメンタルが弱いからな。一人だけにかかってしまったのか?」
……まさか、あいつが出てくるとは思わなかったから。魔物とかなら、まだ冷静に対処できてただろうけど…………。
そうだ。そもそも、僕がこんなにヘタレになったのって……。
「…………」
僕が考え込みかけたその時だった。突然、目の前の扉がガタガタと震え、そして、開け放たれた。そして、僕以外の三人が頭を抱えて苦しみ始めたのだ。その場に膝をついて、うわ言のようになにかを言う。
「っあ! ……や、やだ! おいらは、いやだぁっ!」
「ポロンくん……!」
「……っくそ…………」
「…………」
きっと幻覚だ。僕は一度受けたから、耐性でも出来てしまったのだろう。どうすればいいんだろう……。どうにかして、みんなを助けないと! でも、どうやって?
「……タ、さん…………」
「フローラっ?!」
フローラが頭を押さえつけながら言う。僕はかけより、か細い声に耳をすます。
「私……いや、なんです……。メヌマニエの、思い通りになんて、なりたく……ない」
「…………」
「……助けてください、ウタさん…………あなたの、『勇気』で」
どうしてフローラが『勇気』のことを知っていたのかはわからない。あるいは、この場合、文字通りの『勇気』だったのかもしれない。
「ウタ…………」
「アリアさん……」
「頭が……ガンガンして、いうことを聞かないんだ……。頼む」
……今、僕にしかできないことがある。
「……ウタにぃ…………」
「…………」
今動けるのは、僕しかいない。開け放たれた扉の先、禍々しい気配がして振り返った。するとそこには、巨大な目と、無数の触手を持つ、巨大な魔物だった。
しかし、その動きは異常なまでに遅く、僕は瞬間的に察した。
(これが、『転』か)
フローラが頑張ってくれてるんだ。僕が頑張らないわけにはいかないだろう。剣を抜き、呪文を唱える。
「……ライトっ!」
光で、魔物が怯む。
その隙を見て、僕は魔物を鑑定した。
……ねぇ、 。
前の世界で、出来なかったこと、やってみせるから。
……長い長い通路。先が見えないほどの、長い通路だ。明かりはないのに明るくて、鳥の声が聞こえる。
「なんだここは……」
アリアさんが驚嘆したように声を漏らす。
「本当だな。でも、とにかく、進むしかねーのかな?」
「みたいですね。行ってみましょうか!」
僕はそっと後ろを振り替える。扉は普通にある。が、違和感がある。……あれだけの魔物がいて、二人の強い人が戦ってるというのに、一切の音がしない。何歩か歩くと、こつこつと靴が地面を叩く音が聞こえる。と、そこで気がついたのだ。
……おかしい。
だって、窓がないのに鳥の声は聞こえるし、足音も聞こえる。なのに、真後ろの扉から音は聞こえない。それほど厚い扉ではなかったはずだ。それなのに……こんなの、おかしい。
そう思って、その事を伝えようと前を向くと……。
――すでに僕しかいなくなっていた。
「……アリアさん? ポロンくん……フローラ!」
呼び掛けてみるが、返事はない。相変わらず長すぎる廊下に、僕はただ一人。
……一人になったのなんて、いつぶりだろう? こんな状況なのにも関わらず、僕はぼんやりとそんなことを思っていた。
改めて辺りを見渡す。やはり、誰もいない。そもそもここは、廊下なのか? ……多分違う。不安はあるけど、冷静に考えないと。
メヌマニエは、幻覚のスキルを持っている。僕は、それにかかっている可能性が高い。なら、見えないし聞こえないってだけで、どこかにいるはずだ。僕はそっと、耳をすます。と、後ろから肩を叩かれた。
アリアさんたちかもしれない。そう思い、振り向く。
そしてその顔を見たとき、僕は、冷静な思考を一瞬にして失った。
どうしてあいつがここに――!
パニックになった僕は、自分の顔がさっと青ざめるのが分かった。そして、やみくもに通路の奥に向かって走り出したのだ。
嫌だ……嫌だ、嫌だっ! 僕は、もう、お前とは関係のない人間だ!
と、走っていったその先の通路が、蕀の蔦で閉ざされる。戻ろうとしたら、すぐそこまであいつが来ていた。
『羽汰…………』
「違うっ! 僕は、違うんだ! 僕は――」
『羽汰、ウタ……』
頭がガンガンと痛む。目の前がぐらぐらとして落ち着かない。大丈夫、これは現実じゃない! 違う! 違うけど……。
僕はパニックになって、剣を抜いた。そして、あいつを切りつけようと、振り上げる。その腕を、別のなにかに掴まれる。
「やだっ! こ、こいつは! だって、もう、僕は!」
それでもあいつを切りつけようとすると、今度は体に何かが……。
「もぅ、やめてよ……! 僕は、もうあいつに縛られるのは嫌なんだっ! だから、だから……っ!」
ふと、僕をつかむなにかが、声をあげる。
「ウタ兄っ! 落ち着けよ! 目の前にいるのは、そんな怖いやつじゃねーよ!」
「ウタさん! 大丈夫です、大丈夫ですから! 剣を下ろしてくださいっ!」
その声にハッとして前を見ると、そこにいたのは、あいつじゃあなかった。アリアさんは心配そうに僕を見る。
「…………大丈夫か? ウタ」
「あ……りあ、さん…………」
安心したのと脱力したので、僕はその場に座り込み、頭を抱えた。スラちゃんがプルプルしながら僕の膝に飛び乗ってくる。
……あぁ、そうだよな。ここにあいつがいるわけない。そもそも、世界中どこを探したって…………。
「大丈夫かよ、ウタ兄」
「あ、あの。私、回復薬持ってますけど、使いますか?」
「ポロンくん……フローラ……スラちゃんも……。
ごめん。もう、大丈夫だから」
そう言いながら、僕は立ち上がる。体のどこかがおかしいわけではないのだ。単に、気持ちの問題だ。
振り向くと、廊下はいうほど長くなくて、もう向かい側の扉の前に来ていた。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。……メヌマニエの影響、だよね?」
「多分な。廊下を歩いていたら急にお前がおかしくなったからビックリしたんだ」
「面目ないです」
「ウタはそもそもメンタルが弱いからな。一人だけにかかってしまったのか?」
……まさか、あいつが出てくるとは思わなかったから。魔物とかなら、まだ冷静に対処できてただろうけど…………。
そうだ。そもそも、僕がこんなにヘタレになったのって……。
「…………」
僕が考え込みかけたその時だった。突然、目の前の扉がガタガタと震え、そして、開け放たれた。そして、僕以外の三人が頭を抱えて苦しみ始めたのだ。その場に膝をついて、うわ言のようになにかを言う。
「っあ! ……や、やだ! おいらは、いやだぁっ!」
「ポロンくん……!」
「……っくそ…………」
「…………」
きっと幻覚だ。僕は一度受けたから、耐性でも出来てしまったのだろう。どうすればいいんだろう……。どうにかして、みんなを助けないと! でも、どうやって?
「……タ、さん…………」
「フローラっ?!」
フローラが頭を押さえつけながら言う。僕はかけより、か細い声に耳をすます。
「私……いや、なんです……。メヌマニエの、思い通りになんて、なりたく……ない」
「…………」
「……助けてください、ウタさん…………あなたの、『勇気』で」
どうしてフローラが『勇気』のことを知っていたのかはわからない。あるいは、この場合、文字通りの『勇気』だったのかもしれない。
「ウタ…………」
「アリアさん……」
「頭が……ガンガンして、いうことを聞かないんだ……。頼む」
……今、僕にしかできないことがある。
「……ウタにぃ…………」
「…………」
今動けるのは、僕しかいない。開け放たれた扉の先、禍々しい気配がして振り返った。するとそこには、巨大な目と、無数の触手を持つ、巨大な魔物だった。
しかし、その動きは異常なまでに遅く、僕は瞬間的に察した。
(これが、『転』か)
フローラが頑張ってくれてるんだ。僕が頑張らないわけにはいかないだろう。剣を抜き、呪文を唱える。
「……ライトっ!」
光で、魔物が怯む。
その隙を見て、僕は魔物を鑑定した。
……ねぇ、 。
前の世界で、出来なかったこと、やってみせるから。
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